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ゼロのアムニション  作者: ななし
13/48

13話

「そんなことがあったのか、出会って間もない俺なんかに話してよかったのか?」



聞いてみれば気になることがいくつかあったが、確証がない今俺がとやかく言うことじゃないだろう。


それにしても、気軽に話すような内容じゃないのによく話してくれたもんだ。



「いいのよ。少し聞いて回ったらわかる話だから、それからもずっと嫌がらせは続いてるんだ」



アイリスは諦めたように力なく笑った。

同情するような話ではある。それに傭兵のやり方も気に入らない。

深入りするつもりはなかったが、傭兵達が俺の害になるようなら傭兵達を探るついでに詳しく調べてやってもいいかもしれない。



「何があったのかは理解した。辛い話を話してくれてありがとうな」



「べっ別にいいって言ってるでしょ、おかわりいる?」



瓶を両手でもってそっぽを向いているが、心なしか頬が赤いようにも見える。


何か気にさわることでも言ったんだろうか、アイリスが怒るポイントがわからない。


俺はグラスを滑らせるように指で押して、アイリスにおかわりを催促する。



「そういやアイリスには妹がいたんだな。母親も妹も見当たらないが」



上の階にいる可能性もあるが、表であれだけ暴れまわったのに降りて来ないのは不自然だ。


あるいはどこかに出掛けているのかもしれない。

考えうる可能性としてはこれが一番高いように思える。


アイリスがグラスにおかわりを注いで俺の前に置く。



「あいつらが来るってわかってるのにママとナーレをここには居させられないわよ。私とママとナーレは領主様のお屋敷に住ませてもらってるのよ」



「なんだって?アイリス達は領主の屋敷に住んでるのか?傭兵達を雇ってるのは他でもない領主だろ」



領主が奴等を野放しにしなければ、こんなことにはなっていないというのに、恨んではいなんだろうか、そもそもなぜアイリス達が領主の屋敷なんかに住んでいるのか奇妙だ。



「私も最初は怒りをぶつけたりもしたのよ?だけど嫌がらせを受けてる私達が傷つかないように屋敷に住まわせてくれたり、ご飯だって食べさせてくれてた。

何より領主様はあんな傭兵しか雇うことができないのを悔いて何度も謝ってくれたから」



「そういうものなのか……まぁアイリスの考えを俺が否定するつもりはないけどな。だとしたら俺と関わるとまずいんじゃないか?領主に喧嘩売ったんだぞ?」



アイリスが俺と関わったことで、屋敷に住んでるアイリス達の立場が悪くなったりしたら目覚めが悪すぎる。

助けに入っておいて状況を悪化させてたら意味がない。



「それなら大丈夫だってば、領主様は話のわかる人だから蓮が悪くないってわかったら何もされたりしないわよ」 



「でもなぁ……」



「そんなに気になるなら明日領主様のお屋敷に行かない?」



「おいおい、勝手に屋敷に呼んじゃっていいのか?」



ちょっとうちに来ないかみたいな軽い感じで誘われると、考えて発言してるのか心配だ。



「一応お屋敷に着いたら私が先に入って大丈夫か聞きに入るけど、大丈夫だと思うわよ?」



「そこまで言うなら行ってみるか」



領主がどんな人が気になるといえば気になるし、会えるなら会っておきたい。


それに、この街の領主なら内情にも詳しいだろう。

何か師匠に関することが聞けるかもしれない。



「そういやアイリスに聞いておかなくちゃならないことがあるんだがいいか?」



「何よ改まって、私に答えられることなら答えるわよパパの話だってしたんだから今更じゃない」



「それもそうだな。なら聞くがザイード・アルバナスって名前に聞き覚えはないか?」



「ザイード・アルバナス?聞いたことないわね。誰なの?」



考えてはくれたようだがどうやら知らないらしい。

師匠が名前を名乗っていないなら師匠に繋がる可能性はない。

自分の情報を簡単に漏らすほど師匠はあまくはないし、第3者がもたらす師匠の情報にしても、名前を知らないなんてことは考えにくい。


師匠が気配を殺すのは獣なみだし、普段全身をフードで隠してるから、アイリスが見かけていたとしてもわからないだろう。



「俺の師匠なんだが、知らないならいいんだ」



「へぇ……蓮って師匠がいるのね。蓮があんなに強いなら師匠ってそんなに凄いの?」



アイリスは興味津々という感じで、カウンターテーブルに手をついて身を乗り出してくる。


アイリスはノースリーブの胸元は隠れた青を特徴としたワンピースを着ている。


それなのにどう見ても俺の拳よりも大きな胸が強調されている。



「ああ、凄いな……」



「ねぇ蓮?どこ見て言ってるのよ」



顔を赤くさせたアイリスがじとめで俺を見ていた。


俺としたことが冷静さをかいてしまった。

師匠と行動を共にしていた時は女っけがなかったから、女にたいしての免疫がないのかもしれない。



「ごっごめん。悪気はないんだ」



「……蓮は大きい胸って嫌い?」



「えっなんだって?」



「なんでもないわよ!バカ!」



アイリスは怒った顔で頬を膨らませてしまった。

ぼそぼそと何を言ってるのか聞こえなかったから聞き返したのに、まぁ胸に惑わされた後だし、バカと言われても何も言い返せない。



「話を戻すぞ……師匠が凄いかどうかだったよな。俺を基準にするなら、ハンデでもない限り1分もかからずに俺は負ける」



「そんなに強いんだ……蓮は歳いくつなの?ちなみに私は17よ」



「17だったのか、俺は18だけどそれがどうしたんだ?」



「嘘!?私と1歳しか違わないじゃない!なんでそんなに強いのよ!」



アイリスは納得いかないというふうに唸りだした。



「なんでって言われてもなぁあえて言えることがあるとすれば、自分にできることを必死に努力することだな」



「努力なら私だってしてたわよ。鍛練だって毎日かかしたことないし」



「そうだな。アイリスの魔装術式を見たからそれはわかる。だけどたぶん俺が言ってる努力とアイリスが言ってる努力は違う」



「何が違うのか教えなさいよ」



「んー、それは今のアイリスには必要ないものだな。もし本当に必要なら教えなくたってそこにたどり着く」



俺の言う努力とは出来ないことを出来ないと認めて、自分にいったい何ができるのかを考えて、地べたを這いつくばり、泥にまみれて光の見えない暗闇の中でもがいて、これがなければ何も残らない。


そんな強い思いがなければ俺の言う努力はきっとできない。


人は追い込まれなければ本当の努力はできない。


俺は努力したかったわけじゃない。

無能だったから努力しなければ何も手に入らなかっただけだ。

アイリスならそんな努力をしなくても、俺がアイリスに見せた強さくらいなら、いずれ手にいれてしまうだろう。


俺の力なんてのは時が流れていく中で、簡単に越えられてしまうような力だと思う。


どんな天才だろうといずれは踏み台にされ越えられていく、俺は無能の中の無能、俺の強さは仮初めの強さにすぎない。

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