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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
西大陸篇
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26.アーメイルの牙 伍

2016/0619 サブタイトルを変更しました。

 程よい疲れと少し飲んだお酒のおかげか、昨晩はぐっすりと眠れた。

 どれくらいぐっすり寝たかというと、フリーダに起こされたくらいだ。本気で焦った。もう昼とかなのかと思った。

 慌てて外を確認するとまだ日はそんなに高くなくて心底安心して、フリーダに「何をそんなに慌ててるのよ?」と若干怖い笑顔で凄まれた。



「二日分の食料、水、携帯燃料、ロープとナイフに布はあるから……こんなものかしら?」


 フリーダが市で買い足したものを背負袋にしまって指折り確認する。


「多分。じゃあ昨日の酒場で合流して、足りないものがないか確認しようか」


 街についた四日前より明らかに人と飾りが増えている大通りを抜ける。露天の数も増えているようで、道の半分ほどしかなかった出店が今日は奥の方まで続いていた。


「お祭りって感じになってきたわね」

「あと五、六日くらいだっけ。間に合うかな」

「終わる前には帰ってきたいわね」


 なんとなく気分が沸き立つように足元軽く道を行く。

 そういえば待ち合わせとかちゃんと決めてなかったけど、いなかったらどうしよう? 酒場の人に<アーメイルの牙>と待ち合わせてるって言えば通じるかな?



 なんて心配してたけど、全く必要ありませんでした。



 酒場の前に馬車が停まっていて、ギルベルトが見覚えのある長い銀髪と、薄紅色の髪の女性二人と話し込んでいた。

 ルイスがこちらに気づいて手を振ると、三人が一斉にこちらを見る。


 クリスさんの顔がぱあと明るい笑顔になるのが見えた。エリシアさんもニコリと笑顔を深める。なんだか瞳がギラギラしているようにみえるのは日差しが強いせいだろうか。


「お待たせしてしまいましたか?」


 二人を見てさっと僕の後ろに隠れたフリーダを気持ちかばいつつ、声をかける。


「いや、思ってたより早いくらいだな。準備はできてるか?」

「多分大丈夫だと思いますが、こういう遠征は初めてなのでちょっと確認していただきたいです。あー……フリーダ、ルイスさんと荷物に不足がないか確認してくれる?」

「まかせて!」


 フリーダが喜々として輪を抜けて長柄を引っさげている茶髪の男性の方へ走っていく。ちょっとくらい躊躇して欲しかったと内心ため息を吐きながら三人に向き直る。


「昨日ぶりですねユーリ君。ああ、本当は君たちのところについていって話を聞いていたいのですけれど、うちのわからず屋ど……んん、上司たちは主力の様子を見ろと言うもので……」


 どう見てもわからず屋はクリスさんである。ただの押さえの僕達を監督する必要なんてかけらもない。


「ちゃんとお仕事に注力してください。えっと、そちらが貸していただける馬車ですか?」

「ええ、馬もそれなりのものです。飼料はすでに積んであります。足りない場合は村で買い足して、あとから請求してください」


 エリシアさんが深い笑みのまま返す。


「主力部隊の突入は三日後の早朝からを予定しています。それからこちらの魔術具を」


 青と赤と黄色の三つの石を渡される。


「こちらで持っている石と対になっていて、片方が壊れるともう片方も壊れます。準備・・が終わったら青い石を壊してください。黄色の石が壊れたら作戦終了、何か不足の事態が発生した場合は赤い石を壊して、シャナヤグ村に撤退してください。赤い石が壊れた場合も同様です」


 単純で便利な魔術具だ。ギルベルトが石を分厚い布の袋にしまう。


「合図がない場合は?」

「想定作戦時間は五日間。それを過ぎても作戦終了の合図がない場合は作戦失敗とみなして即時撤退です。街まで引き返してギルドへ報告をお願いします」

「了解した。グランド、頼む」


 袋をグランドに渡す。後衛の道具係りだから、確かに適任だろう。

 グランドは三つまとめて袋に入っていた魔術具を一つ一つ個別に袋に詰めなおしている。


「それでは、私達も出立の準備がありますのでこれで。――あなたにグランフルースの風が吹きますように」

「ああ、グランフルースの風が我々を導きますように」

「それではユーリ君も。終わったらぜひお話を聞かせて下さいませ」


 そう言い残して二人は去っていく。

 グランフルースってどこかの神様の名前だろうか。聞いたことのない挨拶だった。


「終わった?」


 学術都市の二人がいなくなったところを見計らってフリーダが駆け寄ってくる。


「終わりましたよ。そっちは? 足りないものはあった?」

「多分ないと思う」

「夜にでも、ナイフは少し研いだほうがいいかもしれないねえ」

「あう、ごめんなさい」

「いやあ、駆け出しの割には良く出来てるよ。正直山を歩かないなら十分だね。ああ、あとね」

「はい」

「さん付けは禁止ね」

「え?」

「だから“さん”付け禁止。名前が長くなるし、反応も遅くなるから。全員さん付け禁止。いいね」

「あ、……はい」


 よくわからないところでダメ出しを食らいつつ、馬車に乗り込む。御者はフェイとディートが交代でやるそうだ。



 そこそこ大きな馬車だと思ったのだけど、九人分の荷物と飼料を積んで八人が乗り込むと、結構手狭だった。

 ガタリと音がして馬車が動き出す。

 門で一応の検閲(学術都市の依頼だと言ったせいか、ちらっと中を覗くだけでほとんど見てなかったけれど)を受けて外に出る。張られた幌の隙間から今日も今日とて並ぶ馬車が見えた。


「あんまり揺れねえな」


 ディートが意外そうに言う。この辺りは道が舗装されているせいもあるだろうけれど、確かにあまり揺れない。


「車輪に特殊な魔獣の革を張るとこうなるんだよ。いい馬車よこしたな。よっぽど好かれてんのか」


 グランドがこちらを見てにやりと笑う。


「そこなイロオトコ、どうやって美人学士を二人も引っ掛けたんだい?」


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