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僕達は神様を探してる  作者: 巴瑞希
東大陸篇
10/57

10.青髪のエルフの憂鬱 弐

2016/2/4 一部加筆しました。話の流れに変更はありません。

 赤髪の女の子、フリーダをつれて街を歩く。

 日よけの外套をすっぽりかぶった彼女は髪色が見えないので周りの人から視線を受けることもないのだけど、それでも周囲が気になるのか、少しうつむきがちに歩く彼女の手を引いて通りをまっすぐに歩く。

 向かう先はこの国のすべての中心、水の神の白き城、フランダーナ城だ。


 そういえばユーリ君に突然家をお願いしてしまったけれど……。

 一瞬だけ彼が物取りだったことを考えたけれど、どうしても彼がそんな風には思えなかった。

 何かこう、彼はもっと純粋で、純朴な存在な気がしてしまって、いつの間にか考えは霧散していた。


 さて、とりあえず話を通さなければいけない人は……加護の計算をしているリューバと、憲兵団の副長あたりかしら。すぐにつかまりそうなのはリューバね。

 城門の兵も顔見知りだ。話が早く済みそうでありがたい。


「こんにちはアーテンさん、エルフのシェビィが雨について話をしに来た、とリューバに伝えていただけるかしら?」


 昨日の今日だもの、もちろん強制出勤でしょう?と伝えると、彼は笑顔で頷いた。


「半刻後に迎えに行く予定になっておりました。来て頂けてありがたいです。場を整えますので、いつもの待合室で少々お待ち下さい。そちらはお連れの方ですか?」

「ええ。ああ、そう、街で赤毛の少女を探している憲兵を下げさせて頂戴。――フリーダ、外套を外して」


 フリーダは一瞬体をこわばらせて、ゆっくりとフードを下ろした。燃えるような少し癖のある赤髪が、乾燥した空気に触れてふわりと揺れた。

 アーテンが息をのむ気配がする。隣の兵が槍を握りしめた気配に、制するように毅然と声を発する。


「私の客人として扱ってください。事情も聴かずに彼女に粗相をすることは、この私が・・・・許しません」


 詭弁である。私はただの・・・エルフだ。重宝されてはいるが、なんの権力も持ってはいない。

 それでも、この国の・・・・、そしてこの街の・・・・エルフであるという事実は、国や街を運営する立場にある人間に近ければ近いほど、強い意味を持つのだ。


 彼らは言葉の意味を十分に理解し、警戒した顔をしたまま、しかし槍を抑えた。



「失礼いたしました。お部屋にご案内します」




 部屋の準備が出来ましたと連れて行かれた先には、六人の男性が待っていた。

 雨量の計算をする部署の室長であるリューバとその弟子、憲兵団の団長と副団長、それとたしか城の文官が二人。

 憲兵団の団長が出てくると思わなかったわ。よほど警戒されているのね。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」


 リューバが人当たりのいい笑顔を浮かべる。私が初めて加護を教えた、私の一番弟子だ。


「そんなに待っていないわ。忙しいんでしょう?」

「ええ、まあ。その忙しさが終わるんじゃないかと期待しているのですが」


 彼はちらりとフリーダを見やる。彼女は視線にびくりと体を震わせて、さっきまでも小さくなっていたのに余計にちっちゃく縮こまった。


「名前を聞かせていただけないかな? 小さなお嬢さん」


 リューバは笑顔を崩さず、紳士的な言葉づかいで尋ねた。他の人たちが何もしゃべらないところを見ると、どうやら彼が仕切ると取り決められているらしい。


「フリーダと、言います」

「この国の人ではないよね? どこから来たのかな?」

「東の、トーキィというところです。外海に接している国ですが、ご存知でしょうか」

「あー……名前くらいは。ずいぶん遠くから来たね」

「フランツェの直前までは、叔父と一緒に行商をしておりました。途中で魔獣が出て……今は、一人です」

 リューバが後ろに立つ文官に目を向けると、文官が耳元で何かささやく。

 耳のいい私にはうっすらと聞こえていた。月の第一日に国境近くの町の外で魔獣の遺骸が発見されているらしい。

「そうか。……あ、僕はリューバ。雨の計算師をやってる」

 よろしくねと微笑むけれど、その笑顔はだめね、威嚇にしか見えないわ。

「ねえフリーダさん、

 君はいったい・・・・・・何をしたの・・・・・?」


 その言葉を皮切りに、今回のことについての話が始まった。


 ぽつり、ぽつりとフリーダがしゃべる。しゃべる順序などを色々と考えていたけれど、人を前にして全部まっさらになってしまったような、そんなしゃべりでつい笑いそうになってしまったわ。

 私は慣れているけれど、いかにも強面の憲兵団二人に、どう見ても城の重役四人の前で冷静に喋れというのは、そういえば中々むつかしいわね。


 一区切りしゃべるごとに、文官四人は頭の痛そう顔をゆがめたり、顔色を白くしたりして、武官の二人は逆に疑問符が一つずつ増えていくような顔をしていて、対照的でそれも面白いわ。もちろん、笑ったりはしないけれど。


「というわけで、無罪というわけにはいかないでしょうけれど、恩赦を乞いにきたのよ」


 フリーダがしゃべりきったところを見計らって、私がしゃべる。


「……シェビィ殿、無知で申し訳ないのだが、私にはさっぱりわからない。結局、何が起こったのだ?」


 副団長が待ったをかける。別に怒ったりしないわ。自分の無知をきちんと自覚できる子は好きよ。


「曾おばあ様からの受け売りになるけれど、説明しますね」


 既に顔色を真っ青にしている文官をちらりと見やって、憲兵団の二人が頷く。


「神からの使命を負った人間を、神子みこと呼ぶのよ。神子は生涯をかけてその使命を全うするために生きるわ。フリーダは何処かの神を探す使命を負っている。

 今回の雨は、その探す使命の道中でマイミリクに“あなたですか”と問いかけたら、我らの神が大変喜ばれて雨になってしまった。けれど、彼女が探しているのはマイミリクではなかったの。だから彼女、フリーダはこれからまた使命のために旅に出る必要があるわ。

 そして、」


 言葉を区切る。曾おばあ様の言葉を反芻するように目を閉じて、


「そして、神子の使命を阻害したものは加護の力を失うと、曾祖母からはそのように伝え聞いているわ」


 一瞬だけぽかんとした武官の二人が、ほぼ同時にみるみる顔色をなくしていく。


 使命を阻害する、というのがどの程度を指すのかは定かではないが、“国が威信をかけて彼女を拘束”しようものなら、この国に雨が降らなくなる可能性は十分に考えられた。

 一番驚いた顔をしていたのがフリーダだったのを、私は努めて気付かないふりをしたわ。旅立つ前にこの子に表情を出さないよう言わないとだめね。


 そこから先の流れはとても早かったわ。フリーダが裁きの神の契約書を嫌がらなかったからというのももちろんあるけれど、何よりこの場にいる全員が、一刻も早くフリーダを解放しようとしていたのだもの。


 三十歳までに金貨二十枚――このあたりの成人男性の年収より少し多いかしら――それくらいを支払う契約をして、晴れてフリーダは自由の身になったわ。


 細かい取り決めをしていたらすっかり日が暮れてしまったから、私たちは客分として王宮に泊まっていくことになった。フリーダが面白くあわてていたわね、今度は笑わせてもらったわ。




 目の前の二人が地図を前にあれこれと相談している。次に行くべき場所、すでに言った場所を指さして、ああでもないこうでもないと。

 そんな微笑ましい光景を前に、我らが神々のために、私は私がしなければいけないことを考えていた。


 資金などについては、正直あまり心配していなかった。ユーリ君は自分で稼ぐ手段を知っているし、二人とも読み書きも計算もできる。騙されさえしなければそうそう損はしないだろう。

 どちらかというと、身分だろうか。身元を保証するすべを何かあげられれば……ああ、なるほど。


「そういえば二人とも、よかったら冒険者登録をしていかない?」


 国を超えて旅をするなら、あると便利よ、と思った通りに伝えると、なんと難色を示したのはユーリ君の方だった。



次回砂漠の国からの旅立ち、予定

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