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負けられない闘い

 人の気配の全くない荒廃した大地の上で、四人の男女が対峙していた。そのうちの一人は、瀕死の状態で、もう一人は右肩を押さえ驚愕の表情で、そしてさらに別の一人は、口に手を当て、顔を引き攣らせていた。冷静だったのは一人だけだった。

「き、貴様」

 ジェイは右肩を押さえたまま少し後ずさった。双葉は自分でも恐ろしくなるほどに冷静で、それがとにかく不気味だった。ネーナは倒れているタクトを抱えると、彼の顔がドライフルーツのように縮み、水気を失っていることに気が付いた。


「タクト、今飲み物を持ってくるわね」

 ネーナは酒場の方に走って行った。双葉とジェイはそれを横目で見守ると、再び互いに正面を向き、西部劇のように、顔と顔を向かい合わせた。

「おい、ガキ。何故お前が加速を?」

「さあね、ただ、タクトはお前に殺させない」

 双葉は再び拳銃をジェイに向けた。しかし彼は自分の髪を乱暴に掻き毟ると、義手から指を双葉に向けて放った。

「あ・・・・」

 双葉はそれを右に転がることで避けると、そのままジェイに向かって発砲した。弾丸は彼の右肩に命中すると、体の中に吸い込まれていった。

「まずい・・・・」


 ジェイは右肩を手で強く掴んだが、もう手遅れだった。どういう原理なのか分からないが、双葉は加速を使った。一族の人間にしか体得できないはずの加速を、いとも簡単に真似してみせたのだ。そしてジェイは自分の義手でない方の手を見た。

「うあ・・・・あ・・・・」

 ジェイの手はまるで老人のように皺くちゃになり、血管が浮き出ている。そして顔に触れると、やはり皺があり、声もどんどん枯れてきた。髪が抜け、それは白くなっていた。彼は気付いた。今、自分はものすごい速さで老けていると。

「これは、加速エネルギーを使って、俺の老化を早めたな」


 ジェイは掠れた声で、何かを叫んでいるが、双葉には良く聞き取れなかった。彼は空を見上げると、そのまま棒立ちのまま動かなくなり、二度と喋ることはなかった。

「やったよタクト」

 双葉は力尽きたのか、その場に崩れ落ちた。そして安らかな顔で眠っていた。


 次の日の朝、双葉はベッドで横になっているところをタクトに起こされた。

「おい、起きろ双葉」

「ん・・・・」

 しかし応答がない。双葉はあれからネーナによって着替えさせられ、今はピンク色の薄いパジャマを着ている。そして胸元が少し開いており、そこから谷間がそっと顔を覗かせており、何とも扇情的だった。しかし双葉自体は、色気などと言うものを意識しないし、また外見が年齢不相応に幼く見えるので、あどけないのに淫靡と言う、矛盾したアンバランスな雰囲気を醸し出していた。

「悪戯しちまうぞ・・・・」

 耳元でそっと囁くと、ようやく双葉は起きた。良く寝たのか、大きく毛伸びをして、勝手に健やかな朝を向けていた。


「お前、昨日のこと聞いたぞ。加速をまぐれでも使うなんてな。悪いが、加速を使った以上、お前は俺の追手に、俺と同じように追われることになるから、やっぱり連れて行くことにした。だから早く着替えろ。ここを出るぞ」

 あまりに乱暴な説明と、朝の微睡のせいで、意識がはっきりしない双葉だったが、すぐに目をパチッと覚ますと、白のYシャツと、紺色のブレザーを出した。そしてパジャマのボタンを上から外し始めた。

「おいいい、男の前で、何で堂々と着替えてんだよ」

「はあ、お前馬鹿かよ。パジャマで外に出るのキモいだろうが」

「そ、そうじゃない。お前は男だかどうだか知らんが、体は女なんだぞ。普通はもっと遠慮がちに、というか、俺の前で服を脱ぐな」

 

 双葉はつまらなさそうな顔でタクトを見た。

「じゃあ、無効向いてろ」

「おおう」

 タクトは双葉に背を向けて扉の方を見た。双葉はそんな彼の姿を後ろから意地悪く笑っていた。

(へへ、タクトの奴め。女の裸を見慣れてないな。まあ仕方ないか、この世界にはエロ本とかなさそうだし、少し苛めてやるかな)

 双葉はククッと悪そうに笑うと、パジャマを脱いだ状態で、タクトの背中を指で突いた。

「ねえ、タクト」

「あん?」

 タクトは反射的に双葉の方を振り返った。そこには全裸の小振りな胸をした、上半身裸の美少女がいた。白い肌は彼には眩しく、夜に見た時よりも破壊力があった。腰元は綺麗に縊れており、決して男性にはない、肉付きの良い体をしていた。当然、彼の動揺は隠しようがない。


「ば、おまえなあ。デリカシーのない野郎だ。恥じらいとかないのかよ」

「ねえよ」

 双葉はそのままパジャマのズボンに手を掛けた。そしてチラッとタクトの様子を確認しながらスルスルと、ゆっくりズボンを降ろした。元男だからこそ分かる。男の好きな扇情的な脱ぎ方、そして誘うように顔を赤らめて演技をする。

「ああん、タクト君の前で、私、全裸になっちゃう」

 普段のドスの効いた声とは違う、それは完全に男に媚びる甘い声色だった。

「やめろ、俺の負けだ。これ以上は危険・・・・」

「あっ、アサヒガキレイダナ」

 これでもかと言うほどの棒読みで、双葉は身を乗り出し、窓の外の景色を見た。窓に手を付き、尻をタクトの目の前に突き出していた。女性用のハート柄のパンティーが、ギュッと尻の谷間に喰い込んでいた。

(ヤベ、これ楽し。高校のときは、いつも女にこうやって挑発されまくってたからな。仕返しだ)

「悪いなタクト、ちょっとふざけただけ・・・・」

 言いかけたところで、タクトが双葉のムッチリと突き出された尻を両手で掴んだ。


「おい、何して・・・・あん」

(嘘だろ。変な声出たぞ)

「おい、このガキ。俺を馬鹿にしやがったな。こんな尻興味ねえよ」

 タクトは自棄になり、乱暴に双葉の尻を揉んだ。それに合わせて双葉は尻をモゾモゾと動かして抵抗した。

「馬鹿、ああん、やめろ。変になるだろうが」

「元々、お前は変だ」

「ちょ、悪かったから、謝るからぁ、パンツ脱がそうとすんのやめろ。変態野郎・・・・」

「どうしたの、二人とも」

 二人の騒ぎを聞きつけてネーナが部屋に入ってきた。

「あ・・・・」

 双葉とタクトは丁度ベッドの上で取っ組み合いの状態であり、双葉の顔はタクトのズボンの股間部分に、タクトの顔は双葉のパンツの下に、それぞれ向いており、互いの体が上下逆さまに重なっていた。それを見て、ネーナは顔を真っ赤にすると、そのまま後ろに倒れてしまった。この後の彼女への説得は、一時間どころでは済まなかった。

 

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