加速
「はあ・・・・はあ・・・・」
双葉とタクトは馬から降りて休憩していた。
「なあ、あの追手は来ないかな?」
「来るさ。だからここで戦う」
タクトは拳銃を握りしめて、双葉から離れた。彼女を巻き込みたくないという配慮だろう。地平線の先から、先程のスキンヘッドが現れた。そしてタクトの方を見ると、ニヤリと好戦的な笑いを浮かべてきた。そして少し離れた位置にいる双葉の姿を見ると、方向転換し、彼女の元に向かった。
「げえ、こっち来た・・・・」
双葉は走って逃げようとしたが、馬のスピードに勝てるわけがない。あっという間にスキンヘッドに捕まると、強引に馬に乗せて、自分の前に座らせた。
「な、何すんだよ」
「へへ、俺の名はミルキーウェイだ。俺はお前みたいな、ガキが大好きなんだよ。大人の女はどうも好かなくてなあ」
双葉の体に虫唾が走った。この世界にもロリコンがいるのだと、何故か妙に納得してしまった。
「おい、そいつを放せよ」
タクトは拳銃をミルキーウェイに向けながら言った。
「嫌だね。へへへ・・・・」
ミルキーウェイは双葉の両胸を両手で激しく揉みしだいた。
「ああ、やめろお、この、変態野郎」
「へへへ、気の強そうなところがなお気に入ったぜ。大丈夫だ。すぐに天国に連れてってやるよ」
ミルキーウェイは言いながら、双葉の首筋に口づけた。双葉は嫌悪で吐きそうになる。こんな中年の嫌らしい男といるなんて、気が狂いそうなほどに不愉快だった。よく痴漢のニュースをテレビで見るたびに、大げさだと思っていた双葉であったが、今回ばかりは、触るということが、いかに許されないことであるかを認めざる得なかった。
「さあてと、こいつを楽しむのは後だな」
ミルキーウェイは馬上から、タクトを見下ろした。そして挑発するように、双葉のYシャツを後ろから破って見せた。彼女のブラが露わになる。しかしタクトの表情に戸惑っている様子はない。
「そいつの貧相な体は見飽きたぞ」
「へ、そうか?」
ミルキーウェイは背後から、今度はブラを外そうと手をかけた。その時、タクトの眼の色が変わった。まるで獲物を狩ろうとする獣のように、ただでさえ鋭い目を、さらに鋭くした。
「そっから先は許さない」
「へえ、許さないのか」
ミルキーウェイが言いながら、双葉のブラを手で摘んだ。
「おい、やめろこの・・・・」
双葉は精一杯抵抗するが、ミルキーウェイには効いていないようだった。全く話にならない。
「忠告はしたぞ。お前がそいつの胸を露わにした瞬間、お前は死ぬことになる」
「けっ、うっせーぜ」
ミルキーウェイは乱暴に双葉のブラを外した。ヒラヒラとブラが宙を舞い、彼女の胸が露わになる。その瞬間だった。タクトの拳銃から銃弾が放たれた。
「無駄だ。俺の劣化の加速には効かない」
「そうだな・・・・」
タクトの弾丸は、ミルキーウェイではなく、彼の乗る馬の額を貫いた。同時に馬が倒れて、双葉とミルキーウェイが落馬する。タクトは双葉だけをキャッチすると、地面にうつ伏せに倒れているミルキーウェイの後頭部に銃口を向けた。
「おい、爺、この近距離なら加速が使えないな」
「ま、助けてくれ」
「俺の追手は何人いるんだ?」
「俺含めて5人だ」
「そうか、じゃあな」
タクトは拳銃の引き金を引いた。その後、タクトは上半身裸の双葉にYシャツとブラを渡すも、ブラの方は千切れており、もう使えなかった。
「悪い。次の町に着いたら下着買ってやる」
「ああ、ありがと。へへ・・・・」
双葉はタクトの顔を見ることができなかった。先程のミルキーウェイを何の躊躇なく殺した彼を見ているうちに、彼が決して善人ではないことに気付いたのだ。そしてその彼女の恐れを察したのか、タクトは静かに口を開いた。
「俺には恋人がいたんだ。そいつはエリスと言って、お前の髪をもう少し長くしたような奴だった。そいつは不治の病で、長くは生きられないカラダだった。あいつはベッドの上でいつも言っていたよ。一度で良いから、ユートピアが見たいと。しかし、あるかないかも分からないユートピアなんて場所に、彼女を連れて行くわけには行かない。寿命が縮むだけだ」
「その人はどうしたんだ?」
「去年に亡くなった。そして俺は決めたんだ。ユートピアとやらを探してやるってな。そしてエリスの墓でこう叫ぶんだ。ユートピアはなかった。お前を旅に連れて行かなくて良かったってな。分かるだろ。俺はユートピアがないことを確認するために旅に出たんだ」
タクトは悲しげな顔で項垂れていると、突然双葉を強く抱きしめた。それもかなりの力で、まるで羽交い絞めにするようだった。
「俺は、ここから10キロ先のクレラット王国の騎士だった。古くから王に仕える由緒正しき家系さ。だが、この旅のために、その一族を捨てて、旅に出た。結果、あんな下衆な追手にまで狙われるようになったがな」
タクトは双葉を離すと、馬に乗せて自分も同じく乗った。そして馬の手綱を引きながら、なおも続けた。
「次の町で降ろすからな。お前は俺に関わるべきではない」
「それは・・・・」
「重みが違うんだ。俺とお前は。それにお前といると、エリスを思い出してしまう。我慢できなくなりそうだ」
「我慢しなくても良いぞ」
双葉は自分で何を口走っているのか分からなくなった。そしてタクトは双葉を、そこから2キロほど先の場所で降ろすと、突然彼女の両手首を押さえて、地面に仰向けに押し倒した。
「何しやが・・・・」
「悪いな。俺も限界だ」
タクトは双葉のYシャツを剥ぐと、彼女の双丘をじっと見つめた。小振りで片手に収まってしまうほど小さい。彼は片手でそれを掴んだ。
「ん・・・・」
双葉は鼻から甘い声を出す。そして顔を真っ赤にした。
(う、ウソだろ。変な声出たぞ・・・・)
アダルトビデオで見た光景とあまりに似ていたので、驚く双葉。そして感じている自分が恥ずかしくて、走って逃げ出したい気分だったが、タクトはそれを許してくれない。
「急にしおらしくなったな」
タクトは双葉の乳首にチュッとキスした。
「はあん・・・・」
双葉の体がビクッと揺れる。彼はさらに双葉の下半身に手を伸ばそうとした。
「あ、ダメ」
双葉は思わず叫ぶと、タクトを突き飛ばした。突然のことにタクトは受け身を取れず、地面に倒れた。
「あ、タクトごめん」
タクトは体に付いた砂埃を手で払うと、笑っていた。
「悪いな、冗談だよ。マジに本気にするなよな」
タクトは笑っていたが、その表情には悲痛の色が見えた。双葉は男だと自分のことを思っているし、彼とそんな関係になる気は毛頭ない。しかし彼がただの情欲に流されているわけでないのも知っている。複雑な思いの中、次の町に到着した。