表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/43

少女に転生

 その少年は美しかった。歳は17で青春真っ盛りの彼は、学校ではその女顔で有名だった。しかしその性格は粗暴で、どちらかと言えば不良だった。それはコンプレックスである女顔を、何とか誤魔化すために彼なりに考えた演技であったが、多くの生徒は彼を恐れた。だからいつの間にか彼は孤立していた。


 その日も、いつも通りに学校へ向かっていた彼を一台のトラックが刎ねた。当然即死である。彼の死体は原形を留めないほどに、醜く変形していた。身元も探すのも一苦労であったが、ようやく見つけても、彼の死を悲しむ人間はいなかった。



 それから、どのぐらい経っただろうか。死亡したと思われた少年は荒野の真ん中で倒れていた。

「うん・・・・」

 少年は体をゆっくりと起こすと、眼を見開いた。そこには無限に続くかのような荒野が広がっていたのだ。そして熱砂を含む風が吹き荒れる。彼は思わず顔を手で隠した。そして自分の手を見て、さらに驚いた。

「あれ・・・・?」

 彼の手は、白く細く、少し力を加えれば折れてしまいそうなほどに華奢だった。

 少年は女顔ではあったが、体格は他の男子と同じように、ある程度はガッチリとしていたし、運動部ではなかったが、毎日の筋トレは欠かさなかった。だがその腕は少女のように弱々しく見える。少年の身に起きた変化はそれだけではない。もう一つは声色である。変声期を迎えた彼の声は、もっと低かったはずだが、口から発せられたのは、少女らしいソプラノボイスだった。百歩譲っても、変声期前の男の子というのが限界で、それでさえ無理があった。


「何がどうなって・・・・」

 ふと、髪に触れると、肩まで伸びていてサラサラと柔らかかった。それを手で弄び見ると、薄い栗色で、色自体は今までと同じであったが、短く切り揃えていたそれとは異なり、セミロングとも呼べる髪型をしていた。あの固いストレートな髪質は何処に行ったのか不安になった。


 少年は立ち上がると、背後を振り向いた。そこには西部劇によく出てくるような町が広がっていて、幅の広い荒野の道を挟んで、木や藁で造られた建物が並んでいた。

 少年は無意識に町の中に入ると、町の中で一番大きな建物に入った。


 そこは酒場だった。茶色の木のテーブルがいくつも並んでおり、奥にはカウンターがあった。座っているのはいずれも口髭を蓄えた男達で、誰もが陰気そうな顔で、ジョッキに注がれた酒を飲み交わしていた。

 少年は小さな体で、周りの男達を見ながら、カウンターの隣に設置してあった鏡を見た。そこで彼は、思わず息を呑んだ。鏡の前には見知らぬ少女が立っていたのである。それも、彼の通っていた高校の女性用の紺のブレザーを身に纏い、栗色の髪の毛が肩まで伸びて、毛先が可愛らしくクルリと丸まっている。肌は白くて、瞳が大きく、睫毛も長い。小振りな鼻に、赤い果実のような唇、美少女と言う言葉が、ここまで似合う人間を見たのは生まれて初めてだった。しかしその顔は不安げに瞳を潤ませている。


「ああ・・・・」

 少年は自分の顔にそっと触れてみた。鏡の前の少女も全く同じ動きをする。そして彼は気付いた。自分が少女になっていることに、そして声にならない叫びをあげなら、鏡に両手を突いて項垂れた。

「これは、何かの陰謀だ」

 少女となった元少年は、ブレザーの下から手を入れて、胸元に触れた。そこには付け方すら分からないような下着が付いており、さらに手を入れると、男には絶対に存在しない柔らかなふくらみがあった。

「うああ・・・・」

 思わず床に尻もちを突いて、今度はスカートの中に手を入れてみると、そこには有るべき物が無くなっていた。それは男の大事なシンボルである。


「おい、そこのお嬢ちゃん」

 落胆する少女の肩を、筋肉質の屈強な男が掴んだ。そして無理矢理に彼女を立たせると、小さく讃嘆の声を上げた。

「おお、皆見ろよ」

 男は少女をテーブル席の男達に振り向かせると、全員が全員とも、嫌らしい目つきで少女を、足元から頭の先まで、マジマジと観察していた。その様子に少女の顔が歪む。

(こいつら・・・・、嫌らしい眼で見てやがる)

 少女はさっきまで落ち込んでいたのも何処へやら、下唇を前歯で強く噛むと、筋肉質の男の脛を、右足で思い切り蹴った。

「痛・・・・」

 男の体が大きく仰け反った。

「この変態野郎。男の体見てニヤつくんじゃねえ」

 少女は黄色い声とは裏腹に、ドスを効かせて言うと、そのまま酒場から出ようとした。しかしそれを別の男に阻止される。


「君、ちょっと生意気だなあ。おい皆、こんなところに女とは珍しい。ちょっと遊ぼうぜ」

 男達の下卑た笑いが酒場中に響き渡る。男達は少女の手足に巻き付くように、彼女を雁字搦めにして、テーブルの上に仰向けに倒した。

「あぐ・・・・」

 少女は背中を強く打ちつけると、苦しそうに呻いた。男達は少女に襲い掛かると、まず彼女のブレザーに手をかけて脱がした。そして次に、下に着ていた白のYシャツに手をかけて、引き千切ろうとした。

「バカ、やめろよ」

 少女は手足をバタつかせて抵抗したが、男の、しかもこんなに大勢を相手にするのは不可能だった。だから簡単に力で押さえつけられてしまう。

「へへへ、さっきまでの強気はどうしたんだ。ええ、この・・・・」


 男の一人が、少女のYシャツをボタンごと無理矢理引っぺがした。そして彼女の薄い緑色のブラジャーが露わになった。男達はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。少女の顔が悔しさと恥ずかしさで紅潮した。

「へへ、次はこれを取りましょうかね」

 男の一人がブラに手をかけて、無理矢理に引き千切った。少女の小ぶりな胸がブルンと揺れた。

「あ・・・・」

 少女は手足を押さえつけられた状態で天井を見て涙を流した。屈辱だった。今まで、剣かで負けたことはなかった自分が、こうもあっさりと辱めを受けたと思うと、悔しくて死にたくなる。だが男達はそれだけで満足してくれるほどのお人好しではない。

「さあてね、ここをこうしたら泣いちゃうかな?」

 赤ん坊をあやす様に男が言うと、彼女の右胸を手で思い切り握り、そのまま激しく揉んだ。

「痛、痛えよ。やめろよ・・・・」

 少女は涙をポロポロと流しながら、歯を食いしばり耐えていた。だが涙は止めどなく頬を濡らし、男達を増長させていく。そのうち別の男が、今度は唇から下をペロッと出して、少女の胸に、舌の先を近付けた。彼女の薄いピンク色の乳首が、恐怖でピクンと揺れた。


「へへ、泣け、泣き顔見せろ~」

「うう、嫌ぁ・・・・」

 少女は顔を散々泣き腫らしていた。そして男の舌が彼女の乳首に触れようとしたその時、酒場の壁が大きな音共に破壊された。

「な、何だ?」

 驚いた男の顔を、破壊した壁の中から出てきた若い男が、思い切り殴り付けた。

「ぐあああ」

 大柄の男は、自分の半分ほどの体型しかない若い男に吹っ飛ばされて、泡を吹き、気絶した。

「ほら、行くぞ」

 若い男は透き通るような声で、少女の耳元で囁くと、彼女の腕を引いて、壊した壁から酒場の外に出た。そして追手の男達から逃れると、そのまま馬に飛び乗り、少女の手を引き、自分の背中に掴まらせると、そのまま一気に馬を走らせ、陰気な町を出た。


「ここまで来れば良いか」

 男は荒野の真ん中で馬を止めると、少女の方を振り返った。

「ありがと・・・・」

 少女は戸惑いながらも頭を下げた。その若い男は、短い黒髪をしており、風に揺られて、靡く前髪が綺麗だった。容姿も良く、眼は切れ長で刃のような鋭さがあった。そして鼻筋は通っていて高く、何となく知性と言うものを感じさせる、爽やかな印象を受ける青年だった。見た目で判断するなら、少女よりも少し年上に見える。


「俺はタクトだ。お前は?」

「お、俺は・・・・」

 少女が言いかけたところでタクトは笑った。

「何だよお前、女のくせに、俺とか言うのか・・・・?」

「な、女じゃないぞ俺は。れっきとした男だ」

 少女は心外とでも言いたげな表情でタクトを睨み付けた。

「ごろつきに襲われて泣いてたくせに」

「泣いてねえ」

 少女は噛みつくように言った。するとタクトは少女の潤んだ目元に、そっと人差し指で触れた。手が僅かに湿った。

「やっぱ泣いてるじゃん」

 タクトは少女を降ろすと、そのまま馬を走らせて何処かに行こうとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ」


 少女は焦って、馬に跨るタクトの足を掴んだ。彼は不愉快そうに少女を睨み付けた。その迫力に、少女も少したじろいでしまうが、すぐに彼女らしい、強気な表情に戻った。

「俺を、こんなところに置いてく気か?」

「ああ、お前の家はここらじゃないのかよ。そもそも俺がお前を助けたのは気まぐれだぞ。なんでお前の面倒まで見なきゃならないんだよ」

「それは・・・・」

「それにさあ、お前、胸隠せよ。本当に男みたいだな」

 タクトの言葉に、少女はガバッとYシャツを手繰り寄せて胸元を隠した。いわゆる半裸の状態である。

「俺は本当に男だよ。ちなみにここはどこなんだ。まさかアフリカか?」

 少女の言葉にタクトは首を傾げた。アフリカと言う言葉に聞き覚えがないのか、小声でアフリカと呟いていた。

「お前の言っている意味は分からんが。ここは無限に続く荒野さ。名前なんて知らん。別に来たければ、来れば良いが、治安の良さそうな場所が見つかったらそこで降ろすからな」

「ああ、分かったよ」


 少女は馬に乗ると、タクトの背中に手を回して、ギュッと強く寄せた。振り落とされるのが怖かったのだ。

「おい、遠慮ないなお前。というか胸押し付けんなよ。照れるだろ」

「ああ、悪りぃ」

「しかも、お前危機感無さすぎ。男と二人で旅なんて怖くないのかよ?」

「怖くないよ。俺男だし・・・・」

 少女はあっけらかんとした表情でそう言うと、自分の服の上から胸にそっと触れてみた。

 やはりそこには女にしか見られないふくらみがある。本当に女になってしまったのだろうか。彼女の不安と疑問は晴れない。そしてしばらく無言でいると、タクトがボソッと独り言のように呟いた。

「言っておくが、俺はお前に何かするかも知れないぜ。逃げるなら今だぜ」

「どういう意味だ?」

「お前は勝手に信頼してくれているが、俺だって男だからな。何をするか分からん。せいぜい自分の身は自分で守れ」

「なんだ、おっぱいが見たいのか?」


 少女のぶっきらぼうな発言に、タクトは吹き出した。そして唾をのどに詰まらせたのか、苦しそうに咳き込んでいた。

「馬鹿か、俺は別にそんな・・・・」

 タクトは耳まで真っ赤にして、必死に弁解するが、それが寧ろ自分を追い詰めていることに気が付いていない。

「まあ、同じ男だから分かるよ。俺ので良いなら、別に見せてやるけど。その代わりに置いてかないでくれよ」

「ふざけんな。誰がお前の貧乳なんか見るか」

「え、そうかな~」

 少女は自分の胸を見た。貧乳と呼ぶほど小さくはない。大きさ的には小振りで、確かに片手で掴めてしまうが、特にふくらみがないというわけではない。


「でも、どうして俺は女になっちまったんだろう?」

 少女は、記憶が正しければ、県内の高校に通う普通の男子学生だったはずだ。それがある日、見知らぬ荒野で、日本かどうかも怪しいこの場所で、性別まで変わり、今は知らない男と同じ馬に乗っている。不思議で、また恐ろしかった。この地平線の彼方にまで続いている、無限の荒野を見ていると、酷く心がざわついたのだった。




                                               

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ