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意外な決着

 タクトとメリーは正面で対峙していた。驚くことに彼女もPHIの使い手であった。恐らくアサムから禁断の果実を受け取ったと考えられるが、彼女からは他の者達のような邪悪さは感じられない。ただのわがままな駄々っ子というのが、彼女に対する彼の評価だった。

「落ち着いてくれ。あんたはどうしてそんな力を・・・・」

「変な仮面の男からもらったフルーツを食べたらこうなったのよ」

 タクトは拳銃を抜くとメリーに向けた。当然、撃つ気などない。彼女が驚いて逃げてくれることを期待しての行動だ。しかし彼女に恐れはないらしい。平然と両手を腰に当て、手に持っている杖をタクトに向けるのである。


「待て、君を傷付けたくない」

「まるで、私よりあなたの方が強いみたいな言い草ね」

「どっちが強いかなどどうでも良い」

「じゃあこれはどう?」

 メリーの杖の先端から再び、ピンク色の光線が放たれた。そしてそれは真っ直ぐとタクトの元へ向かって行く。

「くそ、こんなもん・・・・」

 タクトは乱暴に2,3発連続で撃った。しかし銃弾は光線に当たると、まるで硫酸でも浴びたように、ドロドロに溶けてしまった。そして勢いを失うことなく、タクトに向かって光線が一直線に来た。

「しまった・・・・」


 光線は見た目よりも遥かに速く勢いがあるようだ。タクトは避けることすら不可能で、ただ茫然と立ち尽くしていた。諦めにも似た哀愁が彼の心を包んだ。

「タクト、危ない」

 双葉は突然、光線とタクトの間に割って入ると、彼を突き飛ばし、自分が光線の的となった。それは一瞬の出来事で、幸い双葉は直撃には至らず、肩の肉を少々抉られた程度で済んだが、光線の当たった部位からは、白い煙が出ていた。

「おい、大丈夫か」

 タクトは双葉に駆け寄ると、彼女の服の襟を引っ張り、肩を露出させた。彼女の白くシミ一つない肩に、まるで作り物のようにヒビが入っている。初めて見る傷の形状に、タクトは思わず声を失った。どうしたらこんな怪我をするものなのか、彼自身不思議でしょうがなかった。


「何をした・・・・?」

「さあね」

 メリーはあくまでもシラを切るつもりらしい。タクトは銃口を再び彼女に向けた。今度は本気だった。可愛い外見に騙され油断すれば、死ぬのはこちらの方だ。特に正体不明の能力である以上、杖から放たれる未知なる攻撃を受けるわけにはいかない。

「くそ、喰らえ」

 タクトの拳銃から銃弾が放たれた。

「クイックリロード」

「無駄よ。マジカルファイヤー」

 メリーの前にピンク色の壁が出現した。先程の能力の延長上にあるものなのか、そこまでは分からないが、タクトの銃弾が壁に命中すると、まるでゴムのように攻撃を、タクトに向かって跳ね返してしまった。

「ごふ・・・・」

 銃弾を腰にもらい、タクトは背後に倒れた。


「げほ・・・・」

 地面に血の混じった痰を吐き捨てる。メリーはそんなタクトを見て笑っていた。

「どうよ。教えてあげようか?」

「ああ・・・・頼むぜ・・・・」

「くすっ、良いわ。私の能力、マジカルファイヤーは簡単に言えば、未知の元素を凝縮して発射する能力よ。分からないと思うけど、未知の元素ということは、この世の何処にも存在しないということ、それゆえに、どんな頑丈な装備で身を固めようとも、決して防ぐことはできない。人間が未知のウイルスに抗体を持っていないのと同じ理屈」


 メリーが説明を終えると、今度は彼女の手にピンク色の長い棒が出現した。

「これも未知の元素で作ったのよ。他にも、羽を作ったり、別の臓器を作ったり、何でもできるのよ。最も、この能力のおかげで得したことは一度もないけど・・・・」

「一つ聞いて良いか?」

「何よ?」

「何故、これほどの力を持ちながら、それを別のところに生かそうと思わないんだ。俺達を始末してどうなるというんだ」

「あのね・・・・」

 メリーはわざとらしく咳ばらいをした。

「私は別に、あんたらを始末しても得はないわ。ただ、あんたは私のことを馬鹿にした。だから許さないのよ」

「本当に、それだけか?」

「そうよ」

「じゃあこれならどうだ?」


 タクトは突然立ち上がると、頭を深々とメリーに下げた。そして申し訳なさそうに言った。

「さっきはすいませんでした」

「な・・・・」

 メリーの言葉を遮ってタクトはさらに続ける。

「申し訳ないと思っている。これで許してくれるか?」

「くうう、ま、まあ別に反省しているなら良いけど・・・・」

 メリーは頬を僅かに赤らめると、決まり悪そうに視線をタクトから別の方向に向けた。

「じゃあ、もう良いか?」

「ああ、ま、まあ反省してるならね・・・・」

 結局、メリーはそのまま何もせずに、ヤギに乗って、何処かへ行ってしまった。

「は、はあ、強敵だった。今までで最強かも知れない。彼女がマジで俺達の命を狙う刺客だったら、今頃死んでいた。そしてアサムの痛恨の人選ミスに感謝するぜ」

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