表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/43

ブロークンハートその3

 タクトの耳からウネウネと白いミミズのような物が見えていた。見た目で判断するに、回虫などの寄生虫の類に見えるが、真意は分からない。

「これは・・・・」

 双葉が銃を構える前に、白い物体はタクトの耳の中に戻ってしまった。同時に倒れていたタクトが起き上がる。

「あれは何なんだ」

 双葉はマックスに銃口を向けた。

「それに答える必要はないが。教えてやるよ。そいつは俺のPHI、名付けてブロークンハートさ。先日、鉄仮面の男にもらった力だ」

 言いながらマックスは先日の出来事を思い出していた。


 マックスは誰からも好かれている人気者だった。この荒れ果てた大地で、彼の人懐っこい性格と笑顔は、多くの人の希望となっていた。一人でいる人間を見れば、率先して励まし、困っている人がいれば、自分の利益も投げ捨てて助ける。とにかく彼は善人のレッテルを張られていた。しかしその腹の底までを知る人間はいない。

 ある日、いつものように道を歩いてたマックスの前に、黑いローブを着た鉄仮面の、奇妙な格好をした男が、荒野の上で倒れているのを発見した。行き倒れなど珍しくはない。彼は男を家まで運び、看病してやった。しばらくして男は目覚めた。


「ありがとう。助かりましたよ」

「当然のことをしただけさ」

 マックスはいつも通りの屈託のない笑顔を見せた。

「しかし本当に良かった。他の人間が目撃していて。君が私を助ける姿を」

「どういう意味だい?」

「簡単さ、私を助けて、町の中での君の評価がまた上がる。素晴らしいことです。それを狙っていたのでしょう。もしこれが、人通りの少ない荒野の果てであったのなら、あなたは私を助けなかった。名声が手に入りませんからね」


 男の言葉はマックスの胸を刺した。初めてだった。自分の腹の内を人に読まれたのは。彼が人を助ける、親切にする理由はただ一つ。男の言う通り、名声が欲しかっただけなのだ。もし仮に、まっくすがこの町で強盗を働いても、姿を見られない限り、誰も彼を疑ったりしないだろう。彼はそれを狙っていた。町の人間の信頼を集め、自分を町の英雄にすることこそ、彼の人に親切にする理由だった。

「動揺していますよ」

 男は倒れそうになるマックスを支えた。これではどちらが病人なのか分かったものではない。それからマックスは男と仲良くなった。彼ならば綺麗ごと抜きに本音を話せる。結局、町の人気者は、本当の友人を持っていなかったのだ。


 その後、男から受け取った赤い禁断の果実を食べたマックスは、彼のために忠誠を誓い闘うことを決めた。彼の人生がようやく始まったのである。


 話は双葉とマックスの闘いに戻る。

「今、お前が見た白い紐のような物は、俺のPHI、ブロークンハートの本体だ。小さくて弱そうに見えるだろうが、こいつの本質は人を殺めることじゃない。こいつは人の耳から脳に入り、ちょいと細工をするんだ。人の脳はデリケートでね、少し弄るだけで、簡単に人格が変わっちまうのさ。それだけ人格というのは危ういのさ」

「何が言いたい」

「つまりだ、ブロークンハートが脳に入ることで、そいつは人格を凶暴なものに書き換えられてしまう。良くあるだろう。事故などで脳にダメージを受けた奴が、依然と全く異なる正確になることが。大人しい奴が凶暴になったり、凶暴な奴が泣き虫になったり。人格なんてその程度のものよ」


 タクトは立ち上がると双葉を羽交い絞めにした。そして彼女の耳に噛みついた。

「だめ、タクト。んん・・・・」

 双葉の体がビクッと跳ねた。

「ああ、力が抜けちまう・・・・、だけど手はある」

 双葉は思い切り頭を後ろに振った。タクトの額と彼女の後頭部がぶつかり、彼は少しよろけた。

「終わりだマックス」

 双葉は銃をマックスに向けて発射した。

「ぐはああ」

 マックスは銃弾を右肩に受けて、そのまま背後に倒れた。彼は一つの失敗に気が付いた。それは双葉がてっきり銃を使えないと勘違いしていたことだ。彼女は既にいくつかの闘いを乗り越えて成長していた。銃を発砲することに抵抗感などなかったのだ。


 双葉は銃口を、倒れているマックスの腹にグイグイと押し付けた。そしてドスの効いた声で言った。

「タクトの虫を解除しろ。じゃないと私も本気で行く」

「わ、分かったよ解除するよ」

 マックスが言った矢先だった。タクトは後ろから双葉を再び羽交い絞めにすると、彼女の耳元で小声で呟いた。

「おい、どこが一番感じるんだ?」

「早く能力を解除しろ」

 双葉の言葉にマックスは震えているだけだった。そうしているうちにタクトが、後ろから双葉の唇に手で触れた。

「ほら、早く言えよ」

「ん、やめろ・・・・」


 マックスは怯えながら、立ち上がると困惑していた。

「お、おかしいぞ。俺はとっくにブロークンハートを引込めているんだ」

「何?」

 双葉はタクトの顔をチラッと見た。彼の顔がニヤリと笑っている。その上、少し鼻の下を伸ばしている。

「野郎・・・・」

 双葉はタクトの胸倉を掴むとそのまま背負い投げをした。

「お前、この状況を利用して何してんだ」

「ち、違うんだ。本当に操られていた気がして。何だよ解けてたのかよ」

 かなり無理な言い訳に、流石の双葉も哀れに思った。もう怒るエネルギーもない。怒られるうちが華とはよく言ったものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ