スネークバージVSニトロゲンその2
バームは手を押さえて蹲っていた。よほどの威力だったのだろう。手の平にポッカリと穴が開いている。
「俺のPHI、その名もニトロゲンは、簡単に言えば、窒素を集めて、それを光線のように一直線に発射するという能力だ。この世の空気を構成しているほとんどの元素は窒素だ。だから武器に困ることはない。敵に近付かなくとも、砲台のように、ここでひたすら窒素光線を撃っているたけで勝てるんだぜ」
バームはようやく立ち上がると、ニヤッと不敵に微笑んだ。
「ありがとうブローザ。わざわざ能力を説明してくれて。お礼に私も自分のPHIを明かすとしよう。私のPHI、スネークバージは、シンプルに言えば、肉体を爬虫類に変化させることができる。君は今、近付かなくとも倒せると言ったが、残念ながらそれは嘘になる」
「何を言っている?」
「もう一度、今の光線を撃ってみろと言ったのだ」
「ほう・・・・」
ブローザは人差し指をバームの目の前に突き出した。そして指で直線を描くように、右から左にスライドさせた。
指の通過した部分に青い光が、いくつも現れた。それはまるで、真っ暗な洞窟の中で光る蝙蝠の眼のように不気味で、無数に存在していた。
「串刺しだ」
ブローザの言葉と同時に、無数の青い光から、同じく青い光線が放たれた。さっきの窒素光線を一気に、複数本撃ったのである。
「一発ずつではないのか」
「残念だな。お前が技を出す前に、これで串刺し確定だ」
青い光線がバームの体に一斉に放たれた。彼の体は煙を出しながら宙を舞い、そのままクルクルと何回転かすると、綺麗に両足で地面の上に着地した。
「な、効かないだと・・・・」
ブローザは思わず後ずさった。
「ワニだよ。スネークバージにより肉体をワニの鱗に変えた。角質に包まれたこの鱗は、多少のダメージじゃ、ビクともしないんでね」
「今度は私の番だな」
バームは右腕を蛇に変えて、ブローザに飛び掛かった。彼は後ろに下がって避けると、両目から窒素光線を放った。
「無駄だ。肉体をワニの鱗に変化させ・・・・」
言いかけたところで、バームの右腕が光線に撃たれた。そしてそのまま右腕が、彼の胴体を離れ宙を舞った。
「な・・・・」
バームは自分の身に何が起こったのか理解できなかった。ただ、ぼんやりとした双眼で、さっきまで自分の右腕だったソレを見つめていた。
「驚いているようだな。何本もの窒素光線を束ねて一本にしておいたんだ。流石にワニの鱗を持ってしても、防ぎ切れなかったようだな」
「が・・・・は・・・・」
バームはバランスを崩してそのまま倒れた。ブローザは笑いながら彼に近付いた。最早勝負は決した。警戒心の強いブローザも、今回ばかりは心底安心した。もう少し苦戦すると思っていた敵を、以外に早く仕留めることができたからだ。
「止めを刺してやる」
ブローザは仰向けに倒れているバームの眼前に人差し指を向けた。そして最後の一撃を喰らわせようとした。だが、その攻撃は不発に終わる。
ブローザは右手に妙な違和感を覚えた。痺れるような、今まで味わったことのない感覚だった。見ると、彼の手に一匹の蛇が、その鋭い牙を深々と突き刺している。
「うあああああ」
蛇は暴れれば暴れるほどに、強く噛みついてきた。ブローザはそのまま白目を剝いて倒れた。口からは大量の白い泡が噴出していた。
「危なかった。切断された右腕を蛇に変えておかなければ、殺されていたのは私の方だった」
バームは右腕を失いつつも、それを逆に利用して勝利した。




