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ブロークンハート

 クレスタ城、ここは騎士達の王国である。世界の8割が草木の生えぬ荒野でできているこの世界で、数少ない緑にあふれる国。しかし、そこは恐怖と陰謀によって治められているディストピアである。

 深夜、見張りの兵士を除いて、多くの者が眠りについているその時間に、バームは城内の廊下を歩いて回っていた。松明の火が廊下を照らしており薄暗い。彼はいつもこうやって城を見張っている。要するにこれが彼の日課なのである。


 バームが縦に長い廊下を歩いていると、反対方向から鉄仮面を付け、黑いローブを身に纏った男がこちらに向かって来た。バームは彼を知っている。彼はアサムといって、財政が破綻し、没落しかけていたクレスタ城を救ったいわば英雄であり、命の恩人。しかし彼はアサムを尊敬することはなかった。何故なら、奴は自分達を救うつもりなど毛頭無く、利用しようとしているだけなのだから。

「何だ貴様か?」

 バームはアサムを見ると、不愉快そうに眉をしかめて、さっさと横を通り抜けようとした。

「おやおや、これは手厳しいですね。せっかく良い知らせを持って来たというのに」


 アサムはローブの袖に指を入れると、中から真っ赤な実、禁断の果実を出した。

「それは・・・・」

「これをあなたにあげましょう。使う使わないは自由ですが」

「このリンゴは、食べると死ぬのだろう?」

「ええ、才能の持たぬ人間が食べた場合は、果実の毒に対する抵抗力がありませんから。しかし、弟ができたことを、兄のあなたができないなんて、考えたくありませんよねえ?」

「野郎・・・・」

 バームは歯軋りしながら、その果実をアサムから奪うように取った。そして表面を見た。ツルツルで光っている。まるでガラスか何かで作ったレプリカにも見える。


「一つ聞くが、お前は私に何をさせたい?」

「ふふ、簡単なことです。この国をあなたの父、アガメムノンから奪うことです。彼は国王としてはあまりに無能で、使えない。だからあなたが代わりに治めるのですよ」

 バームは鼻で笑った。そして憎悪に満ちた眼で、アサムを睨み付けた。

「私が父を殺せると思うのか・・・・」

「できますよ。あなたなら。だって、あなたは現状に満足していない」

「私は、この国が平和ならばそれで良い・・・・」

「12」

 アサムは窓から外の景色を眺めながら言った。

「何だそれは・・・・」

「一日にこの国で処刑されている人間の数です。あなたは知らないでしょう。この国の真の現状を」

 アサムの言葉が引き金になったのか、バームは右手に乗せていた禁断の果実に歯を立ててかじった。

「それで良いのです。ふふ、さて私は仕事に戻りますかね」



タクトは馬の手綱を強く引き、その場に止めた。前方には見るからに不安定な吊り橋がある。ここを馬で越えるのは不可能だ。

「さてと、仕方ないから飛び越えるか」

 タクトは双葉に背中に腕を回して、しっかりと離れないように言うと、そのまま崖まで馬を走らせて跳んだ。一瞬の浮遊感、そして馬は向こう岸に着くと、両足で着地した。着地の際のダメージは加速エネルギーにより、足の強度を高めることで防いだ。

「さて、行くか」 

 タクトが馬を走らせようとしたその時だった。馬が何かに躓いて、横に倒れた。タクトは双葉を抱えると、上手く地面に着地した。見ると、そこには、タクトと同じぐらいの年齢に見える、無精髭を生やした男が倒れていた。


「おい、タクトまさか・・・・」

「待て、俺は引いてないぞ。元々倒れていたんだ」

 タクトと双葉は、倒れている男に駆け寄った。

「大丈夫かあんた・・・・」

 タクトの問いかけに、男は笑いながら手を振って答える。

「ああ、平気さ。俺はマックスって言うんだ。ただの旅人さ。この先の大地の果てにあるというユートピアを目指しているんだよ」

 マックスという男は、人懐っこそうな顔をしていた。決して整った顔立ちではないが、寧ろそれが、ひょうきんで見る人を愉快にさせるのである。


「奇遇だな、俺らもユートピアを目指しているんだ」

「ほう、よろしければご同行させていただいてよろしいですかね?」

「あ、それは・・・・」

 タクトはバツが悪そうに、こめかみをポリポリと指で掻いた。こんな無邪気な笑顔で頼まれたら、断り辛い。そこに双葉が割り込んでくる。

「良いよ。別に・・・・」

「おい待て・・・・」

 タクトは双葉の両肩を掴むと、マックスから離れて小声でヒソヒソと愚痴めいたことを言い始めた。

「おい、ふざけんなよ。何勝手に決めてんだ?」

「別に良いじゃん。仲間は多い方が」

「違うんだよ」


 タクトが必死な形相で双葉を説得していると、マックスが両手にパンを持って歩いてきた。

「どうです、こっちで一緒に食べません?」

「え、ホント?」

 双葉の顔がパッと明るくなった。実は最近、まともな食事が採れたためしが無い。いつも大体、サソリなどの、生き物を食い繋いで生きていたので、パンは貴重な食料だった。

 マックスは双葉の手を取ると、近くの岩場に向かって歩いた。すると、タクトがまるで割り込むように二人の間に入ると、双葉の手を掴んで、同じ方向に歩き始めた。双葉は不思議そうな顔で、タクトを見ていたが、彼は双葉のことを見向きもしていなかった。


「おい、良く聞けよ。あの男と話すな」

「は、はあ?」

 双葉は思わず素っ頓狂な声をあげた。

「もしかして嫉妬?」

「違う。とにかくお前は、他の奴に手を握らせたり、コミュニケーションを取るなと言っているのだ。これは嫉妬じゃないぞ。刺客の可能性のことを言っているんだ」

 説明しているタクトの顔は真っ赤だった。実に分かりやすい性格に、双葉は吹き出しそうになっていた。そしてそれを遠目でマックスが見ていた。

(くくく、我がPHI、ブロークンハートの射程に入ったな)

 マックスは岩場に腰を掛けると、パンを一口かじった。



 

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