表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/43

双葉とタクト

 タクトは双葉と近くの宿に泊まっていた。そしてベッドで彼女の看護をしていた。

「あ・・・・」

 双葉は眼を開けると、起き上がろうとした。タクトは彼女を肩を優しく掴んで、再び、ベッドに戻した。

「寝てろよ。俺のことは良いから」

「だけど、痛てて・・・・」

 双葉は下腹部を手で押さえて、苦しそうに小さく唸った。この光景、タクトにとってはエリスを看護していた頃を思い出すもので、辛いような、嬉しいような複雑な気分だった。

「痛いのなら、消毒しないとな」

 タクトは消毒液を脱脂綿に浸すと、それで双葉の毛布に手を入れようとした。

「馬鹿、良いよ。自分でするから。ハズいだろ」

「ああ、悪い」

 

 タクトは近くの椅子に座った。そして窓の景色をぼーっと見ていた。

「野郎、強引に突っ込みやがって、痛たた」

「血とか出てないか?」

「ああ、血は出てない。すごく痛いけど・・・・」

「俺、外見てくる。追手が来てないか不安だしな」

 タクトは部屋の戸を開けた。

「ね、ねえタクト?」

「ああ?」

「何か、お前さ、優しくない?」

「俺は誰にだって優しい男さ」

 タクトはそのまま廊下に出た。そして階段を降って、太陽の照りつける不毛な大地を見て、思わず溜め息を吐いた。

「誰でもは嘘だな。もう失わないぜ、俺は・・・・」



 とある町、町と言っても、そこはただの吹き溜まりである。荒野は方向感覚が分からず、危険であるので、ユートピアを目指す旅人や、商人でもない限り、敢えて外に出ようなんて物好きはいない。事実、この町には多くの人間が集まり、賭博や喧嘩、強盗など、つまらない諍いを起こしては、それだけを生きがいとする連中で溢れていた。

 その中で、やけに大規模な喧嘩をしている男がいた。金髪の髪を雑に刈り上げ、上半身裸の屈強な男。筋肉は腕と脚、そして腹筋が割れている程度で、無駄に盛り上がっていない。寧ろ、必要な部分にだけ筋肉を付けている、極めて機能的な肉体をしていた。その彼の周りには、死体の山が転がっていた。


 死体にはハエがたかり、この暑さなので、すぐに腐敗して、独特の悪臭を周囲に放っていた。彼は拳だけで、人を殴り殺していたのだ。彼の元に鉄仮面を被った。貧相な体の男が近づいく。

「もし、そこの・・・・」

「ああ?」

 金髪の男はまるで野獣のように、八重歯を出しながら、その血走った眼を鉄仮面に向けた。しかし彼は全く怖気づく様子はなく、淡々と喋り始めた。

「あなたは、素晴らしい才能をお持ちだ」

「ああ、当たり前だろ。俺は最強さ」

「だが、惜しいなそれは喧嘩だけだ。あなたは確実に喧嘩ではエキスパートだと言うのに」

「何が言いたい?」

 二人の会話を周囲のやじ馬達は、耳を傍たてて聞いていた。下手をすれば殺される。周りの人間達の眼が恐怖で強張った。


「この実を食べるだけで、あなたはこの世のどんな生物にも負けない、最強の人間となれる」

 男の目の前に、赤い色の果実が出された。男はそれを乱暴に掴むと、一口齧った。

「悪いが、金は払わないぜ。これ喰って良いんだろ?」

「ええ、勿論」

 鉄仮面はニコッと微笑んだが、口元しか見えないため、かえって不気味に見えた。

(禁断の果実は、極めた人間が食べることで、PHIを発現させる。それが加速である必要などない。喧嘩、勉学、料理、乗馬、運動、何であれ、ある特定の分野を極めた人間は、PHIに目覚めるきっかけを得るのだ)


 その日以降、金髪の男は喧嘩をやめた。怪しげな鉄仮面共に、町を出て荒野の先に消えたのだ。彼の名はアクセルという、有名な喧嘩屋であったが、彼の目的は変わった。それは手に入れた素晴らしい力を使って、タクトと双葉という、二人の人間を殺すことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ