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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
15/57

15.交易の国 壱

 なんとかフリーダを説得して、無理な金策は止めさせた。

 旅路を早くしようと思ったら、体力のない女性こそ休息が大事なのだ。稼ぐ場所を決めて拠点を定めて、できれば三日から五日程度の雇用期間のあるものあたりが結果的に金銭効率がいい。

 そう言うと、フリーダはしぶしぶと言った感じで「わかったわ」と引き下がった。


 そのままフランツェを出国して、何故か街道まで降りてきていたウルフルのはぐれと戦って、なんとなくギクシャクした感じのまま、それでも大きな問題のないまま。

 二日後にアッシアに入国し、さらに相乗り馬車で三日後、七の月第二十六日。

 僕たちは目的地、アッシアの内海港町ルターナに到着した。



 交易大国アッシアは内海沿いにある国で、内海を渡って西大陸に向かうならば最も近い場所にある。南側には高い山脈が連なり、その向こう側は南の帝国だ。

 神は商売の神クロイツ。価値のあるものが光って見える加護だと聞いたことがあるけれど、詳しくは知らない。

 ちょっとサンドルフから遠いというか、アッシアを使う商団はサンドルフを使わないので、情報源がないのだ。


 アッシアは東大陸にはめずらしく入出国に検閲がある。

 他の国では首都などの主要都市の門で検閲があるが、入国そのものはそこまで厳しくない事が多いのだ。フランツェなんかはその代表だ。

 検閲が通れる気がしなくて目的地から除外していた国なんだけど、冒険者ギルド証を見せて「西に冒険に向かいます」と言ったらあっさり通れた。ギルド証ってすごい。



 ルターナは第二首都と呼ばれていて、正確な政治的な首都ではないけれど、西大陸の荷が届く港町としてたいへん賑わっている。

 フランダーナよりゴミゴミした雰囲気がないのは、単純に土地や道が広いからだろう。



「とりあえず宿をとったらさ」


 僕は軽快な、というよりは多分傍から見たらそわそわしてて挙動不審な足取りで歩きながら言った。


「海! 海が見たい!」





 揺らめく水面は沈みゆく陽を反射してまばゆく煌めいていて、目の前で橙色の光がちらちらと踊った。

 水は大きく揺れて波打ち、波打ち際は白く泡立っている。

 深く息を吸い込むと塩辛い香りがする。これが磯の香りというやつだろうか。


 遠くには船の帆が見え、夕刻だというのに近くでは帆を上げ停泊する船から人や荷を下ろす人々の活気ある声が溢れている。



「これが、海」

「波がゆったりしてるわね。渡りやすそうだわ」


 僕のつぶやきに、隣りにいる燃えるような赤髪の少女が、最近見せていなかった強気な笑顔で言う。


「フリーダは外海の港出身だっけ」

「そうよ。っていっても、トーキィは交易港じゃなくて漁港だけどね」

「懐かしい?」

「まあ、それなりに。もう二年くらい帰ってないから」


 彼女はそう言ってほんの少し目を細める。やっぱり、一度帰るべきだったんじゃないだろうか。少し遠回りになるけど、トーキィ経由で外海沿いに北上して、雪が降るまえにサンドルフから西大陸に入る経路案もあったのだ。

 だけど既に行った国をいくつも経由することになるから、急いで神を探すならアッシアの港から向かったほうがいいということになった。


「別にいいわよ」


 フリーダが心を見透かしたように肩をすくめる。


「今トーキィに戻っても気まずいし、迷惑になるかもしれないから。実家の方には手紙だけ出しておいたから大丈夫。

 ……けど、久々にお魚は食べたいわね」

「じゃあ夕飯は魚料理だね」


 昔川魚を食べた時は泥臭くて食べられたものじゃなかったけれど、海の魚はそんなことないらしい。楽しみだ。



 魚というのは、食べにくいものなんだと学んだその日の夜。


 いや、アルナ魚のバター焼きっていうのを頼んだんだけど、フォークを刺したら刺したところから真っ二つに切れちゃったんだよ。何回やってもフォークのところから割れちゃって、気付いたらボロボロの細かい切れ端だらけになちゃってて……。

 フリーダは笑いながら綺麗に食べてた。どうやったらあんなふうに綺麗に食べれるんだろう……。

 ちなみにバター焼きは塩で味付けて小麦粉か何かを振ったあとバターで焼いたような料理だった。味は美味しかった。


 何故か今回も相部屋で、いや今回に関しては部屋が足りてないから相部屋になるって言われたのであって、完全に不可抗力なのだけど、一緒の部屋で二人で今後の計画について相談していた。


「とりあえず明日は冒険者ギルドに顔を出して、加護を教えてくれそうなところを斡旋してもらって、駄目だったらここで十日くらい路銀を稼ぐことになると思う」

「それなりに稼いだら海を渡って西大陸、ね。帝国にはいかないのよね?」

「行かないと言うよりは、行けない、だね。帝国ってほんとに存在してるのかってくらい閉じてるから」

「中だけで完全に完結してる国って聞いてるけど、ピンとこないわよね」


 東大陸はそれぞれの特産品を交易しあうことで支えあっている国々だから、帝国というのがどういうところなのか想像するのも難しい。

 定期的に使者は来るそうだし、帝国産のものってウリ文句の高級品は結構あるから、存在はしてるんだろうけど。



「まあ、行けないところの話をしても仕方ないわね。明日は早いし寝ましょうか」


 フリーダはそう言って先にベッドに潜り込んだ。


 窓を少し開けて外を見る。

 今は暗くて見えないが、帝国とこちらを分けているリュブーネ山脈が、向こうにある。

 険しい上に魔獣が多く人間が踏破するのは困難とされる山脈。



 その向こうに広がるはずの帝国にほんの少し意識を向けて、



 そしてすぐに考えを振り払うように首を振った。



 フリーダの言うとおり、行けないところのことを考えても仕方ないのだ。

 潮の香りを遮断するように、窓を閉じた。

港街に到着しました。


魚をフォークで食べるって意外と難易度高いですよね。

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