◉序章3
「さて、野営の準備も整ったところでまずは我々の紹介からさせて頂きます。僕はルクアといいます。護衛を務めてもらっているこの二人はアランとレックス。馬車を牽いているのは私の執事のカストールといいます」
アランとレックスは、紹介を受けた時にそれぞれ無愛想に会釈をし、執事のカストールは慇懃深く礼をした。
執事がいるということは、この少年はそれなりの地位の人間の御子息なのだろう。
「私は星野 空子といいます。ソラと呼んでいただいて結構です」
そう言うと、ルクア達は目を丸くした。
何事かと思っていると、執事のカストールがくちをひらいた。
「申し訳ありません。どこの大陸より流れ着いたかは存じあげませぬが、この大陸では真名を他人に教える習慣は無いものでしてな」
真名とは何かと聞くと、代々家系で受け継ぐ名を字名、親より付けられた名を与名、その二つを合わせて真名、そしてそれらをもじったり省略したりする名を仮名というらしい。
真名を知られると魂を操られる恐れがあるらしく、高名な魔導士の中にはその術を知っている者もいるらしい。
なのでこの地の人間は仮名しか他人に伝えないらしい。
「わかりました。では私の事はソラと呼んでください」
そう伝えると、ルクアは嬉しそうに、
「ソラですか!戦の神と同じ仮名ですね!」
と言い、その神についての説明を加えた。
ソラとは戦の神であり、左右二つの顔を持つ多面神らしい。
片方は無敵の武力、もう片方は狡猾な智恵を象徴するらしい。
普通は神の仮名を名乗る事は不敬にあたるのだが、外陸人ですし許されるでしょうとのことだった。
私はその外陸人とはどういう事なのか尋ねた。
「もちろん、この大陸の外から流れ着いて来た人の事ですよ」