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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
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7.砂漠の国 陸

 「あたしも一緒に、行ってもいいかしら」


 赤髪の少女、フリーダがこちらをまっすぐに見据えてそう言った。言葉は問いかけだけれど、口調や表情から彼女の中ではすでに決定事項であることが見て取れた。


「私からも、お願いするわ」


 空色の髪の女性、シェビィさんもそれに追随する。さっき彼女が言っていたお願いというのはこのことのようだ。


 僕はというと、困っていた。

 いやだって、普通に考えて困ると思う。男女二人旅とか外聞のよろしいものじゃないし、フリーダにだって家族がいるんじゃないだろうか。

 ――あ、そうか。


「えっと、フリーダはここの生まれじゃないんだよね? どこから来たのか知らないけど、家族か護衛と一緒じゃないの?」


 当たり前だけど、女性一人旅というのは危険だ。魔獣や野盗も出るし、女性一人では荷物もそんなに持てないだろう。今まで考えが及んでいなかったけれど、ここまで一緒に来た人がいるはずだ。

 そう思って問いかけると、フリーダは翡翠色の瞳を少し伏せて、


「トーキィっていう東の港町から来たわ。叔父の行商に相乗りしていたんだけれど、フランツェの手前の森で魔獣に襲われて、生き残ったのはあたしだけだったわ。

 本当はこの街で別の行商に相乗りするか、護衛を雇おうと思っていたんだけど……」


 きゅっと目をつむり、ふわりとした赤髪が象牙の肌にかかる。一瞬口を開いては閉じ、紡ぐべき言葉を探していた。


 まあなんとなく、言わんとしていることは分かる。

 フリーダの今の身分は、どう言葉を取り繕っても、法と契約書によって縛られた犯罪者・・・だ。罰金の支払いが終わってきちんと綺麗な身になるまでは、僕が行商人ならなるべく同行したくない。

 そして傭兵や冒険者というのは験を担ぐ生き物だ。魔獣に襲われて壊滅した行商の生き残りの護衛なんて、高く付いてしまう。行商の叔父についてきただけというなら彼女自身にツテはないと見ていい。安心できる徒党を雇おうと思ったら仲介料も弾まないといけない。支払いが残っている状態だし、なるべく出資を抑えて旅をする必要があるのにそれはまずい。


“一人旅”で、“神様を探すため”に“行ったことのない土地を目指す”僕は、旅の連れ合いに非常に都合がいいのだ。

 どうしたものか。


「……僕のメリットは?」


 非常に冷酷な言い方になってしまったけれど、こればかりは仕方ない。安請け合いはできない。

 フリーダはぱっと顔を上げ、翡翠の瞳が僕をまたまっすぐに見つめた。



「――ひとつは、旅程での資金調達が楽になるわ。あたしは今八つの加護を扱える。加護がなくて安請けの力仕事しかできないユーリよりは、旅費に余裕は作りやすいでしょう?」


 ぐっさり。

 いやその通りなんだけど、言われると辛い。その通りだけど。

 短期契約や日雇いは加護の力を扱うものほど高額で、単純な力仕事ほど低額なのだ。いや正確には、単純な力仕事も普通の人なら加護で補えるから、時間対賃金の計算をすると力仕事のほうが高額なことも多い。ただし僕は加護が使えないから時間がかかって、結果的に低額なのだ。


「つまり、僕の旅費を負担するってこと?」

「できれば、財布を一つにまとめて二人で稼いだ分を二人で使う、という風にしたいわ。そっちの方が早く旅ができるし、無駄がなくなるから。結果的にあたしのほうが多く出金することになると思う」

「ああ、うん、そうだね」

「もう一つは、あたしの知っている八つの加護を教えてあげる」

「え?」

「自分の神様を探してるんでしょう? 生まれた土地の神様なら多少離れた国でも使えるわ。あたしが教えて使ってみて、全く反応がなかったらその国は諦められるから、旅程が更に短くなるわ」

「いや、ありがたいけど……それで僕の神様が見つかったら、僕の旅はここで終了だよ? いいの?」

「えっと、すごく言い辛いんだけど、言うのが誠意だと思うから、一応言うわね?」


 フリーダはほんの少し上目遣いに、困ったような悲しむような哀れんだような、たいへん微妙な表情をした。

 やめて、待って、すごく嫌な予感がするから聞きたくない。


「あたしの八つの加護に、ユーリの神様はいないと思うわ。でもあたしの言葉だけじゃ信じてもらえないと思うから、一応試したほうがいいかと思って……」


 予想していた言葉に僕はがっくりと項垂れる。


「一応聞くけど、なんでそう思うの?」

「勘、としか言いようがないわね。でも、絶対に違うって思っちゃうのよ」

「悪いけれど、それには私も同意ね。ユーリくんにはマイミリクの加護は使えないと思うわ」


 ぐっさりと心にナイフが入ったあと、シェビィさんが追撃で塩をふりかけてくる。

 神に選ばれた神子と、神の眷属の末裔であるエルフからの、泣きたくなるほどありがたいお言葉である。


「そ、それで、デメリットは契約書でしばられた犯罪者として扱われる君を連れないといけないことと、魔獣や野盗が出たら君を守りながら逃げるなり戦うなりしなきゃいけないってこと、か」


 ぐさりと刺さったナイフを鋼の魂で無視して、僕は続ける。


「前者についてはその通りね。でも後者については、あたしは多分戦力よ?」


 へ?


「八つの加護を最低限の祝詞や祈りで発動できる加護使いが戦力じゃないとでも言うの? あたしは“護衛のいる行商を壊滅させた魔獣から単身で逃げ切った”のよ?」


 そこから先は一人で首都まで来てるんだけど?と、何いってんのこいつという顔をされてしまい、もう言うことがなかった。







 八つの神と、そのあとシェビィさんに教えてもらったマイミリクの加護は、全部不発だった。




フリーダと旅をすることになりました。

女の子の描写ってむつかしいです。

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