『松下陽菜(ニュース)』 2
『神隠しから生まれし少女』シリーズ第30弾です。
のどかなパーティはどの様に転がって行くのでしょうか?
登場人物 (第一部「神隠しから生まれし少女」当時)
松下 浩史 松下家父親。影の主役。
松下 榛菜 松下家母親。怪現象に巻き込まれる。
松下 一樹 松下家長男。高校三年生(西暦2009年時)。ある種の天才。
松下 陽菜 松下家長女。高校一年生。腐女子。可愛いので、男子からは人気がある。
松下 葉菜・瑠菜・菜々 本編の主人公達。内、一人はシリーズを通しての主人公。
早川 翔太 一樹の親友。高校三年生。後に松下家と更に深い仲になる。
早川 優衣 翔太の妹。高校一年生。陽菜の幼馴染。
盛田 雄一 もう一人の主人公。中学二年生。気が付けば運命を捻じ曲げられてしまった子。運動バカ。弟思いの『いい奴』
盛田 健二 雄一の弟。小学四年生。ある事がきっかけで人見知りが激しい。
田中 綾乃 雄一の同級生。中学二年生。引っ込み思案な優等生。
笹岡 啓子 雄一の同級生。中学二年生。元ナイーブないじめっ子。
井植 拓海・田所清志 雄一の同級生。中学二年生。
松田 貴志・杉浦 美紀 浩史の部下。新婚さん。
特別出演 堺市堺区の皆様
「そう言えば、陽菜ちゃん、勉強は付いていけそう?」
松田貴志がお肉を頬張りながら陽菜に訊いてきた。その隣では嫁の美紀がお肉を引っくり返していた。彼らは無事に去年の冬に結婚して、新婚生活を満喫していた。
「いやー、ちょっと場違いな所に来ちゃったかな?って最初は思ったけど、最近は何とかペースを掴めたから大丈夫。でも周りがみんな頭いいっていうのも疲れるね」
陽菜の横でウィンナーをかじっていた早川優衣がうんうんとうなずいた。
彼女は別の府立高校に進学していた。優衣はあの神隠しの日から葉瑠菜三人の退院までの間は情緒が不安定だったが、陽菜に付き添って毎日のように見舞いに行ってくれた。
そんな彼女は家族と松田夫婦以外で最初に葉瑠菜三人と仲良しになって、徐々にいつもの優衣に戻っていった。陽菜とは今も頻繁にメールを交換している。そう言えば最近気になる男の子が居ると送って来ていた。
優衣がにこにこと笑いながら言った。
「確かにひなちゃんはM国丘高校ってキャラじゃ無いよね。でも中三から勉強して入れちゃうんだから偉いよ。私の担任もびっくりしてた」
「うー、もっとほめて、ほめて。これからは勉学に目覚めた松下陽菜を目指しますデスよ」
陽菜のクラスの女子にオタクが居ない事とクラブに入らなかったせいで、彼女は時間が余ってしまっていた。
だから平日は家事が終わると(もっとも、料理は葉菜がするし、後片付けは菜々が、掃除は瑠菜がしてくれるので洗濯くらいしかしていなかったが)勉強する事が増えた。
優衣が尋ねた。
「でも、彼氏は作らないの? ひなちゃん、もてるのに」
「今日、これで二回目だよ、そう言われたの。そんなに彼氏欲しそうに見えるのかな?」
「いや、単純に勿体無いなって思うけどね。な、美紀?」
「うん、そうね。陽菜ちゃんくらい可愛ければ、彼氏の一人や二人は居てもおかしくないのにね」
「よし、それなら作ろう。翔ニィ、来週の日曜日、映画に付き合って」
「おいおい、えらく身近なところで手を打つんやな。それに連れの妹に手を出したら後が怖いやんか。ほら、一樹がにらんでるで」
急に振られた早川翔太は呆れたように返事をした。その横に居た一樹と美咲の顔は好対照だった。特に美咲は笑いが止まらないのか、箸がぷるぷると震えている。
「いや、本当の恋人が出来るまででいいの。オタクで、かつ勉強を見てくれそうだもん」
その答を聞いた一同の反応は、こりゃしばらく彼氏が出来んな、というあきらめ顔だった。美咲はついにしゃがみこんでいた。一樹が何を勘違いしたのか、背中をさすっている。
「まあ、映画くらいやったら付き合うけど、カズキ達と一緒だぞ? 二人だけで行ったら、それこそえらい目に遭いそうだ」
「うん、別にええよ」
そう答えた後で、陽菜は自分の話題から引き離そうとして田中綾乃に話を振った。
「綾乃ちゃん、新しいクラスはどう?」
「女子はそんなに変らなかったから良かったけど、井植君と田所君が別のクラスになったからちょっと可哀想なの」
「確かにね。二人とも『葉瑠菜命』って感じだもんね」
話題の二人は浩史と話している葉瑠菜三人の周りから離れなかった。
「休み時間は絶対来るし、お昼も一緒に食べてるの」
「まあ、うちらは1年の時から有名人やったから周りも認めてるみたいやし。『葉瑠菜とその一味』って言われてんねん。ちなみに女子の一番人気は雄一やけど、拓海も清志もそれなりに人気有るで」
綾乃の返答に笹岡啓子が追加の情報を足した。
彼女は一年前に比べてずっと大人っぽくなっていた。
昔の彼女からは信じられないが、今では同級生からも信任も厚く、よく相談を受けているそうだった。
「へー、そうなの?」
「清志は三人にべったりな点を除いたら背も高いし、顔もそこそこええからな。拓海はあの性格やろ? オタクやのにそれっぽくないし、話も面白いって、一部の女子に人気やねん。一度見た事あるけど、雄一とカップルのマンガも有るねんで」
「えー? で、どっちが受け?」
陽菜は思わず訊いた。かなり腐女子成分が混じった声だった。
「よう分からんけど拓海が積極的やったような気がしたけどなあ。余りにもアホらしいて、最後まで読まんかったから結果は分からんねん」
「私も途中でやめたよ。男の子同士ってやっぱり変だもん」
「でも、うちに見せたんは瑠菜やで。最初に読んだ菜々は笑いっぱなしだったけど、葉菜なんて真剣に読んでたわ。あげくに瑠菜がうちに『たまには変なのも読まない?』って押し付けたんや。あの三人の趣味は時々付いていけんわ」
陽菜はちょっとした罪悪感でうつむきながら言った。
「あ、それは私の影響かも? ほら、三人の記憶って古いから、お父さんとあの三人が昔のドラマで盛り上がってると誰も入れないのよね。『北の国から』とかは聞いた事が有るけど、『あばれはっちゃく』だったかな、なんかで盛り上がられたらもう何がなにやら。思わず私、対抗しちゃって読ましたの、そういう本」
一同は呆れていた。松田が代表して口を開いた。
「ひどい姉だな。もう少しまともなのを読ませばいいのに」
「うん、ちょっと反省してる。でも面白がっていたよ」
「まあ、この状況をあっさりと受け入れた子達だからな。面白がってもおかしくないか」
どうも今日の自分は地雷を踏みまくっている気がした陽菜は何とか話の流れを変えたくて、また綾乃に話を振った。
「新しい担任の先生はどうなの? 左島先生だったよね?」
「いい先生ですよ」
「確かにベテランだし、授業も分かりやすいよね。後は結婚出来るか? だね」
「本人は半分諦めてるみたいやけどね。でも結婚といえば、水野先生の離婚と出産は予想外やったなあ。まあ、2学期からまた出て来るみたいやけどな」
「実際のところこれからが大変だろうね。生徒の親もうるさいだろうからね」
松田が大人の意見を言った。陽菜はさっきの仕返しとばかりに松田を少しからかった。
「まあ、それでも浮気は許せんかったって事だろうね。松田さん、浮気は高く付くよ」
「ああ、勿論しないよ」
「そう言えば子供はまだなの、松田さん?」
「こればっかりはね。結婚よりも思い通りに行かないからね」
「そうだよね。我が家は5人も子供が居るから、鈍感になっちゃうな。そうそう、お父さんから聞いたけど主任に昇進したんだって。おめでとうございます」
「ありがとう。と言っても部下が増える訳じゃないけどね。むしろ頼りになる女子社員が異動になって、かえって下っ端になったよ」
「貴志さん、それは仕方ないって。同じ部署に夫婦が居たらおかしいからね。大丈夫よ、来年こそは新入社員が入って来るって。でも中途採用の方が可能性高いかもね」
ぼやいた松田を妻の美紀が慰めた。
「そうだね、従業員100人弱の会社じゃ、中途入社の社員しか来ないよなあ」
「会社は儲かってるの? 社員が増えたって聞かないけど」
「結構儲かっているよ、うちの会社。技術力も世界有数だし、特許も持っているからね。もっとも学生に知名度が無いから新入社員が入って来ないのさ。僕が就活していた頃とはえらい違いだよ。課長に引っ張ってもらって、やっと就職できた僕から見たら、今の学生は贅沢過ぎるな。そこで会社をアピールする為にも、いっそ三姉妹を会社のキャラクターにして売り出したらどうだろうって、副社長が言い出してさ。危うく決まるとこだったんだよ」
「そりゃヤバイ。変な奴が殺到するよ」
「確かになあ。神秘のベールに包まれた分裂三人娘をパンフレットで見られるかもしれんって事になったら、説明会は変なので満員になるで」
「結局、課長が反対してポシャったけどね。もし計画が通っていたら予想も出来ない混乱を引き起こしていたか、警察が強引に潰していたかのどちらかだろうけどね」
「ああ、そりゃそうだ」
彼らの脳裏にここ二ヶ月間の騒動が浮かんだ。陽菜にとっても激動の日々だった。M国丘高校合格とその入学前後で忙しい思いをしていた時に、追い討ちをかけるように発生した事態が濃密な記憶を伴って思い出された。
それは葉瑠菜三人が協力して、K大で行なわれた実験が発端だった。
未だに解明されていない、映像を記録できない現象の秘密を探る為にレーザー光を三人に当てて、反射を調べる実験だった。人体に危険が無い低出力レーザー光のはずが、全くの人的ミスにより火傷するほどの出力に設定されたまま葉菜の腕に照射された。レーザー光は彼女の腕を貫通してしまった。傷一つ付ける事無く。
この現象はK大内部に大きな波紋を広げ、瞬く間に外部に漏れてしまった。その結果は学会だけでなく、各国の情報機関の日本での活動を更に活発なものにした。
もしこの現象を解明出来れば、学問よりも軍事技術上のメリットに計り知れないものが有るからだ。国内に潜伏している工作員の数さえも把握できていない貧弱な日本の防諜能力では、葉瑠菜三人に対する有害な計画を掴む事は不可能に近い。
それからは拉致の危険性との闘いになっていた。マスコミが芸能人の起こした殺人事件をとんでもない重大事件発生のように報道し、世間も平和な日常を過ごしている中、パーティーに参加する身内と、神隠しが発生してから三人の警護を担当していた堺警察署及び警察庁警備局の関連部署は危機感を抱いて警戒レベルを上げていた。
危険性は4月中旬に発生した拉致未遂事件で現実になってしまった。
新学期が始まって一週間が過ぎたある日、いつものように集団で健二を小学校まで迎えに行って、下校している時の事だった。道端に停まっている黒いワンボックスカーを見た瞬間に菜々が急に立ち止まって、みんなに提案した。
『道を変えよう。あれ、やばいわ』
計画がばれたと分かった瞬間に急発進したワンボックスカーはあらゆる道交法を無視した挙句に逃走に成功した。
逃走中に何台ものパトカーを銃撃で撃破した為に、その後半月近くもマスコミが取り上げたが、背後の組織は不明のままだった。
ただその手口から、国内の犯罪組織では無いという見解は一致していた。使用された火器が足の付かない自動小銃とRPGだった事から大掛かりな組織という事と、いざとなった時の手加減の無さが軍組織もしくはそれに準ずる組織の関与を匂わせていた。
それからは警察が機動隊を前面に出した警護に切り替えた為に同様の事件は発生していない。大阪府警は24時間、自宅付近と通学路に機動隊一個小隊を配置していた。
そのおかげで三人が一年近くも掛けて、せっせと付近の住民に愛想を振りまいて築き上げた『フレンドリー』というイメージがダウンしたが、やっと最近は機動隊員が居る光景に慣れたのか、住民も元の友好的な雰囲気に戻っていた。
そして、意外と大きなポイントとなりそうな事が浮上していた。
この一年間、新たな『神隠し』は発生していなかった。
如何でしたでしょうか?
今後の展開が、なんだか嫌な予感がする今日この頃です(^^;)




