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メタモルファン

 双葉はトイレにいた。彼女の住んでいた以前の世界とは違い、非常に簡素な造りで、いわゆるボットントイレと呼ばれるものだった。

「はあ・・・・、何か座りションにも慣れてきたな」

 初めは男だった時の感覚で、立ったまましそうになったりして大変だったが、最近はめっきりそんな失敗はしなくなった。寧ろ、女に近付いてきている気さえしていた。例えば、座る時にスカートを踏まないようにしたり、階段などを登る時は、手でスカートの後ろを隠すようになった。

「はあ・・・・」

 自分の情けなさに涙も出ない。男だった頃の記憶は、薄れかけているが。未だに思えているのが、女顔を馬鹿にされたり、男からバレンタインチョコをからかい半分に要求されたことだ。

「むぐ・・・・」

 突然、トイレの戸が開き、双葉は口を手で塞がれた。見ると、爪には紫のマニキュアがしてある。恐る恐る顔を見ると、紫色のロングヘヤーをした女がいた。彼女は唇の下に黒子があり、また双葉ぐらいの年齢にはない、大人の色気があった。


「大人しくしててね」

 双葉は鼻にツンとした匂いのする布を当てられて、そのまま気を失った。女はそのまま双葉を運び出すと、近くのボロイ納屋に、彼女を押し込めた。そして彼女の顎を持ち上げてキスした。それもかなりディープなもので、双葉の口内に舌を尖らせて入れると、彼女の舌に自分の舌を絡ませた。

「レロ・・・・ちゅ」

 女は唇を離すと、コクンと喉を鳴らして、何かを飲み込んだ。そして自分の頬を両手で挟むように触れた。

「メタモルファン」

 不思議な呪文と共に、女の顔と体が双葉そっくりに変身した。

「完璧ね」

 女は水たまりに映る、自分の顔を見てほくそ笑んだ。


 女のPHI、メタモルファンは、相手の唾液を体内に取り込むことで、その相手に変身することができるのだ。彼女は双葉に変身すると、そのまま納屋で眠っている、本物の双葉を一瞥し、手を振ると、そのままタクトの元へ向かった。

「双葉の奴、遅いな」

 タクトは馬上で双葉の帰りを待っていた。そこに双葉の姿をした女が現れた。ニコニコと笑顔で走ってくる。

「ごめんね、遅かったかな?」

「ああ、別に・・・・」

 タクトは馬を走らせようと手綱を掴んだ。その瞬間だった。双葉が急に額に腕を当てて、地面に膝を突いた。

「めまいが・・・・」

「大丈夫か?」

 タクトは焦って馬を降りて、双葉の背中を摩った。全てが彼女の思い通りに動いている。偽物の双葉は舌をペロッと出して笑った。そしてタクトの首に両手を回して押し倒した。


「おい、いきなり・・・・」

「ねえ、タクトぉ、私変な気分になっちゃたあ」

「変な気分だと・・・・?」

 困惑するタクトの顔に双葉の胸が当たる。フニャッと柔らかい感覚が彼の顔を覆った。

「ぐっ、おい馬鹿か。冗談止めろよ」

「ねえ、タクト。ここまで私にさせないでよ。いい加減察してよね」

 双葉はタクトの胸元を人差し指でなぞった。そして熱い吐息を彼の耳に吹きかけるのだ。まるで酷い熱病に感染したかのように、タクトの体は熱で包まれた。

「おい、マジでやばいって。お前、怖くないのかよ」

「怖いよ。でもでも、タクトになら何でもさせてあげたいの。私の恥ずかしい所も、全部見て欲しいの」

「ぬああんだと?」


 タクトの声が歌舞伎役者張りに裏返った。そして顔中から汗を流して、眼は挙動不審になっていた。

「お願いタクト。もう我慢の限界だよぉ」

 双葉は言いながら、タクトの前でブレザーを脱いで、Yシャツのボタンに手を掛けた。

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