思い出は続く
今まで見て下さった方々ありがとうございます。今回で一応終わりです。また、読んでくれた方はもちろん、ブックマークしてくれた方や、感想、評価をしていただいた全ての方に感謝しております。また読んだ後に何かあれば、是非コメントをお願いします。
黒いローブと鉄仮面を着けた、謎の集団に囲まれ、バームは恐怖のあまり顔を引き攣らせた。アサムに仲間がいたなんて考えもしなかった。一方、隣にいる双葉は汗も掻いていない。何かを覚悟したような眼で、現状を静かに観察していた。
「はあ・・・・、ようやく終わったと思ったのに」
最初に口を開いたのは双葉だった。シェルター内に彼女の溜息が響き渡る。
「次は誰から来るのかな。悪いけど一体ずつにしてよね。こっちは疲れてて不利なんだから」
双葉の言葉に淀みはない。どこまでも純粋で強かった。
黒いローブの者達の中で、リーダー格と思わしき者が一人いた。彼と呼ぶべきかは分からないが、彼だけが金色の鉄仮面を着けており、この中で別格だとすぐに分かるようになっていた。そしてそのリーダー格は、双葉の元に静かに近付いて行った。
バームは逃げ出したかった。しかし少女をここに置いて、一人で逃げ出すなど、彼には死よりも辛い選択となるだろう。
(変だな。コールヘブンが動かないぞ)
双葉も異変を感じていた。自分に敵意を少しでも向ける、あるいは向ける要素を持った者は、例外なく、コールヘブンの抹殺対象に選ばれるはずである。それが一切動かない。彼らに敵意はないということなのか。双葉が悩んだのはその一点だけだった。
「ありがとう」
金色の鉄仮面が野太い声で言った。声色は決して若くなく、だからと言って年老いてもいない。威厳のある低く重い声だった。
「どういうこと?」
双葉は不思議そうに首を傾げた。すると目の前の鉄仮面は再び野太い声で言った。
「我々は、この世界、いや、この世界全てを構成する宇宙を管理する者。差し詰め「機関」とでも名乗っておこうか。我々は本来、感情で動いてはならない。だがアサムだけは違った。彼は突然変異のような存在で、この宇宙を自分だけの物のように扱い、幾多の世界を滅ぼしてきた」
あまりに唐突な話に、双葉もバームも口を開けたまま固まっていた。しかし話はまだ続く。
「世界は、それぞれが全く異なる環境となっているが、いくつか共通するものがある。その一つが、禁断の果実だ。この果物だけは、どの世界にも一つずつ存在している。アサムは世界を回り、それを回収して、回収し終わった世界は滅ぼし、宇宙の塵としていた。そんな奴が、この世界で何をしたかったのかは分からない」
「ちょっと待って。じゃあさ、俺が元々いた世界はどうなっているの?」
「君の元々いた世界は、第7宇宙の2398番目の青き星だな。残念ながらアサムに、禁断の果実を回収された後に破壊されている。もう君の世界は宇宙の何処にも存在していない」
「そんな・・・・」
双葉は項垂れた。この世界にやってきて、二つ目の最悪なニュースだった。
「我々は君を勇者として讃え、永遠に心に刻みつけておくだろう。そして青き星で死亡した君が何故、転生することができたのかは分からないが、敢えて言うなら、それが宇宙の意思だったと言っておこうか」
黒いローブの謎の集団はしばらくすると、再び青い光となって消えてしまった。去り際、双葉に金色の筒を手渡したが、それが何に使う物なのかまでは教えてくれなかった。
双葉はバームと別れを告げて、ユートピアを目指して歩いた。そしてそのユートピアに着いた時、彼女の姿は、この世界の何処にもなかった。
ユートピアはただの砂漠だった。大きな窪みがあったことから、かつてはそこに大きな湖が存在していたのだろう。しかし今はただの砂地となっていた。そして近くには民家が数多く存在していたが、いずれも砂漠の砂に覆われて、最早、見る影を失っていた。ここはかつて楽園だったのだろう。その痕跡が随所に見られた。だが、形あるモノはいつかは滅びる運命にあり、ユートピアも例外ではなかったのだ。
砂漠の窪みに、空から金色の筒が落ちた。それは双葉が受け取った物で、何故それが降ってきたのか、それが双葉の仕業なのかまでは、到底判断のしようがないが、その筒は、砂の上に落ちた瞬間、中身が開かれ、金色の光で世界を包んだ。
荒野は緑色に包まれ草原に、砂漠には数多くのオアシスが生まれた。動物が鳴き声をあげて、壊れ建物が次々と元通りになっていった。
雄大な草原の上で既に骸となっていたであろう青年が起き上がった。そして自分の手足をぼんやりと見つめていると、そこに日傘を差した麗しい女性が近付いてきた。そして彼に微笑みかけてきたのだ。
「行こ、あなたの故郷に・・・・」
「ああ・・・・エリス・・・・」




