メタモルファンその2
双葉に化けた刺客の女は、タクトに甘えるように寄り添った。彼女はYシャツを羽織っただけの卑猥な格好だった。
「お前、さっきから変だぞ」
タクトの表情が急に鋭いものに変わった。思わず双葉は後ろに後ずさった。
「え、あはははは。変かな?」
「ああ、変だ」
タクトは立ち上がると、後ろに下がる双葉を追い詰めるように迫った。そしてじっと双葉の表情を見つめた。彼女の額に汗が滲む。
「何か可愛いというか、色気があってよ。良いと思うぜ俺は・・・・」
恥ずかしそうに顔を掻くタクト。偽の双葉はそれを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「なあ、どうしたんだ?」
「そ、それは・・・・」
口籠る双葉、彼女は手をポケットに入れている。その中には刃渡り10センチほどのナイフが握られていた。
「多分、タクトといるからだと思う。タクトといるとドキドキするの」
上目遣いにタクトを見つめる双葉。タクトの眼が輝いた。そしてゆっくりと彼女の元へ近づいた。双葉の呼吸が僅かに乱れる。今がチャンスだ。彼女は心の中で呟くと、ナイフをポケットから一気に引き抜こうとした。
「感謝するぜ」
タクトは暗い笑いを浮かべた。そして双葉の顔に強烈な蹴りを喰らわせた。彼女の顔面にひびが入り、そのまま後ろに倒れた。
「うあああ・・・・」
偽の双葉は顔を押さえている。しかしそれとは裏腹に、顔面のパーツが崩れ、本当の顔が露わになった。
「何故、分かった・・・・?」
「分かるに決まってんだろ。本物の双葉がそんな甘ったるい言葉を吐くわけないんだよ。だけど、あんたには感謝するぜ。あいつの顔と声で、甘い言葉を吐いてくれて、少しだけ興奮したぜ」
タクトは拳銃に弾丸を込めた。
「だがな、仮にも双葉の顔を、俺に蹴らせたのは許せん」
タクトは偽の双葉を捕まえると、銃口を頭部に突き付けた。
「さあ、本物に会わせてもらおうか」
「わ、分かったわよ」
「お前の名前は?」
「リリィよ。窃盗でベイビープリズンに収容されてたのよ」
タクトはリリィの案内で本物の双葉を見つけ出した。リリィはいつの間にかいなくなっていた。ただ、双葉を救出することができたので、タクトとしてはこれで満足だった。
「はあ、酷い目に遭ったぜ」
「油断してるからだ」
タクトと双葉は馬を歩かせ、再び旅を再開した。
「たく・・・・」
「あ、見ろタクト・・・・」
双葉が馬上からタクトの肩を叩いた。
「ああ?」
タクトが双葉の指す方向を見ると、何と荒野の真ん中で人が倒れていた。
「前にも同じパターンがあったな」
タクトは馬上から、倒れている男を馬の足で突かせた。反応はない。
「死んでるのか?」
「う・・・あ・・・・」
突然、倒れている男が起き上がった。そしてフラフラとタクトの方に近寄ってきた。
「ああ、助けてくれ。俺はヘクターだあ。苦しい」
ヘクターという男は、タクトのすぐ近くにまで来ると、口や鼻から黒いタールのような液体を吐き出した。
「うおおおお」
タクトは無意識に拳銃でヘクターを撃った。彼の体がフワッと宙に浮くと、そのまま地面に倒れて、黑い液体に全身を覆われそのまま溶けてしまった。
不気味な黒いタール状の何かは、そのままドロドロとタクトの方まで流れ出てきた。彼は気付いていない。黒い液体が、自分の馬の足元に迫っていることを。




