第三章 『松下陽菜(ニュース)』 1
さあて、『神隠しから生まれし少女』 第三章に突入します。
『起』『承』『転』『結』の『転』の章です。
物語はどの様に転がっていくのでしょうか?
「葉菜ちゃん、ウィンナーを持って行くよ」
「うん」
松下陽菜は何種類かのウィンナーを山盛りに載せた大皿を、庭に用意しているテーブルに持って行った。庭は焼肉パーティー会場と化していた。
松下榛菜が『神隠し』に遭ってから一年が過ぎていた。
今日、平成21年5月24日は退院1周年記念としてパーティーが開催されるのだ。庭のあちらこちらで準備が進んでいた。
「あ、そこに置いてといて」
小平美咲が置き場所を指差した。
退院記念の時のメンバーに追加で兄の松下一樹の恋人の美咲が参加していた。
たまたま用事が有ったせいで退院記念パーティーに参加出来なかった事が悔しかったらしく、その後の松下家のイベントには必ず参加していた。
陽菜もさっぱりした性格の彼女が好きだったので、イベントが企画される度にメールで教えていた。
なんせ、一樹は企画の細かいところを伝達し忘れる事があった。よく未だに美咲に捨てられないものだと思う。
「そろそろ、お肉も出した方が良さそうや。手伝うわ」
美咲はそう言って、台所に向かった。陽菜も一緒に向かいながら話し掛けた。
「美咲さん、カズニィと上手くいってる?」
「うーん、そうね、まずまずやで」
「前から不思議だったけど、カズニィのどこがええの?」
「どこやと思う?」
「多分、無いと思う。頭がええのは認めるけど」
「はは、意外と一樹はもてるよ。今年のバレンタインデーもチョコを貰ってたし。ま、私の場合は性格と頭の良さかな。ほら、自分を格好よく見せるって事をせえへんやろ。ありのままでしか生きて行けんタイプは最近おらんからな。要は天然物だからって事」
「分かんないや」
「はははは。それはそうと、そういう陽菜ちゃんこそもてるやろ?」
「中学時代はそこそこ。でもオタクという本当の私を知ったら引きそうだから、付き合った事は無いの」
「ま、それでもいいって子がおったら、付き合いや。でも、うちの学校って、勉強が大事って子が多いからつまらんかもね。なんせメガネ率が高い、高い」
陽菜は今年から兄や美咲達と同じ大阪府立のM国丘高校に進学していた。理由は単純で、家から近いからだった。一見不純な動機に対して理不尽なほど高い難易度は必死の受験勉強でカバーした。
真剣に勉強すれば『出来る子』の陽菜がやる気を出した事を喜びながら、志望校を聞いた時の担任の第一声は『お前の家が大変なのは分かる。だが、それより大変だぞ』だった。
訳の分からない例えはともかく、陽菜は生まれ変わったように勉強した。家族も後押しをしてくれた。もっとも通学しだした後で多少は後悔した時期が有るのも事実だった。
だが、兄の一樹を少しは見直す結果にもなった。ろくに勉強をしてない癖に、あの学校で学年トップクラスを維持する事の難しさを実感したからだった。
それでも今は満足していた。あの子達に何か有った時に、直ぐに帰って来る事が可能な通学時間5分は何物にも替え難かった。
あれから一年間、松下家は毎月のようにパーティーを開いていた。手巻き寿司パーティーや闇鍋パーティー、クリスマスにバレンタインデー、バースデーに結婚祝いや入学祝い、理由は何でも良かった。とにかく、わいわいがやがやと食べて、飲んで楽しめたら良かった。
如何でしたでしょうか?
第三章の出だしは、のどかなパーティー風景から始まりました。
どの様に転がっていくのでしょうね(^^;)




