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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
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16.交易の国 弐

 宿に泊まった日はいつもより少しだけ早く起きる。

 まだ外は日が昇り切っておらずほんのり薄暗い。けれど夜の闇はもうなくなっており、窓からうっすらと差す光で室内は動くには問題ないくらいのぎりぎりの明るさだ。

 まだまどろんでいたいと訴えかける体を無理に起こし、隣のベッドでまだ寝息を立てる彼女を起こさないようそっと抜け出す。

 鞄の脇ですぐに取り出せるようにしている大ぶりのナイフと、鞄の底に下敷きにしている少し重たい、長方形の石を取り出す。

 ここ三日ほど外で使い通しだったナイフは、やはりほんの少し刃がこぼれていた。


 石に刃を当てて熱心に研ぐ。

 クラームではミスリラには一切触れさせてもらえなかったが――初日に売り物をダメにしたんだから当然と言えば当然だ――ナイフの選び方や刃の形状にあった研ぎ方は教えてもらっていた。

 サンドルフの孤児院に居たころにもある程度自分で研いだりはしていたけれど、専門家に教えてもらうとかなり間違ったことをしていたようだ。


 自分の分を軽く研ぎ終わると、次は彼女の背負い袋の脇からほぼ同形のナイフを取り出す。

 こちらは買ったばかりなのだけど、彼女はまだ野営や魔獣の解体に慣れていないのでナイフの扱いが雑だ。案の定僕のより刃こぼれしていた。


 細かい道具の手入れをして、最後に剣を取り上げる。

 鞘からそっと剣を抜き、窓からこぼれる、もうずいぶんと明るくなっている光に照らすように持ち上げる。


 ――僕にはこの剣が刃こぼれしているかどうかすらわからない。


 さすがにこのレベルの刃を研げるだけの砥石は持ち運べない、どうしようと思っていたのだけど、血糊をとってきれいに洗うと元と同じきれいな剣身が顔をだすのだ。


 それとも僕にはわからないだけでどこか歪んでいたりするのだろうか。

 結局僕は首をかしげながら、一応もう一度布で拭って鞘に戻した。


 しばらくこの街にいるなら、刃物一式研ぎ屋に預けてもいいかもしれない。自分で手入れをしていても、たまには専門家に整えてもらった方が長持ちするし。



 全部の道具を元通りに閉まって、今度は音を気にせず窓まで歩いてそれを開いた。



「フリーダ、朝だよ! 起きて!」




 揺らめく赤髪の下でもそもそと何かが蠢く。

 なめらかに削られた象牙のような腕がシーツから零れ、次いで不機嫌そうに歪められた翡翠色の瞳がこちらを睨むように見据えた。


 フリーダはどうにも朝が弱いらしい。


 その顔結構怖いから早く起きて、と言いたいのだけれど、さすがに美人の女の子捕まえてそれはないなと思ってまだ一度も言っていない。



「……もお朝ぁ?」


 ようやく起きたようだ。まだ目は眠たそうに瞬かせているけれど、とりあえず怖い顔ではなくなった。


「そ、朝だよ。先に食堂に降りてるから着替えてきて」



 僕がなるべく、極力、努めてゆっくり朝食を終える頃になってようやく通常運転になったフリーダが降りてきて、港町ルターナでの二日目が始まった。





 冒険者ギルドというのは、大抵が街の外れの方にある。

 もっと中央に近いところにあってくれればいいのにと思ったこともあるけれど、武器を持った大男が街の真ん中に出入りする、なんてのはちょっと、一般市民からしたら怖いだろう。それに魔物の大量発生や集団暴走が起こった時には大量の冒険者の駐屯場所になるから、近所にそれなりの土地が必要にもなる。街の中央ではだめなのだ。


 別に明文化されているルールではないけれど、冒険者は新しい街に着いたらギルドに顔を出すのが一般的だ。どこにどの程度の冒険者がいるのかが大雑把にでも把握できていると、不測の事態の時に緊急依頼を飛ばしやすい。


 そんなわけで街のぎりぎり郊外と呼ぶべき場所に来た。


「フランダーナ登録のユーリさんとフリーダさん……はい、ありがとうございます。ああ、イナミ支部から、ウルフルの発見報告の謝礼が出ています。報告後の調査で大きめの群れが発見されたそうです。お受け取りになりますか?」


 受付の深緑の髪の女性が笑顔で対応してくれる。

 発見謝礼って聞いたことはあったけど、ほんとに出るんだ。


「いくらですか?」

「大銅貨二枚です」

「あ、じゃあ受け取っちゃいます。いいよね?」


 一歩下がったところにいるフリーダに振り返って声をかけると、彼女は軽く頷いて応える。

 ちょっといい食事一回分くらいのお金を受け取って、話を続ける。


「あの、この国の加護を教えてくれる人を探しているんです。どなたか紹介していただけませんか?」

「加護……ええと、クロイツの加護でしょうか?」


 二人で頷くと、職員さんは困った顔になってしまった。


「それは……構いませんが、戦闘の役に立つものではありませんし、探索についてはもしかしたら邪魔になる可能性もありますよ?」


 ……え?


 加護が探索のじゃまになるって、なにそれ?

 いや探索に役立てるつもりとかはないから別にいいんだけど、そんなの聞いたことがない。

 どうしよっかという意志をこめてフリーダを見る。

 ――でも試さないわけにはいかないでしょう。という顔で返された。


 体感的にはしばらく、多分時間的にはほんの一瞬表情でやり取りして黙っていると、後ろから野太い男の声がした。



「なんだあ、クロイツの加護が欲しいって? お前ら駆け出しかあ?」





 振り返ると、熊がいた。




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