◉序章2
林の入り口の前で寝そべりながら夜空を見上げていると、遠く後方から微かな音が聞こえた。
馬の蹄の様で、徐々に音がこちらに近付いて来ている事が分かった。
私は急いで立ち上がり、身構えながら後方を見やった。
近付いて来たのは馬に乗った鎧男が二人と馬車が一台で、鎧男に先導されるように馬車が後ろから付いてきていた。
先頭の鎧男が私に気付くと、警戒するかの様に馬を止め、私に叫びかけてきた。
「sje&xldmtp#dugadw!!」
全く聞き覚えのない言語で、英語でも無ければフランス語でもない。抑揚は日本語に似ているが理解することは出来なかった。
恐らく、何者だ!とか、そこを退け!見たいな意味なのだろう。
とりあえず敵意がない事を示す為に、両手を上げながら道を譲るように動いた。
そうすると、鎧男達はゆっくりと進み出し、私を警戒しながら林の方へ向かって行った。
「すみません、少しお話を聞きたいのですが!」
通じない事は百も承知だったが、一団に声を掛けてみた。
今の状況を打破するまたとない機会なのだ。
なんとかして意思の疎通を図りたかった。
鎧男達は再び馬を止め、チラチラと私を見やりながら何事かを話し合っていた。
その内、鎧男の一人が馬車の中を覗き込みながら、中にいる何者かと話し始めると、馬車の中から私よりも小柄な少年、と言っても中学生ぐらいだろうか…がひょいと顔を出し、馬から降りた鎧男を横に伴って私の方に近付いて来た。
私は何事かと身構えたが、少年は私の目の前に立つと微笑みながら左手の甲を見せる様なジェスチャーをした。
私にも同じ事をしろという意味なのだろうか。恐る恐る同じ様にすると、少年は何か念仏の様な文言を呟きながら私の左手の甲に指を触れた。
私は驚いて手を引っ込めると、左手の甲がぼんやりと光っていた。
少年を見ると、彼はにこやかに微笑みながら話しかけてきた。
「これで言葉は通じる様になったはずなのですが、どうでしょうか?」
言葉はわかるようになったようだが、訳がわからなかった。
左手に触れただけで言葉がわかるようになるなど、常識ではあり得ない。魔法のようだ。やはりここは、薄々と勘付いてはいたのだが、地球とは違う惑星、あるいは異世界と呼ばれるところなのだろうか…。
大いに面食らいながら、
「ええ、通じています。ありがとう」
と答えた。どこかちぐはぐな会話だなと思った。
少年は微笑みながら会釈をすると、鎧男を伴って再び馬車に戻ろうとしたので、私は慌てて呼びかけた。
「待ってください!少し話を聞かせて頂けませんか!?」
少年は私の方に振り返り、横にいた鎧男に何事かを告げると、にこやかに応えた。
「いいですよ。今日はここで野営する事にしますので、私に分かる範囲であればお答え致しますよ。珍しい髪の色をしていらっしゃるので、よければあなたの国の事も色々と教えてください」
鎧男達と馬車の御者は道から外れた所に馬を止めると、テキパキと野営準備を始めだした。