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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
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8.赤髪の少女の独白

 あたしはフリーダ。キュートな赤毛の、花も恥じらう十五歳よ。

 あたしは神様に愛されてる。どれくらい愛されてるかって言うと、火打ち石を忘れて「どうしよう、火がつかない」って呟いたら火種に火がつくくらいね。

 ……冗談じゃないわよ?ほんとにあったんだから。

 生まれは港町のトーキィーで、地元の神様は勿論水神よ。驚いたのはこっちだっての。

 みんな、無闇に神様に頼っちゃだめよ? 色々と大変なことになるから。



 小さい頃から神様に愛されてて、周りからもチヤホヤされてたけど、あたしはずぅっと、誰かに呼ばれてる気がしてた。

 誰に呼ばれてるのか分からないけど、きっと神様ね。いつか大人になったら会いに行くから少し待ってね。


 ……って思ってたんだけど、ある日、三年くらい前かな?突然呼ぶ声が強くなったの。


 もういても立っても居られなくて、家を出ていきますって親に言ったの。

 そりゃあもう、すごい勢いで止められたわ。世の中あたしみたいな小娘が一人でやっていけるほどあまくないって。

 神様に呼ばれてる、探しに行かなきゃいけないって何とか説得して、行商をしてる叔父さんと行動するならいいって許可を貰った。でも叔父さんが戻ってきたのまるまる一年後だったのよ!ひどいと思わない!?その間あたしはずぅっとやきもきしながら神様の声を聞かなきゃいけなかったのよ!?!



 で、まあ時間はかかったけどなんとか探しに出れて、行商の行先行先で神様に聞いて回るのよ。「あなたがあたしを呼んだんですか?」って。

 聞くたびに風の神様は歓迎してくれるし、草木の神様は花を咲かせてくれたけど、でもやっぱり違う・・の。何が違うかは言葉にし辛いんだけど……そうね、道端でたまたますれ違った男にナンパされてる気分が近いかしら?

 いろんな国で残らないかって言われてきたけど、全部断ったわ。いったいどの神様があたしを呼んでるのか知らないけど、見つけ出すまで他のことに寄り道していらんないのよ。


 叔父さんの商売は順調だったわ。「フリーダのおかげだ」って言ってたけど、あたし次の行商の時は多分いないわよ?


 だけど九つ目の国、フランツェに入る直前の森のあたりで、魔獣に襲われちゃったの!

 サンドルフの聖火使いを雇ってたのに魔獣ってなによ、勘弁してよ。

 その時の光景はしばらく夢に見たわ。

 蹴散らされる炎、踏みつけられる聖火使いに丸かじりされる叔父さん。あたしはガタガタ震えて動けなくて、全員を踏み潰して食い殺した魔獣は最後にこっちにきたの。

 正直自分が何を言ったか分からないんだけど、多分助けてって叫んだと思う。もしかしたら助けて神様って言ったかもしれない。


 そしたら、突然魔獣に雷が落ちて燃え始めて、のたうち回る魔獣を風が縛りあげて、水の膜が檻を作ってた。

 気付いたら黒焦げなのに水でべちゃべちゃになった魔獣の骸が転がってた。

 何言ってんのかわからないかもしれないけど、あたしにも良くわかんない。多分神様だと思う。



 本当に、無闇に神様に頼っちゃ絶対にダメだからね?



 で、まぁそういうことがあって、故郷も離れすぎてて帰れないし、あたしはとりあえずフランツェの首都を目指した。何をするにも一人じゃ無理だからね。

 そしてまあ、色々あって……えっと、フランツェの神様のマイミリクがちょっと張り切りすぎて、砂漠の国に雨が降って、同い年くらいの男の子に捕まって、エルフのおばさんに連れられて王宮まで行って、そこの偉い人にいろいろ言われて借金を負って、あたしのことを捕まえたユーリって男の子と一緒に旅をすることになったわ。


 ……こうして言葉にしてみると、本当に意味分かんないわね。これ、たった三日で起こった出来事なのよ?

 捕まったときはもうだめだと思ったけど、本当にユーリには感謝してるわ。


 彼が一緒に出てくれるかどうかは正直賭けだったけれど、なんとか承諾してくれてよかった。

 ほぼ初対面の男と一緒に旅するなんてって思われるかもしれないけど、ほぼ初対面のおそらく犯罪者の女を駐屯所にも連れて行かず、話を聞いて、話のわかるエルフのところに連れて行ってくれる人なんてそういないわ。


 ――それに、



 サボナの肉厚の葉とラバン肉を炒めていたあたしと同い年くらいの茶髪の男の子、ユーリは、炒める手を止めて鉄鍋を火から降ろした。

「ご飯できたよ」と笑いかけてくる声に、私は思考の海から意識を戻した。

 皿に乗った炒めものを受け取る。ユーリは料理がとてもうまい。……固い黒パンばかりはどうしようもないけど。


 彼は加護を持ってないと本人は言っているけど、多分違うと思う。

 彼が何かの祝詞を唱えるたびに、剣で舞う度に、賛美歌を歌う度に、心がひどくざわつくのだ。


 違う、そうじゃないと叫んで止めたくなる。


 どこかの神様に愛されすぎているんじゃないかと、あたしは勝手にそう思っている。


「次はどこに行こうか?」

 食事をしながらユーリが言う。

「そうね……今から雪国に向かうと雪で閉じたところで冬を越すことになると思うけど、経験ある?」

「ない。サンドルフはそれほど雪が深くないから」

「じゃあ北に向かうのは春を待って、それまでに南側の国を幾つか回ったほうがいいわね」

 あたしの返事になるほどと返して、ユーリは地図を広げる。

 教えた八つの加護がどの国のものなのか確認しながら、近くで二人とも行ったことのない国をいくつか取り上げて、街道を調べる。



 あたしとこいつの行き先は、多分同じだ。


 なぜかはわからないけど、勘がそう告げている。

 神様に愛されているあたしは、こういう勘を第一にしてる。


 あたしとこいつの旅は、まだ始まったばかりだ。




とっても神様に愛されちゃってる、フリーダちゃんです。


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