23.アーメイルの牙 弐
2016/0619 サブタイトルを変更しました。
「へーえ、駆け出しかあ。懐かしいねえ」
「いい武器持ってんな、東のミスリラってやつか?」
「え、まじ? 見せて見せて!」
「細っこいなお前。ちゃんと食べてんのか?」
「それはお前が太いだけだよ、減量しろ」
「あんだとてめえ」
「お、やんのか?」
「やるなら外でやってよ。またテーブルを壊す気?」
「あれはお前の仲裁(物理)のせいだろうが暴力女」
「よし、死にたいらしいわね」
会議のすぐ後、まだ日も高い酒場に三人の女と六人の男。卓には木皿が並び、一番大柄な男の持つ木杯からは酒精が漂っている。やいのやいのと息もつけぬ会話が飛び交い、
僕達二人はその雰囲気に気圧されて若干引いていた。
「すまんな、いつもこんな調子なんだ」
周囲の会話を軽く流しながら、ここに誘った張本人、黒髪黒眼の双剣使いのギルベルトが声をかけて来た。
会議の後、飯でも食いながら徒党の紹介をしたいのだがと切りだされたので二人でついてきたのだけど、なんとも混沌とした集団だ。
ここに来るまで厳格で寡黙な人のように思っていたのだけど、徒党メンバーと一緒にいる時は随分おしゃべりな様子なのも驚いた。
「大所帯の徒党は初めてなので、ちょっと驚きます」
「うちは七人だから、徒党としちゃ中規模だがね。多いとこだと二十人くらいいるんじゃないか?」
「そんなに管理できるの?」
「中で五~十人くらいのチームを二、三作って、多方面に展開するんだ。大物狩りの時は交代しながら長期戦ができるし、小鬼の巣を潰す時に漏らしもないし、遺跡あさりもし易い。大きな依頼がないときは普段は殆どバラバラの徒党のように活動してる奴らもいる。
――あーおい、そのへんにしとけ。本当にテーブルが壊れる」
睨み合っている三人の間にギルベルトが入って仲裁する。
「ま、なにはともあれ紹介しよう。とりあえず俺がこの荒くれ者共のリーダーをやってる、ギルベルト。双剣使いだ。前に出て撹乱する役だな。
奥のお前の剣を見てる青髪の女が弓士のマリン。場合によっては火矢や毒矢も使う」
「はーい、よろしくね! 当たんないように気をつけて~」
「当てるなよ? フリじゃないからな?
隣の金髪男が薬師のグランド。うちのサポーターだ。常備薬から毒薬、罠の管理を一任してる。ああ、フリーダ、こいつにはあまり近づかないように」
「えええ! リーダーひどくない? あ、俺がモテるからって嫉妬?」
「お前の頭ほどはひどくない。
向かいの茶髪がルイス。うちの副隊長で、短槍から長柄まで使いこなす槍士だ。棒術も使う。戦闘時は中衛だな」
「今回はどっち持って行こうねえ」
「両方あったほうがいいと思うが、任せるよ。
あーそっちの灰色髪の女がフーラ。片手剣片手盾の剣士だ。うちのエースだな」
「そっちの男の子も剣士なんだよね? よろしく」
「で、そっちのデブがディート。大盾持ちの肉壁だな。武器としては槍か棍棒を持つことが多い」
「デブじゃねえって! がっしりしてるだけだって!」
「うるせえデブ。盾から肉がはみ出てんだよデブ。ちったあ痩せろ。
で、最後のそのひょろっとしてる緑髪がフェイ。ナイフと短弓を使うが、主な仕事は斥候だ」
「一番の武器はこの足だけどな!」
頼りにしてるぜ、と返して、ギルベルトはもう一度ぐるりと全員を見渡す。
「以上、<アーメイルの牙>前衛三人、中衛一人、後衛二人、斥候一人の七人徒党だ。そっちの紹介も頼めるか?」
「はい。二人徒党で、僕がユーリ、彼女はフリーダです。僕が前衛の剣士で、彼女は後衛のサポーターです」
「後ろで、主に投石網を使って投擲します」
へえ、と弓士のマリンが面白そうに言う。
「投石網なんて渋いの使ってるね。駆け出しはみんな武器を使いたがるもんだけど」
「費用が安くて取り回しがいいものがいい、と師に相談したら、これがいいだろうって。弓も少し触らせてもらったんですが、全然当たらないのでとりあえず諦めました」
「良い判断だねー。弓は超練習必要だから、ちゃんと習得しないと採算割れしちゃうのよ」
かっこいいとか言ってやりたがる子が多くてね、と肩をすくめて笑う。
駆け出しの頃のお前みたいにな、とディートがからかい、アーメイルの牙の面々が笑う。余計なこと言わないでよ! と叫ぶマリンも笑っている。
「はいはいはい、そういう話は今度な、今度」
ギルベルトがパンパンと手を叩いて話を戻す。
「フリーダは撹乱用の道具は何か持っているか?」
「一応、匂いつきの砂で視覚と嗅覚を奪うものを持っていますが……しびれ罠のたぐいは仮登録冒険者じゃ所持できない場合があると聞いたので、持ってません」
「今回の依頼では必要に応じてうちから貸し出そう。で、ユーリ」
ギルベルトがちらりと目配せをすると、フーラがにいと口元を上げた。
「あたしと勝負しましょ」
ちょっと短いですが今回はここまで




