スクリーチとティラノドレイクその4
酷い有様だった。ウルフは血塗れの状態で、生きているのか、死んでいるのかも分からない上に、タクトは脇腹に、ウルフの肘を受け地面の上で倒れたまま動かない。かなりのダメージなのだろう。大概の攻撃を受けても、表情を崩さないタクトが、硬直したまま、歯を強く噛みしめている。
「さて、能無し野郎のウルフで一人潰せたんだ。上出来だ」
見えない恐竜が、タクトの元に迫っていた。誰もいないはずの荒野の上に、大きな足音が付いた。そしてそれは、少しずつタクトのいる方向に向かっている。
「タクト・・・・」
双葉はタクトの元に走ると、倒れているウルフを抱えて、それを足跡の方に向かって転がした。彼の血が恐竜の足に付着した。そして透明な足の輪郭が、血液の赤色によって見えるようになった。
「タクト、あそこだ」
「痛、分かったぜ」
タクトは拳銃に弾丸を一発、込めると、恐竜の足に撃った。
「命中だ」
透明な恐竜が足に銃弾を受けて、地面に膝を付いた。そして、そのまま一切の動きを止めた。
「クイックリロード、奴の体内に加速エネルギーを与えて、肉体を急速に成長させた。その結果、意識だけが変化に付いて行けずに、体から飛び出したんだ。恐竜に使うのはおかしいけど、いわゆる離人感ってやつだぜ。自分が自分じゃないような感覚、
映画を見ているような感覚だ」
「これがお前のPHIか・・・・」
呆然と立ち尽くすジャッカルに、タクトは再び銃弾を込めると、額目掛けて発砲した。彼の体が宙を舞い、そのまま背中から地面に崩れ落ちた。そして静かに眼を閉じた。
「終わったか・・・・」
銃口を降ろすタクトの横を何かが通った。それは恐竜ではない。恐竜はジャッカルの死と共に消えた。では何が通ったのか。その姿をタクトはある程度知っていたが、あまりに雰囲気が変わっていたので、それが誰なのか気付かなかった。
「兄貴・・・・」
ウルフは、まるで別人のように鋭い眼つきをしていた。まるで10歳ほど歳を取り、一気に貫録というものを身に着けたかのように見える。子供が生まれた瞬間、急に父親の顔になる男がいるように、彼も別人のように変化していた。それは成長と言っても差し支えないものだった。
「悪いな兄貴、俺のせいで・・・・」
ウルフは既に虫の息となったジャッカルを見下ろしながら言った。彼はまだ微かに呼吸をしている。
ウルフは近くの手ごろな大きさの岩を持ち上げた。そしてそれをジャッカルの顔の前に持ってくると、そのまま彼の顔面に、それを落とした。
グチャッというトマトを磨り潰したような音と共に、岩の下から鮮血が地面を伝って流れ出てきた。そしてウルフは、タクトと双葉の方に視線を向けた。
「悪いな、待たせてよ。兄貴にはよく殴られたからな。その仕返しにぶっ殺しちまったぜ。そういや、兄貴は俺のことを足手纏いだの、馬鹿だの言っていたが、俺からすりゃ、兄貴はさらに下らねえ、ゴミ以下だったぜ」
「何を言ってんだお前は・・・・」
タクトは銃口をウルフに向けた。そして引き金に手を掛けた。だが、既にウルフの姿はそこにはなかった。彼はタクトの横に立ち、手首ごと銃を降ろさせると、顔面を思い切り殴り付けた。
「ぐっ」
タクトが背後に吹き飛んだ。そして受け身も取れずに、大地の上を転がった。
「ふううう。俺のスクリーチが成長しやがった。相手の位置を把握するどころか、相手がどの位置から攻撃するのかまで、分かるようになっちまったぜ。思えば、俺の方が兄貴よりも強い能力だったのかもな」
ウルフは双葉の方をチラッと見ると、彼女の眼前に立った。
「なあ、あんたもそう思わないか?」
「どっちも下衆野郎に変わりはないけどな」
双葉が言い終えた瞬間、ウルフの拳が双葉の顔面を殴り飛ばした。そして後ろ向きに倒れる彼女の胸倉を掴むと、無理矢理起こした。
「そう思うだろ?」
「げほ・・・・げほ・・・・」
双葉の唇から血が一滴垂れた。ウルフは双葉の頭を掴むと、今度は地面の上に叩きつけた。
「ぐはあ・・・・」
双葉の体がビクッと跳ねた。そしてウルフが地面から彼女の顔を起こすと、顔面が土と血で汚れていた。
「ふううう、あんたって汚れてても可愛いな。どした?」
「あぐ・・・・げほ・・・・」
「足が震えてるぜ」
ウルフは言いながら双葉の額に頭突きをした。何かが砕ける音と共に、彼女の体が後ろに倒れた。そしてそのまま仰向けに動かなくなった。
「双葉に何しやがる・・・・」
タクトが起き上がり、銃を拾い上げようとした。しかしウルフが先に拾ってしまう。そしてそれをタクトの肩に向けて発砲した。
「ぐ・・・・」
タクトはそのまま意識を失った。双葉も同じように地面の上で、一切動かなくなっていた。
「ふううう、良い気分だぜ。馬鹿にされてた連中に復讐すんのは。このまま町にでも繰り出すか。今なら、世界も征服できそうだぜ」
ウルフは独り言をブツブツと言いながら、二人の前からとっとと消えた。彼にとって、双葉とタクトの始末など、どうでも良かったのである。ただこの成長した能力を使って、世の中を好きに生きたい。それが彼の原動力だった。




