第三の男
タクトは拳銃を握りバームに向けた。彼は銀色の髪を風に靡かせながら、両手を広げて見せた。
「禁断の果実は、加速を極めた者が食すと、加速を超える力を与えてくれるらしい。普通の人間が食べると、その毒で死ぬが、お前は選ばれた者らしいな」
「兄さん済まない」
「気にするな」
バームは安らかな表情で、タクトの一撃をうけようとしていた。その時、横で見ていた双葉の首が、背後から羽交い締めにされた。
「いけませんねぇ、バームさん」
人を小馬鹿にするような、慇懃無礼な喋り方をした男が、双葉の喉元に腕を回していた。そして、反対側の手を、彼女のスカートに入れた。
「あ…」
双葉の顔から血の気が引いた。男は何かしている。タクトの方からは影になっていて、良く分からない。
男は、双葉のスカートの手を、グッと深く突っ込んだ。同時に双葉の顔が苦痛に歪んだ。
「あぐう」
双葉は瞳を大きく開くと、口をパクパクと金魚のように開閉させていた。額には粒のような汗が大量に滲んでいる。
「双葉どうした」
タクトの声に双葉は僅かに、瞳を動かすと、男はさらに拳に力を加えた。
「あがああああ」
双葉は電気でも流されたように、痙攣すると、ピチャピチャとその場で失禁した。黄色い液体が、パンツを濡らし、地面にまで漏れている。そして可憐な外見からは想像もつかない、がに股に近い体勢で、体を震わせている。
「双葉」
タクトは叫んだ。何が起きているのか分からない。しかしあの男は、双葉を辱しめている。彼女の尊厳を傷付けている。それだけは許せない。
「あら、みっともない」
男は双葉から手を引くと、軽く突き飛ばした。彼女の体は積み木が崩れるように、前倒しになるが、それをタクトが受け止めた。
双葉はタクトの腕に抱かれながら、気を失っていた。スカートから覗く、白い太股には、尿の付いた跡が残っている。彼は双葉を抱えたまま叫んだ。目につく者全員殺したとしても、彼の怒りは収まらないだろう。
「覚悟しろ」
眼を血走らせ、冷静さを失ったタクトをバームは必死に止めた。しかし彼は止まらない。
「こいつは、何も悪くない。エリスは何も…」
言いかけたところでタクトは口を押さえた。それはかつての恋人の名前だった。それを聞いた男は、ホホホッと笑った。
「恋愛とは素晴らしいものです。人間は愛することができる。動物のソレは、 生殖前提で、見ていられたものではありませんが、人間の心はとても美しい。しかし、恋愛に溺れ、我を見失う者は、動物以上に愚かだと思いませんか?」
タクトは無意識に双葉とエリスを重ねていた。初めは適当にあしらっていれば、勝手に消えて行くと思っていたが、いつの間にか、双葉はタクトが護るべき対象になっていた。