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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
13/57

13.荒野を行く 弐

 フリーダは馬鹿じゃなかった。というか大人気なく色々言ってしまった僕なんかよりずっと冷静で賢かった。

 その日の夜、倒したオオウサギの肉を火で炙りながら、彼女は真剣な面差しで問いかけてきた。


「どうすれば、戦う時に足手まといにならないかしら」


 僕はその一言に大層安心した。感情的にふてくされていたらもうどうなだめればいいのかわからなくなるところだったから。

 その夜に魔獣との戦闘方法をひとしきり取り決めた。


 基本的に相手が見えなくなる方法――落とし穴に嵌めるだとか、土埃をあげるだとか、草木で覆ってしまうだとか、強い光を出すだとか、そういう方法は取らないこと。

 群れの場合はどんなに弱い相手でも撤退。それ以外は基本的に僕が判断して撤退と言ったら撤退。

 山火事になると手がつけられないので、炎の加護はなるべく使わない、などなど。


 できること、できないことを確認して、フリーダが風で足止めをして、僕が剣で倒すという方針で決まった。

 本当はもっと早く、というか、出立する前に決めなければいけない内容だったのに、僕もフリーダも徒党を組む知識が全くなくて、なんていうか精神的にすごく疲れた。


 交代で火の番をしようと言うと、彼女が「篝火の加護を教えてくれれば使ってみる」と言いだし、それを止めるのにまた少し精神を消耗した。



 翌朝早く。僕らは冷たい布で顔をぬぐって、野営地を後にした。


 そんな二日も連続で魔獣なんかに遭うわけないと思っていたのに、遭遇した。前日と同じオオウサギだ。

 敵対していなければそのまま逃げるという選択肢もあったのだけれど、オオウサギは鼻をヒクヒクと動かすと、どこからどう見ても臨戦態勢をとった。


 ああ、うん。朝食に昨日の残りの肉を食べたからね。そりゃあ動物は人間より鼻がきくし、分かっちゃうよね。


「戦闘準備」


 一言言うと、フリーダは数歩下がり、草地に隠れるようにしゃがみ込んだ。夜に話した通り、彼女は基本的に後方支援だ。


 飛びかかろうとするオオウサギを、昨日とは違い薄い黄色の光が優しく受け止める――少なくとも視覚的にはそう見えた。

 オオウサギは見えない布にでも引っかかったかのように空中で速度を落とし、僕はすかさず剣を振り抜いた。

 そんなわけで、戦闘開始から終了までは一瞬だった。今日の戦闘は満点だと思う。


「終わったよ」


 声をかけるとフリーダが顔を出す。


「怪我はない?」

「大丈夫。さ、解体しちゃおう」


 脳天から縦に割ってしまった昨日と違い、今日は頭だけを狙って綺麗に倒すことができた。次の村までもうすぐだし、綺麗な毛皮を持っていけば値になるはずだ。

 そう思ってナイフを取り出してそう言うと、フリーダは翡翠色の瞳に困惑の色を浮かべてこう言った。


「えっと……解体って、どうやるの?」




 彼女の名誉のために言っておくと、魚は捌けるし、剥いだ皮をなめすのはできるとのこと。男女で分業している地域ならどこでもそうだろう。僕はなめす作業はどちらかというと苦手だ。


 しかし金を貯めながら旅をするには解体は必須だ。覚えてもらうしかない。


 内臓を傷つけない割き方、内臓の取り出し方、肉と皮の分離などなど。

 僕はしどろもどろになりながら順番にやっていく。教えながらやるといつもできていることができなくなっている錯覚に陥った。

 どうやっているかを教えるって、こんなに大変なんだなあ。村の狩人衆はこんな大変なことを僕にしてくれていたのか。


 などと感慨深いことを思いながら、最後に皮の内側の脂をナイフでそぎ落として完了。


 終わる頃には内蔵の処理や骨から肉を外す作業なんかで手がべっとり血で汚れていて、今度は今度でフリーダは半泣きになっていた。





 どうも様子がおかしいな、とは思っていた。

 強気な笑顔がしゅんとしぼんでしまっていて、なんだか元気が無い。

 僕の気のせいか、それとも旅の疲れでも出ているのか。

 気にかかるくらい元気が無いから後者な気がする、と思って、ちょっと気を使っていたのがおそらく間違いだった。



 国境の街に着いて宿を取り荷をほどくと(結局この街でも相部屋になった、解せない)、フリーダはさっさと冒険者ギルドへ向かってしまった。

 いや向かう必要はあるんだけどね。オオウサギの素材を卸さなきゃいけないし、二日連続ではぐれに遭遇したことも報告したほうがいいだろう。



 後ろからでもすぐに分かる燃え盛る赤髪は、受付のカウンターではなく、仕事依頼の掲示板の前に居た。



「フリーダ? 何か気になる仕事でもあった?」


 その背中に声を掛ける。

 さっき着いて明日には出立することになるから、よほどうまい仕事でもない限りは受けないつもりで居たのだけれど。


 フリーダが振り返る。彼女は昨日からよく見せる、ちょっと元気の無いような、不安げなような、そんな表情をしていた。



「ううん、なにか今からでも受けられるいい仕事がないかと思って。……ほら、あたし、これくらいしか・・・・・・・役に立たないから・・・・・・・・





色々と気に病んでいるご様子。

次回は多分フリーダ視点になります。

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