ストレンジャー
突然現れた男は、銀のメスを宙に放り投げた。するとメスが空中で突然消えた。
「あ?」
思わず前のめりになる双葉。手品ではない。本当にこの空間から姿を消している。そう思った次の瞬間、隣で何かが刺さった音がした。同時に双葉の靴に血飛沫が掛かった。
「双葉、逃げ・・・・」
タクトの首に先程のメスが刺さっているのだ。そして首から血を噴水のように吹き出しながら、タクトは馬から転げ落ちた。
「タクト危ない」
双葉は地面に頭を打ちそうになるタクトを、直前で拾うと、自分の後ろに座らせて、馬を鞭で叩いた。
「逃げるぞ」
逃げる双葉とタクトを、男は笑いながら見ていた。
「おい、女の方、そいつを降ろした方が身のためだぜ。俺のPHI、ストレンジャーは自分や物体を、同じ軸上の任意の場所に瞬間移動させられる。そしてそれは、自分の心にやましいことや、罪の意識を感じている人間を、優先的に狙うようになっているのさ。その男は相当、自分の行いに罪の意識を感じてるぜー」
男の声を無視して、双葉はタクトと男からどんどん離れて行った。
「双葉、俺を捨てろ。お前まで巻き沿い喰うぞ」
「できるか馬鹿、心配してくれるなら、もっと自分に自信持ってくれ。お前が弱気だから、攻撃対象になってしまうんだぞ。罪の意識とか感じるな」
「無理だ。あんな話の後で・・・・」
いつになく弱気なタクトに、双葉は思わず馬を止めて彼の方を振り向いた。
「おい、どうした?」
「約束してもらう」
双葉は首筋の歯形をタクトに見せた。そして今度は肩を露出させて、右胸の上部を彼の前に突き出した。
「お前が、俺のことを好きだと言うのなら。この戦闘で生き残った暁には、ここに今度は一生消えない歯形を付けても良いよ」
双葉は右胸をタクトの前に出している。もう少し下にずらしたら乳首が見えてしまいそうだった。
「そんなこと・・・・」
タクトは顔を真っ赤にした。
(時々、こいつ強引なんだよな)
タクトの声とは裏腹に、双葉は必死だった。馬を全力速力で走らせて、男が見えなくなるまで無我夢中だった。
「見つけたぜー」
タクトの頭上から声が聞こえる。何とさっきの男が空から降ってきた。
「俺のストレンジャーは、物体以外も瞬間移動できるんだよ」
男は蹴りを放つと、タクトは頭を下げて避けた。地面に着地した男は、ポケットから再びメスを取り出し、タクトの喉元にメスが刺さった。さっきよりも深く奥まで到達していた。
「がは・・・・」
タクトが血を吐きながら、喉を押さえた。そしてメスを引き抜くと、空いた穴からヒューヒューという空気の抜ける音がした。
「やばいぞタクト。呼吸が・・・・」
「大丈夫だ、銃弾を一つくれ」
双葉は言われた通りに、タクトの手に銃弾を一個乗せた。彼はそれを自分の喉の穴に詰め込んだ。
「はあ・・・・はああ・・・・、銃弾に加速エネルギーを込めておいた。これで傷の治癒力が加速する。傷が塞がってきたら、銃弾は取るさ」
男はタクトの姿を見て歯軋りしていた。彼はベイビープリズンの囚人の一人である。




