ブロークンハートその2
「あっしが馬を引きますよ」
マックスはタクトと双葉を馬に乗せると、自分は馬を引きながら歩いた。
「良い奴だな」
「そうか?」
タクトは双葉の方を振り向くと、彼女の耳元で小さく呟いた。
「なあ、お前さあ.あいつのこと好きなの?」
「はあ?」
「どうなんだ?」
「俺は男だ」
マックスは歩みを止めると、ポケットから知恵の輪を取り出した。
「お二人とも、喧嘩なさらずに、知恵の輪やります?」
タクトは知恵の輪を受け取ると、それを遠くに投げた。
「おい、お前何のつもりだ?」
タクトは足でマックスを蹴り飛ばした。彼はそのまま地面に顔を突っ込んだ。
「おい、タクト」
驚いたのは双葉だった。いきなり人を蹴るなど、彼らしくない行動だ。しかしタクトは、興奮冷めやらぬ様子でこ今度は双葉に掴み掛かった。
「お、落ち着けよ」
「うるせえ」
タクトは双葉の服の胸元を強引に開くと、ブラの上から、彼女の胸を揉んだ。
「な、馬鹿が。男の胸なんて揉むな」
「これが男の胸だと。この膨らみが」
タクトは双葉に雪崩れ込む形で馬から降りると、彼女を地面に押し倒した。
「何するんだよ、お前らしくない 」
明らかに異常なタクトの様子に、双葉は激しく動揺した。ふと、前を見ると、倒れていたはずのマックスが口元を歪めて笑っていた。
(あいつ…)
双葉は思った。何か攻撃を受けている。しかしそれが分からない。いつしたのか、何をしたのか、攻撃の正体が掴めない。
あのマックスという男は、タクトに何かをした。これだけは確実だった。日頃の彼はどちらかと言うとクールで、怒ることはあっても、突然、暴力的な手段に出ることはまずない。そしてこんなに理不尽な言葉を吐くような男でもない。
「おい、放せよ」
「うるさいぞ。俺は怒っているんだ」
タクトは双葉のスカートに手を突っ込んだ。そしてモゾモゾと探るように動かした。
「ふあ・・・・やめ・・・・」
双葉の顔が蕩けた。体の力が抜けていく。慣れない感覚に体がびっくりしているのか、全身に電気を浴びせられたように、四肢が少し痙攣していた。
「くそ、悪いなタクト・・・・」
双葉は申し訳なさそうにタクトを一瞥すると、辛うじて自由の利く右足で、彼の急所を思い切り蹴った。恐らく男なら誰もが眼を覆いたくなるような陰鬱な一撃、当事者の双葉も、自分が女性として転生する以前のことを思い出し、その痛みは筆舌に尽くし難いことを知っているので、ただ彼に申し訳ないと思っていた。
タクトは双葉から力を緩めると、簡単にその支配から脱出することができた。そしてタクトの胸ポケットから拳銃を奪うと、タクトの右耳から何か白い物が出てきているのを発見した。




