◉序章4
この地は周囲を海に囲まれた大陸となっているらしい。
外の海域は、海流が複雑に入り組んで流れている為、他の大陸に船を出す事はほぼ確実に不可能らしい。
それでもたまに、この大陸に漂流して来る他大陸の者もいるらしく、そのような者の事を外陸人と呼んでいるらしい。
外陸人はこの大陸では見られない技術や知識を持っている者も多く、大体は手厚くもてなされるらしい。
「なので、あなたに施した様な翻訳の魔法が編み出されたのですよ」
ルクアは私の左手を指差しながら、ニッコリと微笑んだ。
「それにしても黒髪の人間は初めてお目にかかりました。一体何という所から来られたのでしょうか?」
ルクアは私の黒髪を珍しそうに見ながら尋ねてきた。大人びた話し方をするが、こういう仕草は年相応のように感じた。
私は正直に話すべきか少し思案し、結局ありのままを伝える事にした。
ルクア達は私の話を聞いて、再び目を丸くした。地球という別の世界で殺され、気がつくとこの世界で倒れていたなど、やはり魔法が存在するような異世界においても過去に例の無い事らしかった。
執事のカストールが、それが本当なら帰りたいのでは?と尋ねてきたが、別段帰りたいとも思わない事を伝えた。
親兄弟も無く、戻ったところでただ漠然と生きるだけ、未練は無いのだと。
そんな中、鎧男(騎士と言う身分らしい)のアランとレックスが訝しげにこちらを見ていることに気付いた。
「やはり貴様は信用ならん。その様な突拍子も無い話は信じられない。護衛の我々としては、怪しげな人物を側に置くことは出来ん。」
と言いながら露骨に私を追い立てようとして来た。
ルクアとカストールがたしなめたが、二人は敵意を隠す事をしなかった。
何か異世界から来たという証拠になる物は無いかと制服を漁ってみると、ポケットからスマートフォンが出てきたので、これならば決定的な証拠になるのではと思い、電源を付けて、画面が見えるよう皆に突き出した。
「これは私の世界で流通していたマルチツールです。離れた場所にいる人と話が出来たり、文字を送れたり、風景を記憶する事が出来ます」
そう言いながらスマホを操作する。着信履歴124件…。全て優子からだろう。
今はそれどころではない、画像フォルダを操作して次々と日本の風景(猫の写真が大半だったが)を見せつけていく。
音楽を流したり動画を流したり、スマホの機能を存分に(コンパス機能はバグが酷くなっていたが)プレゼンした。
魔法の概念があるこの世界でも流石にスマホは異様だったらしく、薄くて小さい物体から光が出て、風景をそのまま切り取った様な絵が何百枚も入り、聞いたこともない音を発する謎の物体に大いに驚き、この世界ではあり得ない技術である事を、護衛の二人は認めざるを得なかったようだった。
「とは言っても、これももうすぐ使えなくなるんですけどね…」
私は画面右上のバッテリー表示が2%になってる事を確認しながら、食傷気味に呟いた。