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アサム動く

 ウルフは乾いた大地の上を一人歩いていた。彼の心は晴れ渡っていた。自分のことを馬鹿にする兄はこの世にいない。誰も苦言を呈する輩は存在しないのだ。そんな彼の前にアサムが現れた。彼は黒いローブに、銀色の鉄仮面を着けており、一度見たら忘れようのない不気味な姿をしていた。


「ウルフさん。随分と眼つきが変わりましたね」

「お前のくれた、果実のおかげだ」

「ほう、ならば今度は私のために、タクトと、もう一人の小娘の始末をお願いしたいのですが」

「悪いが、あんたの言うことは聞けないな。誰も俺に命令などできないからだ」

 アサムは口元に手を当てて笑った。ウルフはそれを不愉快そうに見ていた。

「何がおかしいんだ。例え貴様でも殺すぜ」

「やれやれ、全く、口で言っても分からない方にはどうするべきか。仕方ありませんね。死にますか」

「うるせえ」


 一瞬、ウルフの方が速かった。彼はナイフを取り出すと、アサムに向かって突き立てた。彼のPHI、スクリーチはアサムが何処から攻撃してくるのか予言している。もし彼が反撃するとしたら、それは右から来る。右からウルフのこめかみに向かって攻撃をしてくる、そう予言していた。

「死ね、鉄仮面野郎」

 ウルフの狙いは一見完璧に見えた。位置取り、速さ、全てがアサムが避け切れないように調整されていた。しかし彼の前にはアサムはいなかった。辺りを見回しても影すら見当たらない。


「ど、何処に消えたんだあああああ」

 ウルフは叫んだ。すると背後から肩をそっと撫でられた。

「チェックメイトですね」

「あ・・・・あ・・・・」

 ウルフは声を振り絞った。だが出てきたのは、言葉にもならない嗚咽だった。彼は今間違いなく恐怖していた。兄のジャッカルに石で殴られることよりも遥かに背筋を凍らせていた。アサムは静かに手刀を振り下ろした。

「があ・・・・」

 ウルフの右肩から鳩尾にかけてアサムの手刀が裂いていく。そしてそのまま手刀を引き抜くと、彼の首を掴んだ。そして無理矢理に地面を向かせた。

 地面には墨のように黒く太い線が引かれている。ウルフには分からない。その線が何を意味しているのか。


「フフフ、一つ良いことを教えてあげましょう。この世界、私達の住んでいるこの世界は、何本かの線でできている。それらが何本も複雑に絡み合い、空間が出来上がるのです。私のPHI、クライマックスは世界の線を自由に作り出すことができます。この世界の線にはルールがあり、線同士がぶつかると0になるのです。ドッペルゲンガーと同じです。自分と同じ姿をした者と出会うと死ぬ。私の能力は正にその現象を利用している」

 アサムはウルフの首を強く締めると、そのまま地面の黒い線に向かって、彼を突き飛ばした。

「うああああ」

 ウルフは叫び声をあげながら、頭から線に激突した。同時に彼の頭が粉々に砕け散った。世界が線で造られているとするならば、そこに住む生物もまた線の集合体なのである。ウルフを構成している線と、アサムの能力によって生まれた線が互いにぶつかり合い消滅。ウルフは「死」ではなく完全な「無」となったのである。

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