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『松下一樹(事件)』 2

『神隠しから生まれし少女』本編第2弾です(^^)

 振り向こうとした松下一樹は異常を感じた。


 後で思い返すと、それから起こった出来事を何故かスローで見たり聞いたりしていた気がする。身体が本能的に超自然的な事態を感じたのかも知れなかった。


 一樹の背後を見ている母親が怪訝そうな表情になっていた。


 塀の上の猫が一樹の背後に向かって唸っていた。毛が総毛立っている。


 急に風が吹いて来た。風切り音も聞こえた気がした。


 振り返った視界に、自転車に乗りながら携帯の画面を覗き込んでいる優衣の姿が入って来た。

 だが、その姿は霞んで見えた。

 榛菜の呼び掛けに答えようと優衣が視線を上げた時に突如犬の鳴き声が聞こえた。あの老犬だった。初めて聞いた老犬の鳴き声には恐怖が混じっていた。

 優衣の姿は益々見え難くなっていた。青白く発光する円柱が視界を邪魔していた。

 その様な状況でも、彼女がバランスを崩して、身体が宙に放り出された事は辛うじて分かった。


 視界の隅に、駆けていく母親を感じた。

 

 抱えている荷物をどうするかを一瞬考えた彼は出遅れた。

 榛菜は年齢からは考えられない敏捷な動きで、自転車から投げ出された優衣の右手を掴むと、自分の胸に抱き込もうとしたが・・・


 一樹はその瞬間に榛菜を見失った。

 優衣も榛菜を見失った様だった。

 起き上がった彼女は辺りを見渡していた。彼女が呼び掛ける声が聞えてきた。その声は震えていた。


「おばさん? 何処に行ったの? おばさん・・・? 返事をして・・・」


 一樹の頭はテレビの特番で見た、去年から頻発している異常現象の細部を思い出そうとしていた。心の中はののしりまくっていた。


『くそ、まさか巻き込まれるなんて』


 彼は荷物を全て放り出して優衣の方へ駆けだした。彼女は呟くような声で榛菜に呼び掛けながら必死の形相で辺りを見渡している。辿り着くまでに一樹の右手は携帯を取り出していた。


「優衣ちゃん、落ち着け。1時間もしない内に戻って来るはずだ。まずはその膝の手当てをした方がいい」


 一樹は二箇所へ矢継ぎ早に電話をした。

 まずは連れの翔太だった。優衣を任せる必要があった。翔太は驚きながらも、直ぐに行くと言って電話を切った。この切替えの速さはこの状況では助かる。

 次は自宅だった。妹の陽菜が出た。母親が『神隠し』に巻き込まれたと口を滑らしてしまったせいで、取り乱してしまった。大声で父親に替われと何回も叫んだ後で、やっと父親に替わってくれた。

 父親の浩史は陽菜と違って冷静だった。必要な物を確認した上で、警察に連絡する際の注意点までアドバイスして電話を切った。一樹は大きく深呼吸して、気持ちを落ち着けてから110番をした。


「もしもし、警察ですか?(『動転して電話すると、間違って消防署に掛ける事もある。馬鹿らしいと思うかもしれんが、警察に繋がったかを念押しで確認しろ』と浩史が言っていた通りに確認した) 『神隠し』に巻き込まれた人が居ます。僕は・・・・・」


 初めて110番に電話をした割には落ち着いて通報したと一樹は思った。氏名も住所も発生場所もすらすらと言えた。だが、完全に平静ではなかったようだった。彼にすがり付くようにしている優衣の事を忘れていた。彼女は自責の念に押し潰されそうになっていた。

 優衣の右手には、まだ榛菜に掴まれた感触が残っていた。犬の鳴き声に驚いて、自転車のハンドル操作を誤って放り出されたままのコースを辿っていたら、『シリンダー』に飲み込まれたのは自分だった。幼馴染の母親を神隠しに遭わせてしまったのは自分なのだと、ひたすらに思った。


「優衣ちゃん、大丈夫だった?」


 見慣れた顔が覗き込んでいた。松下浩史だった。


「おじさん、わたし・・・わたしが悪いんです。ごめんなさい」


 ぎゅっと抱締められる感触がした。彼の心臓の音が聞こえた。その音を聞いて、不思議な事に少し落ち着けた。


「大丈夫。大丈夫だから、足の怪我を診させておくれ」


 浩史と一樹が消毒してから包帯を巻くのを他人事の様に感じながら、優衣はどうしようもない感情のまま泣き出した。

 その隣で陽菜がどうして良いのか分からずに、優衣と現場に落ちている彼女の携帯電話を交互に見ていた。もしかしたら自分のせいかも知れなかった。優衣にメールを送った直後に事件が発生していた。

 現場に到着した翔太に気付いた一樹は、停止の形で手を上げた後で声を掛けた。


「悪い、そこからは右側から遠回りでこっちに来てくれ。携帯電話が落ちている辺りが現場だ」


 翔太は少し驚いていた。電話をもらった時にも感じたが、実際に会った一樹も落ち着いている。小学校から高校まで一緒になった幼馴染の知らなかった一面を見た思いだった。


「優衣ちゃんを頼む。自分のせいで巻き込んだと思って、自分を責めている」


如何でしたでしょうか?


 これから更にドンドン地味になって行きますよ(^^;)

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