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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
西大陸篇
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18.忘却の神の玉手箱 伍

 遠くにいるリグリットという人間の子供ほどのネズミのような魔獣の頭上に小石が降り注ぐ。リグリットは威嚇のような鳴き声を上げ、こちらを赤い目でギロリと睨んだ。

 足音さえ感じない軽く素早い動きで突進してくる。前に出て剣構えると、リグリットは距離を取り鋭い歯をギチギチと鳴らしながら周囲を旋回する。


「いくわよ」


 後ろから少女の声がする。

 僕はさっと体を翻し正面を開けると、僕がいた場所のすぐ脇を何かが飛んで行く。

 彼女の打ち出したソレはリグリットに命中し、弾けて中の物が霧散する。

 恐慌状態になったリグリットがわけも分からずこちらに突っ込んできて、僕はまっすぐに走ってきたそいつの首を刎ねた。




「使えそうね」


 いつの間にか――どう考えてもガンツさんに弟子入りしていた時期だろうが――投擲を扱えるようになっていたフリーダが、解体をしながら満足そうに言った。

 やはりというか、解体の腕が上がっている。物によっては僕よりうまくばらせるんじゃないだろうか。


「投擲網に、石つぶてと砂爆弾か」


 僕はというと、躯を埋めるための穴を掘っている。綺麗に倒せたので毛皮を剥ぐ予定だから、埋めるの首とすぐに落とせる大きな骨だけなので小さめだ。


「距離がないと危ないから、ユーリが前にいなきゃできないわよ」

「にしても、よく出来てるよ。この砂爆弾」


 フリーダが投げた砂爆弾は、着弾と同時に解けるように工夫されている編み紐の中に砂を仕込む投石道具だった。

 砂には酢で匂いがついていて、鼻の良い獣ほどダメージが大きく、視覚と嗅覚が同時に奪われて知能の低い獣はパニックになりやすい。

 酢の匂いだとはじめからわかっていれば人間には何も痛いところがないのが、シビレ罠との違いだ。あと安くて検閲の問題もなく、街中でも安心して持ち運べる。


「本当は胡椒が一番効くらしいんだけど」

「そんなお金はありません」

「だよね」


 香辛料の類は高価なのだ。食料の保存のためならいざしらず、使い捨ての道具のために数の確保はできない。いざというときの緊急用に一つくらい持っておくことも考えたけれど、撤退しなければならないような強い魔獣や群生の獣には効果が無いことも多い。


 解体が終わったらしく、リグリットの首を僕の掘った穴に落とす。骨も放り込んで、ざーっと土をかぶせたら終了だ。まだ皮の裏側に肉がついてたりと処理が残っているけれど、そのへんは持って帰ってギルドの解体場を借りればいい。



 リグリットをもう一匹狩って、今日は撤退だ。近所によくいる魔獣の情報くらいしか持っていないから、本格的に狩りをするならもう少し下調べしなければいけない。



「旅座としてお金を稼ぐのも、今はいいかもしれないけど、お祭り終わったらお客さんいなくなっちゃうし他の芸人達との折衝もあるし、ちょっと微妙よね」


 今日も今日とて馬車の連なるリューイットの街門を見てフリーダが難しそうにつぶやく。

 先日の稼ぎは確かにものすごく美味しかったので、続けられるなら続けてもいいと思ったけれど。


「人が集まったら山狩りがあると思うから、それまでに戦闘なれしないといけないからなぁ」


 時間がない、と肩をすくめると、彼女もそうなんだよねえと言ってがっくりうなだれた。




 昼時の冒険者ギルドは朝の大混雑は収まり、それなりの人でそれなりに賑わっている。


 解体場の貸出手続きをしようと受付に行くと、僕達の顔を見た職員が大急ぎで奥へ引っ込み、先日からどうも「僕達係」になっている気がする闇色の髪の職員――ダニエルというらしい、初めて知った――が奥からすっ飛んできて、僕達の一部未解体の素材をそのまま買い取り処理をして、僕達はそのまま会議室へと連行された。



「お前たち、一体何をしたんだ?」

「何をって……」


 二人して顔を見合わせる。

 今日は朝ギルドで預けていた剣を受け取って、昼まで狩りをして今しがた戻ってきたところだ。祭りの準備で美味しい依頼が多いこの時期に受注依頼をしないのは確かに変わっているかもしれないが、何をしたと言われるほどのことをしたつもりはない。


「今朝、お前たちが出立してすぐに、昨日の研究士がもう一人学士を引き連れて、お前たちはどこだと聞きに来た。アウテリングの学士と研究士だぞ? 何もしてない奴が呼び出しを食らうわけがないだろう

 昨日神殿に行っていたな? それか?」


 ダニエルさんが疲れきった顔でこちらを見据えてくる。取り繕うのも面倒なのか、先日話した時には完璧な敬語だったのに今はかなりぶっきらぼうだ。

 その様子に、僕達は自信なさげに多分、と返す。正直なところ、僕達がどれくらい異質なのか、僕達自身がよく分かっていないのだ。


「あー……研究士と会ったのはいつだ? 何があったのか最初から全て話してくれ」


 分からなきゃ対応もできない、と言われて、フリーダがいいんじゃない、と横でつぶやく。


「別に口止めされてるわけでもないし」


 常識部分が聞けるかも、と唇が動く。


 まあ、そうだねと肩を竦めて、神殿で加護を得た話からだろうと、昨日のことを思い出した。


ちょっと忙しくて更新が大変遅くなりました。


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