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イセカイ探偵ー閃木魁翔の事件簿ー  作者: 結佐
第1章 知らない天井だ
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知らない天井 4

「ん、おいおい部外者は立入禁止だぞ。」

「部外者、ねぇ。今日この部屋の主人と会う約束をしていた者なんだが、それでも部外者なのかい?」

「参考人ということか?よし、そこで待っていろ。」

「まあ参考人であることは間違いないんだが…まあちょっと待ってよ。フォリス君にクリス探偵だといえば分かるはずさ。」

「クリス探偵、だと?」


そういった瞬間、周囲のクースタシエたちの動きが一瞬止まると。


「総員確保ーー!!」


という掛け声とともに僕の隣にいた魔法使い探偵、もといクリス探偵の身柄が拘束されたようである。


「…うーん、これは一体何事なんだい…?」


と、クリスのぼやきが聞こえる。次いで、家の中から身長が高めの男が出てくる。


「おーやおや、クリス探偵。わざわざそちらから出向いてくるとは。」

「ゲッ……アストリム・クースター…なるほど、そういう事件なわけか。カイト!僕の代わりに事件を解決してくれよ!」

「おいクリス、暴れるんじゃない!」

「ああくっそ!堅物で脳筋のアストリムめ!いいかカイト!僕は君を部屋に運んでから起きて僕の目の前に現れるまでずっと見てたからな!伝えたぞ!」

「誰が脳筋だ!さっさと連れて行け!」


と、男がそう言い放つと、イエッサー!とクリス探偵はどこかに連れていかれてしまった。


「あれはもう逮捕されているのでは…?」


僕のつぶやきは青空へと消えていった。





「それで?お前のような変な格好の男があの奇抜な魔法使い探偵の助手だというのか?」

「ああ、そうだ。」

「ふん、まあいい。それなら調査をしてもいいが、あの男の疑いは晴れんからな。せいぜい足掻くといい。」

「どーも。」

「ふん、あの男の周りには礼儀を知らんやつしかおらんようだ。まったく。」


件のアスなんちゃらとかいう男と、僕は話をした。

どうやら、今回の事件はあの男が犯人最有力候補だったらしい。

逮捕しに行く前に向こうからやってくるとなればあの騒ぎも頷けるというものだが…。

それにしてもアスなんちゃら、個人的に恨みがあるようだ。


「あああああ、遅れた!おい君!クリス探偵は!?」


と、息付く間もなく今度はまた別の男が走ってくる。


「あんたらが今しがた捕まえていったろう。」

「な、なななななななんだってぇぇぇ!?」


暑苦しい男である。天然パーマの焦げ茶色の髪の毛で、太めの眉毛が特徴的だ。


「だ、誰が!そんなことを!」

「アス……なんちゃらだ。」

「あ、あ、アストリムウゥゥゥゥ!!」


言うが早いが、僕が「そうそう、そんな名前だ」と言う暇もなくどこかへと消えていった。


アストリムなんちゃらが言うには、操作をしてもいいらしいので、遠慮なく中を見させてもらうことにした。


血だまりがまず、目に入った。とはいえ、血の量から見て死ぬほどではなさそうだと判断する。出血があるということは、おそらく人為的な傷による出血だ。


ここで部屋を見渡す。特に刃物らしきものは目に入らない。ところが、先程のクリス探偵の家の中の部屋のごとく、家具の殆どが壁に引っ付いている。天井がやけに高い。つまり、限られた土地の中で部屋を広げる方法として、件の重力を操る魔法を使っているのだろう。


…床面に血痕。なるほど、クリス探偵が犯人候補になるのも頷けるというものだ。


だとすると、アスなんちゃらはクリスがそういう魔法を使えるということを知っている、ということか。そしておそらく、部屋主もその魔法を使える。


実は、ポピュラーな魔法なのかもしれないな。


しかし、先ほど体験した魔法と同種の魔法がかかった家で捜査するとは。あの探偵、実はわかってたんじゃないか?もしかすると本当に犯人なのかもしれないな。


けど、確定はできない。ただ、アリバイってことを考えれば、僕のことをずっと見ていたと考えると犯行はおそらく不可能だし、逆に言えば、あの言葉が嘘だとして、僕を監視していなかったのであれば、多いに犯行は可能だろう。


とはいえ、気絶していたとはいえ素性のわからない人間を家の中に入れておいて犯罪を犯しに外出するかという話だ。


そんなことをする度胸があるのはよほどの馬鹿かサイコパスくらいなものだろう。

…可能性の一つとして無い訳では無いな。


次に見るところといえば、窓だろうか。と、天井の方(まどろっこしいが、血痕がある部分を床だとすればの話だ。)を見やれば、電話機っぽいものが見える。

この電話機、魔法式遠隔対話機というらしい。長いのでマジフォンと略称する。


マジフォンがあそこにあるということは…。


被害者を害した方法は理解した。


ただ、犯人はわからないな。ここまでは、アスなんちゃらも分かったんだろうし、重力を用いた魔法を利用した部屋だということを知っている上、被害者と面識がある人間が犯人だ。だとすればクリスが犯人として候補に上がる理由は分かる。


さて。気は進まないが仕方ない。ほかに犯人の条件に該当する人間が居るかどうか、調べてみるとしよう。





「お、いたいた。」

「あ、先ほどの。ところで君は誰ですか?」


と、先ほどの暑苦しい男を見つけたので話しかけた。

見ればアスなんちゃらと話をしていたようだ。


「その男はクリス探偵の助手らしい。」

「そうなんですか!これはこれは。私はフォリス・クースター。以後、お見知りおきを!」

「ああ、うん。僕はカイト・ヒラメキだ。聞きたいことがあるんだが…。」

「聞きたいことですか。分かりました。ではアストリム、クリスさんには一応話を聞いておいてくださいね。」

「あいつが犯人で間違いないといっているのに…まったく。わかった。では後でな。」


そういうと、アストリムはどこかへ消えていった。その後、フォリスに聞きたいことを訊ねた僕である。


ちなみに、後で聞いた話だが、クースターとは名前ではなく、クースタシエの偉い人、つまりは、警部のことらしい。


自己紹介もほどほどに、早速事件の顛末を教えてもらったのである。


フォリスが言うには、「今回の事件、身内の犯行らしいんです。被害者は死にはしなかったものの意識不明です。それで目撃者もおらず、犯人を指名手配することすらできずに困っているんです。」とのことだ。


被害者は30歳くらいの男性。思ったとおり、外傷は頭部への打撲だけらしい。


「なあ、魔法の効力を無効化するためにはどうすればいいんだ?」

「うん?ええと…アンチ・マジックを使うしかないかなぁ。」

「なるほど。それじゃあ、重力を操作する魔法ってのはある?」

「ええ、それはありますね。今回の被害者もそうですし、知っていると思いますがクリス探偵も使用できます。…というか、なんでそんなことを?」

「犯人の条件がそれだからさ。重力操作の魔法を使える、もしくは、その魔法を無効化できる人物が犯人で間違いない。被害者と面識がある、もしくはマジフ…魔法式遠隔対話機でこの部屋に通信できる人間が居れば、さらに犯人として疑いは濃厚だ。」

「えっ、そうなんですか!?理由は?」

「分からないのか。被害者の居る部屋は重力操作の魔法によって、床を壁として使っているんだ。」

「ええ、それはわかりますよ。」

「じゃあたとえば、被害者があの天井付近に設置されている対話機で誰かと対話している最中に魔法を無効化、もしくは重力を操作されたらどうなる?」

「そりゃ頭からまっさかさま…ああ!なるほど!!…いや、でも、重力魔法を扱える人は少ないんです…それに、アンチ・マジックも、やはり同じ魔法を使えないと不可能です。だとするとやっぱり…。」

「ああ、クリスのことか。あいつは犯人じゃない、と思う。事件があったのはいつだ?」

「ああっと…」

と、フォリスが言葉を紡ごうとしたときである。


「それはお前が来る3時間前だよ、助手。」


と、どこから現れたのか、アストリムが姿を現した。


「アストリム!クリスさんから話は聞きましたか?」

「ああ、聞いてきたよ。あの忌々しい探偵め。僕が犯人じゃない理由は助手に聞けば分かるから絶対話さないぞ!の一点張りだ。」

「そうでしたか。それで…」

「ああ、僕たちがこの現場にくる3時間前に事件が起こったって言うなら、間違いなくクリスは犯人じゃない。なぜなら、僕とあいつはゲームをしている最中だったからな。」

「ええっと、つまり、あなた方は一緒に居たと?」

「そういうことだ。それも、あの変な木の家の中で、だ。」

「そんな言葉が信じられるか。」

「信じる信じないは勝手だが、仮にも探偵のクリスが事件を起こした現場までのこのこと現れると思うのか、アストリム?」

「…確かに、そうだ。」

「もし僕がクリスだったとして、こんな犯罪を侵したって言うんなら、少なくとも呼ばれるまでは現場にはいないさ。それどころか、事件を起こした直後に遠い場所に逃げてるよ。」

「それはまた、なんでだ?」

「事件当時にはこの町に居なかったということにすればいいからさ。少なくとも、事件の種まで知っているんだったらここに来ることはおろか、家にだって居たくないな。」

「…そりゃあ、そうか。分かった。おいお前、クリス探偵の拘束を外しここに連れて来い。」


と、目の前を通り過ぎようとしたクースタシエの一人にアストリムが声を掛ける。


「はっ。…あ、いえ、クリスさんは今回の事件の犯人として拘留しているはずでは…?」

「その犯人から外れたんだよ。いいからさっさと連れて来い!!」

「い、イエッサー!」


なかなか人使いの荒い男だ、と僕は思う。


そして20分ほどしたところで、探偵クリスがすさまじく不機嫌そうな顔でクースタシエと共にこの現場に再登場したのであった。

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