ドールズの恐怖その2
タクトは、双葉の帰りを待っていた。トイレに行ってから30分近くも経っている。女性のトイレの時間を気にするなど、デリカシーがないと、我ながら思ったが、流石にこれは平穏ではない。
「あのう?」
「ん?」
タクトの前に、小太りの男が現れた。顔にはニキビの膿んだ跡がたくさんあり、手には女の子の人形を握っている。怪しいを絵に描いたような男だった。
「俺に何か?」
「あのですね、さっきあちらにいた女性から、伝言を頼まれたんですが、なんかもう少し時間が掛かりそうなので、先に行ってくれと仰ってました」
男はやけに腰が低かった。タクトは訝しい表情で男を見ると、急に大きく溜め息を吐いた。そして決まり悪そうに髪の毛を掻くと、財布から、一枚の金貨を出した。
「悪かったな。伝言役させちまって。これはチップだ。受け取ってくれ」
タクトは男に金貨を渡すと、彼の手にある
少女の人形に視線が移った。
「やけにリアルな人形だな。まるで生きてるみたいだぞ」
「あへ、そうですかい?」
(マズイ、こいつ勘が鋭いぞ)
男は顔を青くすると、人形をサッと手の後ろに隠した。
「おい、隠すなよ。ケチか。俺はこれでも人形を昔集めてたんだ。恥ずかしくて誰にも秘密だけど…」
「は、はあ…」
(こいつ、人形の良さが分かるのかよ。敵じゃなけりゃ、おでと友達になれたんじゃないか?)
タクトは男の手を無理矢理前に、引っ張ると人形を取ろうとした。男は焦って、その人形を口の中に入れた。
「ほれはだいひなもろらのれ」
「おい、汚いだろ。何してんだよ」
タクトは男の口に両方の指を突っ込むと、無理矢理に口を開けさせた。
「早く吐き出せ」
遂に観念したのか、男は口から唾液まみれの人形を地面に吐き出した。タクトはそれを服の袖で掴むと、濡れた布で、丹念に拭いた。
ピカピカになった人形に微笑みかけると、チュッと人形の頬にキスをした。
人形の頬が僅かに赤くなった。それを見たタクトが、鋭い眼で男を睨んだ。
「おい、この人形、今赤くなったぞ。これ本当にただの人形か?」
「ほ、本物に決まってるでしょ」
「まさかあれか、夜になると髪が伸びるとか、呪いの人形じゃないか?」
タクトは良く人形を観察した。誰かに似ている。というよりもそっくりだ。
「これ双葉みたいだな」
タクトの言葉を聞いて、男は笑った。
「フフフ、ようやく気付いたな。それはおでの能力、ドールズにより人形になった双葉なのだ。そして今気付いたが、ドールズの能力は、おでの念が籠った人形に触れた者を、同じく人形にする。つまり…」
「つまり何だよ」
「おでの双葉人形に触れたお前は、既に、おでの術中」
同時に、タクトの体を青い煙が包んだ。




