暴虐の王
クレスタ城。かつて騎士の治める由緒正しき王国は、いつの間にか、暴力と混沌による恐怖の象徴と化していた。城下町に住む者達は、毎日処刑の恐怖に怯え、城の門前にはギロチン台がいくつも備えてあった。処刑された人数は数えきれないほどに存在し、また彼らの墓を造ることは許されなかった。
暴虐の王、アガメムノンはその肥えた脂肪に包まれた体をベッドから揺り動かした。
「父よ。只今帰りました」
バームは、家族の者でも中々立ち入ることを許されない、アガメムノンの寝室に現れると、手を後ろにロープで縛られた双葉を、連れてアガメムノンの前に膝を突いた。
「その、女は誰じゃ?」
アガメムノンは浮腫んだ目元を震わせながら、目の前で震えている双葉を指した。
「タクトの仲間です。人質に連れて参りました」
「ほほう、この小娘を餌にタクトを釣ると?」
「それが最善です」
バームの言葉にアガメムノンは深く頷くと、彼を寝室から出て行かせ、双葉だけを部屋に残させた。
「歳はいくつだ?」
「17・・・・」
双葉は消え入りそうな声で言った。無理もない、目の前にいる男は、双葉よりも遥かに大きく、また手足がまるで丸太のように太いのだ。恐らく、先程のバームよりも強いのだろう。ヒキガエルのような下衆な容貌とは裏腹に、そこには武人のような強さを感じさせた。
「まだ生娘か?」
「はあ?」
双葉は呆れたように首を傾げると、即座にアガメムノンの平手打ちが、双葉の右の頬に炸裂した。彼女の首は寝違えたように曲がり、もし手加減していなければ、双葉の首は容易に折れていたことが、嫌でも分かった。
「生娘です・・・・」
双葉は顔を赤らめて言った。その様子にアガメムノンは嬉しそうに、双葉の腕を掴んで、無理矢理ベッドの上に座らせた。
「タクトには勿体ないな。後、数年経てば、良い感じに熟して、くく、良い女になる」
「ひっ・・・・」
双葉は思わず引き攣りそうになった。この男は、予想以上に下衆だと実感したのである。例えるならば、下水道に巣食う鼠のように、人に生理的な嫌悪感を、無意識に与える、正真正銘の邪悪だ。
「ほれ、もっと寄れ」
「くっ・・・・」
双葉はアガメムノンから逃れようと立ち上がろうとするが、彼の丸太のように太い腕が、がっちりと双葉の腕を掴み、ベッドに押し倒した。
「あうう、離せ。この変態野郎。男相手に何してんだ」
「なぬ、男だと?」
アガメムノンは顔を真っ青にして、少し後ずさると、ベッドに仰向けに倒れている双葉のYシャツを破った。
「ん、やはり女ではないか」
「俺は男だ」
「へえ、これが男かね」
アガメムノンはブラを手で引き千切ると、双葉の胸が露わになった。
「この、何しやがる」
「女ではないか」
(嘘だろ。俺、こんな男にやられちまうのか)
「嫌だ。やめてえええ」
双葉は両手で涙を拭った。情けなくて死んでしまいたかった。しかしすぐに、彼女に救いの手が差し伸べられることとなった。寝室の扉が開かれて、バームが戻って来たのだ。
「父よ、人質は私が預かりましょう」
「ぬ、おお、そうじゃな任せるぞ」
アガメムノンは決まり悪そうに愛想笑いすると、そのままベッドに戻った。そしてバームは双葉の手を引き、寝室を後にした。
「済まなかったな。父が・・・・」
「お、お前は助けてくれたのか?」
「父の悪い癖だ。私の父は10代の女が大好きだ。若い妾が100人近くいる。奴の血が流れていると考えると、私は悔しくて、タクトのように家を出たくなるのだ。だが、私は長男。私がいなくなれば、クレスタ城はどうなるか、容易に想像が付く」
バームは双葉を自分の寝室に案内した。
「ここでしばらく暮らしてくれ。君を傷つけたりはしない。ただ私はタクト話を付けるために、君にはしばらくここにいてもらう」
バームはそれだけ言うと、寝室を後にした。そして双葉は彼のベッドの上に座ると、静かに横になった。