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ゼロのアムニション  作者: ななし
12/48

12話

翌日、私は一人での鍛練を終えてママと妹のナーレと共に店に出た。

現実的には、朝から夕方までママが担当してお客さんが減り始めた頃に、私達に任せる方が売上はいいと思うんだけど、お店を任せられるほどまだ手際よくできないし、今はこれでやるしかない。


昨日あんなことがあったけど、朝からお客さんはいつものように来てくれた。

それどころか朝にしてはいつもより多い。

時々声をかけられて心配されたりもした。


みんな気を使って来てくれたみたいだった。

私は嬉しくて泣きそうになったけど、余計に心配かけたくないから笑顔を絶やさなかった。


この分なら大変だろうけど違約金は払っていけるかもしれない。


そんなふうに思っていた矢先、その人達はやってきた。



「邪魔するぜ」



ゾロゾロと何人もの男達が店の中に入ってくる。

腰には魔導銃が見え、物騒な雰囲気だった。



「あの……なんのご用でしょうか?」



ママはこの人達を知っている様子で話しかけていた。

もしかして、この人達がママの言ってた傭兵。



「なんの用もなにもわかってるだろ?違約金を支払ってほしいんだ。んっ?これ貰うぜ」



先頭で話している傭兵の人が勝手にお客さんのお酒を取ってしまう。

お客さんは何か言いたげだったけど、何も言わずに目をそらしてしまった。



「昨日もお話ししましたが、昨日お渡しした金額しか今はお支払いするお金はありません」



「あぁ!?たかだか金貨6枚じゃ足りないんだよ!」



男は声をあらげてまだ料理も残ったテーブルを蹴り飛ばした。



「うぁぁ!」



お客さんが驚いて椅子ごと後ろにひっくり返る。



「ちょっとあんた達なにするのよ!」



私は我慢できずに男を睨み付ける。

だけど、男は嫌な笑みを浮かべるだけだった。



「わりぃな。金を返して貰えないショックで足がすべっちまった」



「許さないっ!」



「おっと、おとなしくした方がいいと思うぜ?お前のママや妹に足がすべったらどうするんだ?」



私が魔装術式を発動させて立ち向かおうとすると、明らかにママやナーレを人質にしてきた。



「くっ卑怯よ!」



こんなこと許されるはずない。すぐに衛兵に捕まって処罰されるはず。



「んっ?その顔は俺らが捕まると思ってる顔だな?そりゃ無理だぜ?」



「何が無理よ!あんた達みたいな連中領主様がすぐに追い返してくれるわよ!」



領主様はパパを心配して助けるようにお願いしてくれた。

そんな人がこんな人達を放っておくわけがない。



「あはははっ!それこそありえねぇな。俺達を雇ったのは他でもねぇお前の言う領主様だ」



「……!」



「もう1ついいことを教えてやるよ。この街にいた傭兵は今日を最後にこの街から離れて変わりに俺達が居座ることになった」



「そんなどうしてっ!」



この街にいた傭兵は、大変さに見合うだけの報酬を貰えていなかったのに守ってくれているいい人達だった。


それがなんで急にいなくなるなんてことになるのよ。



「考えりゃわかるだろうが、見合うだけの報酬もないのに、イーヴィルアイなんて魔物が出てきたんじゃ去りたくもなるぜ」



「だったらなんであんた達は残ってるのよ!」



「おいおい、まるで俺達がいない方がいいみたいに聞こえるな?俺達がいなくなったら街の衛兵だけじゃ魔物は抑えきれねぇぜ?」



「くっ……!」



悔しいけどそれはこの男の言う通りだ。

街から傭兵が誰もいなくなったら被害は凄いことになる。



「俺達は領主様に頼まれて親切で残ってやってるんだぜ?どっかの役にたたない冒険者が倒せなかったイーヴィルアイを倒して尻拭いまでしてな。あはははっ!」



パシッ!



「いてぇな何しやがる?」



パパをバカにするなんて許さない!私が我慢できずに男に飛びかかろうとすると、その時にはママが目にいっぱい涙を溜めて、男の頬を平手打ちしていた。



「パパを侮辱するのは許しません……!」



「ああそうかい。でもな?お前に許しなんかもらう必要ねぇんだよ!」



男は激情してママを私の目の前で蹴り飛ばした。

その光景が私にはやけにゆっくりに見えた。



「ふくっ……!」



ママは声にならない声をあげて床を転がってうつ伏せになると動かなくなった。



「ママ!!」



私とナーレがどちらともなく叫ぶ、慌ててママにかけよるが意識はない。


私は周囲のお客さんに助けてほしくて見渡す。

それなのに、誰もが見て見ぬふりをして気まずそうに目を背けるだけ。



「こっちは穏便に済ませようと思ってたのによ。手を出されたんじゃ黙ってられねぇな」



「よくも……よくもママを……!」



私は飛びかかりたい衝動を唇を噛み締めて耐える。

痛みが全身に突き抜けて血の味が口の中に広がる。

私は動いちゃだめよここで動いたら、ナーレに何をされるかわからない。



「この店は客に手を出すようなふざけた店みたいだな?こんなとこに誰が好き好んで来るんだろうな?まさかこんな店に来たいやつなんていねぇよなぁ?」



男がそう言ってお客さんを睨みつけると、お代をテーブルにおいて逃げるように、誰もが自分を守るために私達を見捨てていく。



今までパパがどれだけ弱い人達を守るために戦ったか、なのに誰も助けてはくれない。


パパはこんな人達を守るために死んでしまったの?

こんな人達が当然のように守られて生きて、どうしてパパ死ななくちゃいけないの?


私は絶望を始めて体感した。

私がなりたかった冒険者はパパみたいな冒険者だ。

だけど、パパが守ろうとした人達は本当に守る価値があったの?

私がいったい何をしたの?

何か私が悪いことをしてこうなってるなら私はどうなってもいい。

謝るから、いっぱい、いっぱい謝るから許してよ。


パパを返してよ!

わからない……もうなにもわからない!



「なんだ金あるじゃねぇか、おい回収しろ」



先頭の男はそう言ってお客さんがテーブルに置いていったお金を回収していった。

すると、先頭にいた男は私の近くまで来て耳元で囁いた。



「今日のとこはこれで許してやるよ。また来るからな?」



私は呆然として何も言い返せなかった。

男達が出ていくのをただ眺める。

まるで私だけ別の場所にいるかのような感じがする。

パパにママを任されたのにママを守ることもできず、戦ってやり返すこともできない。


私はこんなに無力だったんだ。


パパはあんなに強くて私達を守ってくれて、私に出来ることなんて何もないっていうの?


教えてよ……私はどうしたらいいのパパ。

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