◉序章
瞼を開けると、そこには見たこともない星空が広がっていた。
一番に違和感を覚えたのは二つの月だった。
方角はわからないが、私から見て右上と左上に青白く光る月と思しき星が見える。
その他にも、北斗七星やオリオン座など、あるはずの星座や星が見当たらない。
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡すと、どうやら私は草原のど真ん中に横たわっていたようだった。
月明かりのせいなのか、街灯も無いのにある程度視界が効いた。
立ち上がり、制服と長い黒髪に付いた草や土を払うと、私はどこへ行くともなく歩き出した。
とりあえず左上の月の方向へ歩いてみることにした。
歩きながら考える。今の不可解な状況の事を。
……あの時、私は確かに殺されたはずだった。
大きめのスコップで殴られて、意識を無くしたはずだった。
そして次に目を覚ますと(覚めるはずが無いのだが)不思議な夜空が拡がるこの地に寝そべっていた。
--つまり、ここは死後の世界なのかしら…
そう思ったので、頬をつねると、いつも通り痛みを感じたので余計に訳が分からなくなった。
草が風に吹かれ、ざわざわと一斉に音をたてる。髪もそれに呼応して、私の顔を隠すように包もうとする。
髪を整えながらとにかく月の方向へ進む。
すでに死んでいるのにこう考えるのはおかしなことだが、じっとしていて餓死するのはごめんだった。
どれほど進んだかはわからないが、体感で大体二時間くらいだろうか。変わりばえしない景色にようやく変化が訪れた。
舗装された道路を見つけたのである。
二車線くらいの幅で、道路といってもコンクリートで覆われているわけではなく、ただ土が見えている程度の舗装なのだが、しっかりと慣らされており人為的に造られた道路である事は明らかだった。
つまり、この地には人がいて、なおかつこの道に沿って歩けばやがては人に出会えるということだ。
当てもなく歩く事に不安を感じ始めていた矢先だったので、心が弾み、安堵の笑みを漏らした。
道を歩いて行くと、やがて前方に林が広がり始めた。この道はどうやら林の中を突っ切って続いているようだ。
林の内部は月明かりが届かない為、流石に暗く、これ以上進むのは危険だと感じた。
特に急いでるわけではないので、ここで野宿をする事にした。野宿といっても、林の前でただ夜が明けるのを待つだけなのだが…。