決意と監獄
クレスタ城内、バームはここである決断を迫られていた。それは父を暗殺すること、そしてこの国を自らの手中に収めることだ。これは功名心によるものではない。父によって、ボロボロになった国を再興するという目的のための行動である。
「おい、アサムよ」
バームは、自分の部屋で椅子に座り、読書に勤しんでいるアサムの方を向いた。
「何です?」
アサムは本をパタと閉じた。そして仮面の先から僅かに光る赤い目で、バームの顔を真っ直ぐに見つめ返した。
「本当にやるのか?」
「ええ、この本にも書いてあります」
アサムは手に持っていた赤い本をバームに手渡した。そこには「宿命論」と、金色の文字が強く印字されていた。
「達の悪い翻訳本だ」
バームはそれを読まずに返した。そして立ち上がった。その顔は何か決意めいたものを感じる。
「この本のオリジナルは見つかっていませんが、この本には良いことが書いてある。宿命とは、全ての人間に生まれつき具わっていると、そしてそれを乗り越えた者が勝利者に、途中で断念した者が敗北者となる。これはあなた宿命なのです。ここで逃げるのは簡単ですが、さすればあなたは敗北者となる」
「分かっている」
バームは立ち上がった。もう後悔はない。せっかく裕樹を振り絞って、禁断の果実を食べたのだ。アサムに嗾けられ、腹も立ったが、自分は最初の試練を乗り越えたのだ。これが宿命ならば越えてみせる。バームはそのまま部屋を後にした。
バームが部屋から消えた後、アサムも同様に、ある用事のために部屋を後にした。彼の向かった先は、ベイビープリズン。殺風景な荒野においても、その存在感を示す大きな監獄があった。ここに収容されているのは、いずれも極悪犯罪者達である。およそ法という物に疎いこの世界でも、彼らの非道な行いは罪となる。
バームはベイビープリズンの中に入った。そして屋根のない、無造作に設置された石造りの牢獄を、一つ一つ見て回った。彼は丁度牢獄の中心部で足を止めると、周囲をぐるっと見渡した。いずれも醜悪な面をした犯罪者達が、彼を敵意に満ち溢れた眼で睨んでいる。
「ふふふ、ここにいる方々は利用できる・・・・」
数日後、ベイビープリズンの看守が久しぶりに監獄の様子を見に来た。この施設は、看守が一週間に一度見回るのみで、後は無法地帯であったために珍しくもないのだが、そんな看守でさえも、思わず顔を背けたくなる光景が広がっていた。
牢獄で項垂れているはずの囚人達が、口から血泡を吹きながら、仰向けに死んでいるのだ。それも一人や二人ではない。そのほとんどが同じような姿で死を迎えていた。後に分かったことだが、囚人の内、6名の死体が見つかっていないという。彼らはいずれも死刑に相当する罪を犯した筋金入りの悪である。




