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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
17/57

17.交易の国 参

 あ、いや熊というのは比喩表現ではなく、いや比喩表現でもあるのか?

 えっと、熊を担いだ大男が立っていた。

 その男は六尺はある巨大な体躯に、ボサボサの黒髪を後ろでひっつめ、無精髭を生やした、例えるならば熊のような男だった。


 百貫はあるだろう熊をかかえた熊のような大男が、のっしのっしとこちらに歩いてくる。



「ガンツさん、新人が怖がってます。というかまた未解体で持ってきたんですか」

「悪いねえアンリちゃん、頼むよ」


 ガンツと呼ばれた大男はまったく悪びれた様子もなくそう言って、受付の脇に抱えていた熊をドサリと落とした。

 深緑の髪の職員さんが諦めたように軽くため息を吐いてベルを鳴らすと、奥から男性の職員が顔を出す。


「またかよガンツ、面倒なんだから勘弁してくれ」

「いいじゃねえか、手間賃は払ってるだろ」

「なら解体屋でも雇え」


 よりにもよって熊とかなんの嫌がらせだ、と出てきた男性はぶつくさ言いながら、どう見ても僕五、六人分くらいの重さのありそうな熊を担いでどこかへ行ってしまった。


「査定、時間かかりますからね」

「おう、解体代は引いといてくれ」

「ガンツさん、何度も言ってますが」

「おおおっと! そうそうお前さんら、クロイツの加護が欲しいんだって? やめとけやめとけ、探索の邪魔にしかならねえよ」


 大男はニッと歯を出して、これ以上ないくらいわざとらしく僕らに声をかけてくる。多分、にこやかに笑っている、つもり、なんじゃないだろうか。凶暴な熊が歯をむいているようにしか見えないけど。


「た、探索に使うつもりはありません! ちょっと、事情があって、いろんな土地の加護を教えてもらって、ます。おじさん、詳しいんですか?」


 フリーダが恐る恐る返事をしようとして滑ったような若干上ずったような声で返す。


「ああ? まあ一応この国で生まれたからそりゃあ知ってるが……じゃあ何に使うんだ?」






「なるほど、神の手ねえ」


 ギルド付設の飯屋に腰を落ち着けて、大男――ガンツさんのおごりでハルク茶を飲みながら、僕らは旅の目的について話した。

 ハルク茶は西大陸の茶で、熱い茶を飲んでいるのに鼻をスーッとする冷たい香りが突き抜けていく不思議なお茶だ。正直むせそうになった。フリーダはむせていた。


「神の手?」

「あーなんだ、神子ミコって言うのか? むかあし一度だけ会ったことがあるぞ。自分は神の使命を負った神の手なんだって言ってたから、それだろ?」

「そ、その人は何をしていたんですか!? 今どこに!?」


 フリーダが食いつく。


「知らん。途中まで道が一緒だったから徒党を組んでたが、西のドルマディアって国だな、そこで別れた。いっつも行かなきゃならないとしか言わなかったから、結局何処まで行ったのかも知らんのだ」


 ドルマディア……聞いたことのない土地だった。西のってことは、西大陸の国か。


「行かなきゃならない……」


 フリーダの翡翠色の瞳が虚空を見つめている。


 僕には、分からない。

 彼女が何を思っているのか、考えているのか、僕には、分からない。

 沢山の加護が使えて、それだけで十分食べていける、或いはそれ以上稼ぐことができるのに、道中魔獣に襲われて血縁を亡くしているのに、それでも旅を続けなければならないという彼女の気持ちは、きっと、同じ神子でないと分からないだろう。


「まああれだ、そういうことなら、クロイツの加護でいいんだったら教えてやるよ」


 ガンツさんはそう言ってぐいとハルク茶を飲み干し、立ち上がった。


「けどまあ、ココじゃないほうがいい。付いて来なあ」





 のっしのっしとガンツさんが歩く。歩く度に腰に下げたナイフ――小さく見えるけれど、多分僕のナイフより大きいだろう――が揺れる。不思議と金属音が鳴らないのは、そういう工夫をしているのだろう。

 僕達は彼の後ろを早足で追いかける。


 探索の役に立たないどころか邪魔で、冒険者ギルドじゃ教えられないって、一体どんな内容なんだろう……。



 やがて彼は小さな家の前で足を止めた。


「よお、帰ったぜえ」


 無造作に家の扉を開けて、ちょっとだけ屈んで中に入っていく。


「おかえりとーちゃん!」という声が二階から聞こえて、どたどたと階段を走る音、それを諌める少し低いがおそらく女性の声。


 思わずフリーダと顔を見合わせる。

 ガンツさん、既婚者だった……。





ガンツさんの奥さん、エイダさんは、なんていうか、こっちがたじたじになってしまうほどパワフルな女性だった。


「まあまあお客さんを外に待たせるんじゃないよ、まったくあんたはいつになっても気が利かないんだから。ほらお嬢ちゃん、坊や、そんなとこ立ってないでこっち座りなさいな。ルイ、火起こして。ちょうどいいしお昼にしちゃいましょ。ほらあんた、今日の稼ぎはどうしたの? ……置いてきたあ!? なにやってんのよ取って来なさいって、取り置いてもらえるからっていつもいつも迷惑かけるわけに行かないでしょうまったく。ごめんなさいね、ええと、……ユーリ君にフリーダちゃんね。お行儀のいいこと、うちのルイに見習わせたい位だわ。ご飯食べていくでしょう? 大したものはないけど。いいのよ、子供が遠慮することじゃないから。ささ、作るから待っていてね」


 と、息を着く暇もなくあれよあれよという間にガンツさんが追い出されて、僕らはテーブルにちょんと座っていた。


 エイダさんは竈で昼食を作ってくれている。


 僕達より二回りほど小さい男の子、ルイ君が、手伝いが一区切り着いたようでとてとてと走ってきた。


「にーちゃんたちぼうけんしゃなの? つよい?」


「あたしはあんまり強くないけど、ユーリは強いわよ」

「僕はあんまり強くないけど、フリーダはすごいよ」


 ほとんど同時にそう言って、お互いに顔を見合わせる。


「え? フリーダすごいよ?」

「何言ってんのよ、ユーリ自分の剣の腕分かってないの? あたしいなくても戦えるでしょ?」

「いやいやいや、剣だけできてもどうしようもないっていうか、フリーダこそ自分がどれだけ特殊か分かってる?」

「加護が使えるだけならいくらでも居るでしょう」

「いないから! ってかその発現は僕に刺さるから!」


 僕たちの会話を見ていたルイ君が面白そうにくすくす笑って、


「とーちゃんたちと逆のことしてるー」



 何が逆なのかわからないけれど、そう言って竈の方にまた走り去って行った。

おかしい、加護の話まで進まなかった……。

六尺=一間≒180㎝くらい、

百貫≒375kgくらいです。

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