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マジカルファイヤー

 金髪の美少女メリーは、双葉が譲り受けるはずの馬に触れた。そして優しく撫でた。どうやら馬の扱いには慣れているらしい。

「その馬は俺のだぞ」

「ふん、何よ。女の子のくせに俺だなんて・・・・」

 メリーは鼻を鳴らすとタクトの顔を見た。彼女の瞳がハートマークの形になったのを、双葉は見過ごさなかった。

「何だ、タクトのこと好きなのか?」

「はあ?」

 メリーは眉間にしわを寄せた。まるで馬鹿にするように、双葉を横目で見ると、すぐに視線を馬の方に戻した。美少女は得である。どんな顔をしても絵になるのだから。


「タクトとその馬を交換しないか?」

「おい」

 双葉の言葉にタクトがすぐにツッコんだ。何を勝手に決めているのか。自分が何故人身売買のような対象となっているのかも、彼にはよく分からなかったが、当のメリーは満更でもなさそうな顔をしていた。

「悪くないかもね。この男を召使にするのも。それに顔がとってもタイプなのよね」

 メリーは明らかにタクトよりも年下である。恐らく10代前半だろう。遥かに目下の相手に、顔がタイプと言われるのも中々に屈辱的である。タクトは不愉快そうに顔を歪めた。すると双葉が、タクトに何かを言いたげにアイコンタクトをした。


(早く媚びろよ。馬が手に入らないだろ)

「嘘だろ双葉、俺と馬を交換するなんて」

 タクトは心外だと言わんばかりの顔で、双葉を見ると、今度はメリーの方を見た。彼女の頬がポッと赤くなった。どうやら本気で惚れられてしまったらしい。彼個人の意見としては、どちらかと言えば双葉に惚れられたいところなのだが、そんなことは口が裂けても言えない。


「良いか、お嬢さん。悪いが馬は俺達の物だ」

「ええ、別に譲っても良いわ。その代わりに、あなたが欲しいの・・・・」

 メリーは完全に女の顔になっていた。タクトからすれば、何て生意気なガキだと説教の一つでもしてやりたいところだったが、馬のためにもそれはできない。だから彼は、とっておきの手段に出た。

「悪いな。俺には既に相手がいるんだ。一生を共にする妻がな」

 タクトは言いながら、わざとらしく双葉の肩に左手を組んだ。そして彼女を近付けて耳元で言った。

「おい、協力しろ。今だけ、俺のことを好きな風に演技するんだ。あのガキを追っ払って、馬を奪うぞ」

「ああ、了解」

 こういう時のチームワークだけは良い二人は相互に示しをつけると、双葉もタクトに寄り添う形になった。


「そ、そうなんだ。俺、いや私達付き合ってるの」

 メリーはしばらく無言で二人を見ていたが、明らかに疑っている眼をしていた。何だか、社会の全てを信用していないとでも言いたげな表情で、二人を精神的に追い詰めてくるのである。

「何だか嘘くさいわね。じゃあさ、恋人らしくキスとかしてよ」

「え?」

 二人揃って固まった。こんな熱い大地の真ん中でキスをするなんて、どんな場違いカップルだろうか。そもそも双葉からすれば、男にファーストキスを奪われるなんて、夢でも見たくない展開だった。


「ちょっと待てよ。お子様に見せるもんじゃないさ」

「へ~、本当は恋人同士じゃないでしょ?」

 メリーは目を細めて意地悪く言った。

「一つ質問。私と、そこのガサツ女と比べて、私に無くて彼女にある物って何よ。品性も顔も、全て勝ってるじゃない。この私が」

 タクトはもう聞いていたくなかった。しかしこれで終わるのならと、双葉とメリーを交互に見比べて、静かに語り始めた。

「まずは、双葉の髪型は君の髪形より好きだ。髪の色も好き」

「へ-]

 双葉は眼を細めていた。明らかに納得していない。「俺には良い所がもっとあるんだから言え」とでも急かされているような気分で、生きた心地がしなかった。おまけにメリーも納得していない。


「後はオッパイかな。いや違う、いやオッパイだな。正直、君のオッパイは無いに等しいというか、そうだなうん、双葉のオッパイは、大き過ぎず、小さ過ぎず、ジャストフィットしてるんだ」

 深く物事を考えていない時に出る発言は危険である。タクト自身、それに気付いておらず、今度は手にピッタリ収まるだの、感度が違うだの、およそ他人に、しかも女性に話すような内容ではない話に、どんどん逸れて行く。


「あんたって最低だわ」

 メリーは吐き捨てるように言うと、手を空に向かって掲げた。その瞬間、彼女の右手に、突然宝石などで装飾された杖が出現した。

 杖は先端にピンク色の宝石が付いており、柄の部分は白く、まるで作り物の玩具に見えた。彼女はそれをタクトに向けると、中から宝石と同じ色をした光線が放たれた。

「危ない」

 タクトは咄嗟にそれを避けた。

「PHIか・・・・」

「そうよ、その名もマジカルファイヤー。まさかあなたが知っているなんて意外だったわ」


 メリーは再び杖を向けようとした。攻撃の正体が掴めない以上、下手な戦闘は命取りとなるだろう。タクトは何とか、彼女を止めようとした。

「待て、待ってくれ。あんたも魅力的な女性だと思うぞ」

「今更遅いわ」

「くそ、闘うしかないのかよ」

 ついに始まった馬争奪戦、タクトは拳銃を取り出すと覚悟を決めたようだった。

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