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『盛田雄一(この少女の為に)』 1

通算33話目の『神隠しから生まれし少女』です。

 今話から、シリーズプロローグに登場した彼が主役です。

 どの様な中学生時代だったのでしょうか?

「兄ちゃん、早く、早く」


 盛田雄一は弟の健二に手を引っ張られながら、男子更衣室に向かう階段を昇っていた。彼の後ろにはいつものパーティー参加者の男性陣が続いている。

 あの日から二ヶ月が過ぎていた。

 彼らは金岡公園内にある市民プールに来ていた。市営の為にプールの種類が少なく、どちらかと言えば娯楽施設としては貧弱な部類に入る。浜寺公園内の府営プールの方が楽しめるが、今日は葉瑠菜三人の希望で市民プールが選ばれていた。

 コンクリートむき出しの薄暗い更衣室は独特の匂いがこもっていた。だが、雄一は嫌いではなかった。この匂いを嗅ぐと、さあ泳ぐぞという気になって気持ちが高ぶる。

 去年もよく学校が終わってから健二を連れて『葉瑠菜とその一味』と来ていたが、今年初めて来た市民プールは7月最初の日曜日ということもあり、さすがにいつもよりは多い人出だった。なんとかロッカーを確保した男性陣はさっそく着替えを始めた。

 隣で着替えている井植拓海を見た雄一は思わず言ってしまった。


「拓、お前は小学生か? 海パンを家からはいて来るなよ」

「いや、そう言うても、一刻も早く着替えて女子の水着姿を見たいやないか。それとも雄は見とうないんか?」

「そういうもんか? あんまり気にした事は無いけどな」

「雄一君は拓海君より汚れてないって事だよ。『女子』の中に4人も娘が居る父親からしたら、ほどほどにしておいて欲しいがな、拓海君」


 葉瑠菜三人と陽菜の父親の松下浩史が冷やかした。

 彼の身体には古い傷跡が何箇所も有った。左手に三箇所、右胸とわき腹と右足にそれぞれ一箇所、背中にも三箇所が残っている。


「あ、いえ、その・・・、あんまりじろじろ見ないようにします」


 浩史は笑いながら、拓海の肩を軽く叩いた。


「僕にも中学生の時の甘酸っぱい思い出位は有るから、君の気持ちも分かる。しかし、最近の子はませているね。僕が中学生だった時は女の子より、『生えているか?』の方が問題だったけどな。ま、何にしろ、見過ぎて嫌われたくないだろ? でも、昨日買って来た水着を見たら、ちょっと無理かな」

「え、どういう事ですか?」

「昨日、ちょっとだけ見せてくれたんだ。陽菜や田中さん達も一緒に買いに行ったようだが、えらくはしゃいでいたな」


 今度は松下一樹が答えた。それに対して一樹の友人の早川翔太が大きな声を上げた。その声には驚きが多分に混じっていた。


「松下家恐るべし。普通、家族で水着ファッションショーをするか? 絶対に優衣は家では水着を着たところを見せへんで」

「心配するな。父親の了解をもらう為にデザインだけ見せただけだ。それに見てもドキドキせん」

「なるほど、一樹さんは『妹萌え』成分が無いんですね?」


 拓海が余分な一言を言ってしまった。一樹の返事は拓海の頭を上から叩く事だった。手加減をしていたが、コンと可愛い音がした。一樹は翔太の方を向いて言った。


「翔太、やっぱりオタクは俺には分からん」

「心配するな。妹萌えは俺にも無い。それは妹が実際に居ない人間だけの特殊な趣味だ。現実を知れば、そんなもん吹っ飛ぶさ」

「なるほど。似た者同士の二人にも違いが有るんだな。前に言っていたツンデレみたいなモンだな?」


 一樹はよく翔太に、拓海はお前の弟分だよな、と言っていた。そして、オタクの趣味にも種類が有る事を最近やっと分かってきた。多少、的外れのようだったが。


「兄ちゃん、早く行こうよ」


 会話に取り残されていた雄一の手を掴んで、一番『汚れていない』健二が催促した。雄一は慌てて着替えを終わらせて、健二が走らないように注意をしながら狭い階段を降りた。

 シャワーを浴びながら消毒液を溜めた通路を通り過ぎている時に、女性陣の中で一番年上の松田美紀の声が聞こえた。


「みんな、目立つね。あなた達と居ると視線が痛いわ」


 後ろを歩いていた拓海が雄一の背中を叩きながら言った。


「早く行こうぜ」


 振り向いた雄一の目に入った拓海の顔は上気していた。その後ろに居る田所清志は風呂上りと間違えそうなほど顔が赤かった。友人達と違って女子に対して興味が少ない雄一には、何故それだけ興奮するのかが分からなかった。

 

 彼にとっての女子とは一緒に遊ぶには物足りない存在だった。確かに小学校低学年の時は成長の早い女子の方が身体も大きく、遊び相手としても満足していた。

 だが、高学年になるにつれて目に見えない男女の差が発生し始めて、更に体格も雄一が追い付いてからは一緒に遊ぶような女の子は居なくなってしまった。とはいえ、雄一は女子と話す事は苦手ではなかったし、中学校に入ってからは昔以上によく話しかけられるから、女子から嫌われている訳ではなかった。

 とは言え、女子は遊び相手ではなかった。菜々が現れるまでは。


 今でもよくあの日の事を思い出す。健二と一緒にいつもの公園に向かって歩いていると、背後からいきなり見知らぬ女の子に話し掛けられた。


「こんにちは。私は松下菜々。ところで、今晩のおかずは何?」


 あの時、雄一は驚きのあまり一瞬菜々の言葉の意味を掴みそこねた。本能的に健二をかばうように前に出ながら短く答えるのが精一杯だった。


「何の事だ?」


 この子は何者だ? さっきの曲がり角からずっと背後で聞こえていた話し声は5mも後ろだったはず。近付く足音は聞こえなかった。この女の子は木でできた草履を履いているのに・・・。

 雄一の警戒心を一気に引き上げた女の子の連れが追い付いて来た。そこでまた驚かされた。同じ顔があと二人も居る? 

 だが、この頃にはどうやら敵では無いという気がしていた。目に敵意が無かったし、何よりあの忘れられない『自分を見たはずなのに、見ていない』視線の持ち主ではなかった。むしろ、相手をしっかりと捉えている視線だった。

 そして、すぐに分かった。彼女の目には楽しげな色が有る。その視線そのままの口調で女の子は次の質問をした。


「それなら、何が食べたい?」


 答えは雄一の背後から聞こえた。健二が大きな声で質問に答えたのだ。


「ハンバーグが食べたい。しかも大きいの!」

「ハンバーグかぁ。いいな、それ」


 菜々と名乗った女の子は本当に食べたそうな顔で言った後で、後ろに立っていた同じ顔の子に言った。この時にやっと雄一にも髪型が違う事が分かった。


「葉菜、明日はハンバーグにしよ。しかも大きーいの!」

「うん、いいよ」


 また健二が声を上げた。


「いいなぁ、大きなハンバーグ。兄ちゃん、僕も大きなハンバーグ食べたい」


 今度は雄一の横からだった。彼は雄一の背後から顔を出していた。


「分かった、分かった。お母さんに言っておく」

「ぼく、明日うちに食べに来ない? この姉さんのハンバーグは美味しいぞぉ」

「ほんと?」

「本当、本当。お姉ちゃんが保証する」


 健二がじっと雄一を見上げてきた。雄一は健二の顔に久し振りに純粋な願望を見た気がした。我慢をさせる事が多い為に健二はわがままを言わない子になってしまったが、久し振りにわがままを言いたいのだろう。


「分かった。お母さんに頼んでみよう」


 嬉しそうに健二は微笑んで、ぎゅっと雄一の手を握り締めた。雄一は顔を少女達に向けて言った。


「俺は盛田雄一。それと弟の健二だ。悪いけど、ごちそうになるよ」

「喜んで。葉菜のハンバーグは本当に美味しいんやから。そうそう、雄一君は中学一年生か?」


 こうして、盛田雄一は菜々達と知り合った。

 松下菜々は雄一と健二にとって恰好の遊び相手になった。力はそんなに無いが、運動神経は『運動バカ』と拓海にからかわれる雄一を上回っていた。バスケットであっさりと横を抜かれた時は信じられないものを見た気分だった。雄一の知っている女子の動きではなかった。

 それからは学校の昼休みの時間に、菜々とバスケットからバトミントンまでありとあらゆる1on1のゲームをした。その様子を見たクラブからの勧誘も増えて、断ることに苦労したが、菜々と雄一のゲームは昼休みのショーとなっていった。

 学校から帰ってからは、菜々は健二の相手をしてくれた。極端に人見知りする健二も彼女とは直ぐに打ち解けて、一緒に遊ぶ間は楽しそうだった。

 しかも、松下家のパーティーに何回も参加するうちに大人達と話す事にも慣れたようだった。近頃は一人で外を歩く事さえも出来るようになり、近所のおばさんやおじさんに知り合いができていた。雄一と一緒に歩いていても顔見知りになった住民に挨拶をしたり、手を振ったりするほどしっかりしてきていた。



如何でしたでしょうか?

 さて、雄クンの“お話”はどのように転がって行くのでしょうか?

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