革命
バームはクレスタ城内の廊下にいた。幼い頃から過ごしてきた場所のせいか、いい加減見飽きた光景だったが、今日だけは違っていた。床には真っ赤な血液が、まるでワインを零したように広がっており、その周りには、腕やら首などを切断され、床を汚す汚物と化した兵士達が散乱していた。
「行くか・・・・」
バームは決意した。そしてアサムによって与えられた力が、こんなにも頼もしく感じるとは予想外だった。彼は王室の扉を開けると、体に血の匂いを沁み込ませたまま、鬼の形相で寝ている父に迫った。
「相変わらずうるさい鼾だ」
バームは自分の冷静さに驚いていた。こんな大事を起こそうとしているのに、こうも落ち着いていられるものなのか、彼自身疑問だった。
「さて、始めようか」
父アガメムノンを殺すことなど造作もない。バームが始めようかと言ったのは、この国のことについてである。
「せめて寝ているうちに仕留める。それが最後の親孝行だ」
バームが父の首に手を添えようと近付けた。その瞬間、彼の腕が蛇に変化した。
「俺のPHI、その名もスネークバージは、己の肉体の一部を爬虫類に変身させることができる。今腕をクロクビコブラに変化させた。こいつの毒液ならば、気付かれずに殺れるな」
バームの腕の蛇が、歯の隙間から毒液を発射した。アガメムノンは目を覚ますと、引き攣ったような顔でバームを見ていた。クロクビコブラの毒は出血毒である。痺れといった症状はないが、患部を壊死させることができる。
「さらばだ」
その後、クレスタ城の玉座にはバームが座ることとなった。アサムはアガメムノンの時代と同様に、参謀としての役割を果たすこととなった。
「王よ・・・・」
アサムはある日、バームの耳に何か告げ口をした。
「タクト様の件ですが、やはり始末した方が宜しいかと・・・・」
「そうだな・・・・」
バームはアサムの言いなりだった。彼は聡明な人間だったが、慣れない国事はアサムの助言なしでは行えない。結局、彼も父と同様にアサムの傀儡として過ごすこととなったのだ。
「タクト様の件なら私にお任せを。丁度、ここから北東に位置するベイビープリズンにて、腕っ節のある囚人達を仲間にしてきました。彼らに始末してもらいましょう」
「囚人を使うのか?」
「ええ、この際だから仕方ありません。今はこの国の栄誉を護る方が大事です」
アサムの言葉に人を落ち着かせる作用でもあるのか、彼の発言は全て正しいように聞こえてしまう。それが彼の怖さであった。




