加速を超える力
タクトはクレスタ城に向かっていた。目的は一つ、双葉を救出することだ。
(くそ、だから一人が良かったんだ。関わっちまったら、助けないわけにはいかないぜ)
クレスタ城にはすぐに着いた。来た道を戻るのに対して時間はかからなかった。今まで嫌と言うほど見た、黒い城門を通って、馬を繋ぐと、門前で叫んだ。
「俺だ、タクトだ。帰ったぞ」
城門が開かれ、橋が降りた。タクトは城の中に入り、悪趣味な赤いカーペットの敷かれた廊下を進んで行った。
その頃、双葉は何人もの兵士に囲まれていた。バームの寝室にいたことがバレたのである。最悪なことに、バームはタクトを迎え撃つために席を外していた。
「うへへ、バーム様も人が悪いぜ。こんなに若い女を隠してやがるんだもんな」
「おい、これ分かるか?」
兵士の一人が、双葉の喉元に短剣を突きつけた。双葉の顔が恐怖に歪んだ。
「この、下衆どもめ」
双葉は吐き捨てるように言うと、無理矢理に強がって見せた。それが返って、男達を増長させたのは言うまでもない。
「女は全部、アガメムノン様に取られちまったからな。お前みたいなちんちくりんのガキでも、全然イケるぜ」
兵士は双葉の喉にナイフの先を当てると、彼女の胸倉を掴んだ。
「おい、ここでストリップでもしてもらおうか」
「っち、お前ら、騎士のくせに最低だ」
「騎士のくせにだ。俺らだって、昔は真面目に努力してたさ、だが、今の王になってからは・・・・」
言いかけたところで、別の兵士が止めた。
「おい、その先はまずい」
「ああ、そうだな・・・・、王の悪口はやめよう」
兵士達は、暗い顔を無理に振り払うと、再び双葉に視線を戻した。
「おら、早く脱げよ。何なら手伝おうか?」
「ふん、そんなに見たきゃ、見せてやるよ。俺のナイスバディに見惚れるなよ・・・・」
「へ、御託は良いから早くしろ」
双葉は屈強で堕落した騎士達に囲まれ、制服の胸元に手を掛けた。既にアガメムノンのせいで、ボタンの一部は取れて、服はボロボロだった。
「お前ら、本気で言ってんのかよ。こんなガキの体見て楽しいかよ・・・・」
「早くしろと言っただろうが」
双葉の顔が羞恥で赤くなった。
(何で俺、裸になるだけでこんなに照れてんだよ。男だった頃は、寧ろ裸族だったのに)
「手伝ってやるぜ」
痺れを切らした兵士の一人が、双葉を背後からベッドに突き飛ばすと、スカートを手で捲った。
「ああ・・・・」
双葉は悔しさに、思わず涙ぐんだ。兵士達は楽しそうに下卑た笑いを繰り返している。
「パンツはピンクかよ。以外に可愛いの履いてるな。にしても、スカート捲られたぐらいで、何しおらしくなってんだ。これから、もっと酷いことされちゃうのに」
「うう・・・・」
悔しさに歯を食いしばる双葉。もうダメかと思ったその時、寝室の扉が蹴破られた。
「お前ら、何してんだ?」
現れたのはタクトだった。彼は双葉の手を引くと、兵士の一人の足を蹴って転ばせると、そのまま、彼女の手を掴んだまま、廊下を走った。
「タ、タクト?」
「ああ、俺だ。俺の兄のバームと、親父に見つかるとヤバイ。はっきり言って死ぬぜ。だからさっさと脱出だ」
タクトは双葉と共に壁に背を付けた。壁の先には兵士達が談笑しながら歩いている。話の内容は、昨日何人の人間を処刑したかという、自慢話であり、およそ騎士のする会話ではなかった。
「一体、いつからこんなになっちまったんだろうな」
タクトは双葉を連れると、裏口から城の外に出た。近くに、血が付着して刃の錆びたギロチンがあった。
「さあ、もうすぐで」
橋を渡ってようやく出られると思った矢先に、バームが橋の上で待ち受けていた。
「いやがったか」
「タクトよ。逃げたければ逃げろ。しかし禁断の果実は置いていけ」
「無理だな。これは親父には渡さない」
「加速のエネルギーの到達点に向かう鍵が、その果実にあるんだ」
「知っているさ。だから盗んだんだ」
タクトはニヤリと口を歪めて笑うと、服の中から、真っ赤なリンゴを取り出した。
「これが欲しいか?」
そのリンゴこそ、禁断の果実だった。タクトはそれを噛みしめると、喉を鳴らして飲み込んだ。
「貴様・・・・」
バームは驚愕の表情でタクトを見ると、額から大量の汗を流した。
「馬鹿な。死ぬ気か。それは才能のない凡人が食すと、その毒で命を失う可能性があるんだぞ」
「だが、俺は生きているぜ」
タクトは拳銃を取り出してバームに向けた。
「試してやるよ。加速の先の力を」