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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
西大陸篇
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1.裂け目

今話から第二章になります。

 どうも皆さんこんにちは、僕はユーリ。隣にいるこの赤毛の女の子はフリーダ。

 僕達は今どうなっているかというと、




 旅客船の与えられた小さな客室に、簀巻きにされて放り込まれています。




 なんて劇の序幕語りのようなことを考えていたら、ようやく混乱が収まってきた。


 といっても状況は変わらない。

 僕達二人は今、銀貨三枚と引き換えに入れてもらった船の客室で、ロープでぐるぐる巻きにされて座っている。部屋の扉はご丁寧に外鍵がかかっている。

 いえね、必要なことはわかるんだけど、もうちょっと手心があってもいいと思いませんか?


 冷静になってきたら、今度は逆に笑いがこぼれてきた。

 こぼれた僕の笑い声に気付いてフリーダがこちらを向く。


「もう、何笑ってるのよ」

「いやだって、なんか可笑しくて。こんなことになるなんて思わなかったから」

「ほんと。早く終わらないかなあ」

「船は順調に進んでるって言っていたから、たぶん一刻か二刻くらいで解放されるよ」

「あたしが平気だったら、ね」


 フリーダが肩を竦めようとして失敗し、僕は大丈夫と言って後ろのベッドに体をぐでんと預けた。




 風や波の都合で前後するが、船旅はおよそ二日半だ。八の月第九日の早朝にアッシア国ルターナ港を出た船は、順調にいけば十一日の昼過ぎにリューイット港に着く。先日初めて知ったが、正式にはカルタナ王国ステイン領リューイット港と言うらしい。

 長い。舌をかまずに言えるようになるのに三回言い直した。


 現在は十日の朝食をとり終わったところだ。


 船旅のほぼ半分。つまりこの船はもうすぐ、加護の裂け目を越える。


 起き抜けに船員が部屋に来たときは驚いたし、僕達を拘束するといったときはもっと驚いたけれど、話を聞くと安全策の一つらしい。


 初めて裂け目を越える人間はパニックになって何をするか分からないそうだ。

 帰るんだと言って突然船から飛び降りる人もいて、そうするとエサ・・を目当てに肉食の海魔がやってきたりと本人以外にも非常に迷惑らしい。

 注意してもどうしようもないことなので、裂け目を越えてパニックが収まるまでの一刻か二刻ほど、身動きできないように簀巻きにしてしまうんだそうだ。


 説明されればなるほどと思いますけども、あらかじめ言ってくださいよ。突然ロープ持ち出されて「今からこれで縛りますんで」なんて、すっごいびっくりするんですけど。僕らが何かしたかと思ったじゃないですか。

 鉄の扉のついてる部屋があるような船ならこんなことをしないでみんなそこに放り込めばいいらしいけれど、安さを最優先したこの旅客船にはそんなものはなかった。




「そういえばフリーダ、お金は持ってる?」


 唐突に思いついたことをフリーダに問いかける。

 フリーダは足の動きだけで器用にくるりとこちらを向いて、くてんと顔をかしげた。


「半々で持ってようって言ったじゃない。同じだけ持ってるわよ?」


 端数は僕が持っているけれど、基本的に二人共同じ額を持ち運んでる。でも今回はそうじゃない。


「今思い出したんだけど、舟券を買う時に“東銀貨三枚”って言われたから、たぶん通貨自体が違うんじゃないかな」


 お金にも種類があるってサンドルフで聞いていたけれど、全くなじみがなくてすっかり忘れていた。硬貨が違うなら両替しなければそもそも生活ができない。


「西大陸はお金が違うの?」

「多分……」


 お金については稼ぐばかりで全く気にかけていなかったので、情報収集をしていない。さすがにないとは思うけれど、東大陸のお金が全然通じなかったら最悪戻って金になるものと交換してこなければいけないと思い、ちょっと頭が痛くなった。


「着いたら冒険者ギルドで聞くしかないわね。さすがにギルドで騙したりはしないでしょう」

「そうだね。じゃあ最初は地理と法律の確認かな」



 リューイットの港でやるべきことを順に確認していると、船内で鐘が短く三回響いた。


 音を聞いて起き上がる。フリーダも緊張した面持ちで壁を――先頭側の壁を見やった。





 ――そこから先に起きたことを口で説明するのは、とても難しい。


 鐘が鳴ってからしばらくして、何かが来ている・・・・・・・感覚に襲われた。

 何か途方も無いものが、僕の眼前に迫っている。

 思わず目を閉じると、それ・・が僕の周囲をすり抜けていく。

 触れられた感覚はない。痛みも、悪寒もしない。

 ただ、部屋の中にはフリーダしか居ないのに、周りじゅうをねっとりと絡みつくような視線を感じる。


 しばらく僕に纏わり付いていた視線・・は突然、興味を失った玩具を放り投げるように、ふっと消えた。


 よく分からないままどっと汗をかく。


 船がぐらついて、平衡感覚を失った僕はそのまま床に倒れた。


 遠くで誰かが騒ぐような声が聞こえたのだけれど、何かする前に意識が暗転した。




 目を覚ますと僕は先程までとは違う見慣れぬ部屋のベッドに横たわっていて、隣では誰かがかけたのであろう、シーツを肩まで羽織ったフリーダがベッドにもたれるように眠っていた。


 時折不規則に起こる揺れで自分がまだ船の中に居ることが分かる。


 様子を見に来た船員が、僕がほぼ一日眠っていたことを教えてくれた。



 八の月第十一日。船は今まさに、リューイットに入港しようとしていた。



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