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『笹岡啓子(肉食動物の少女)』 1

本編19話目、通算では22話目です。


 また新たなキャラが登場します(^^)

 事件は葉瑠菜三人の登校二日目の昼休みに起こった。


 笹岡啓子は昨日から不機嫌だった。

 例の三人組が自分のクラスに編入された事で、休み時間には他のクラスや上の学年の生徒も入れ替り立ち替りやって来ては、廊下から教室を覗いていった。男子だけでなく女子さえもアイドルを見に来るかのようなはしゃぎようだった。

 中には教室内にまで入り込んでいる生徒もいた。まるでクラス自体が見世物になった気分だった。

 そして、家でも両親と姉から三人の様子を訊かれた時に、ついに彼女の感情が爆発してしまった。彼女は感情むき出しで声を荒げた。


「何よ、私の事は訊かないくせに、あの三人の事なら訊きたいって、どういう事や? そんなに気になるなら、学校まで見に来たらええやないか!」


 一度決壊した防壁は、次々とあふれ出て来る感情によって簡単に破壊されていった。


「どうせ私の事なんか、赤の他人より興味が無いんやろ? どいつもこいつも三人の事しか目に入らんのや! あんたらみんなウザいんや!」


 そこまで叫んだところで、やっと啓子は我に返った。家族の視線が怖くて、逃げるように自分の部屋に走った。それから家族は1時間おきに彼女の部屋に来たが、啓子は話したくないと言って部屋の鍵を開ける事は無かった。

 今朝は顔を合わせても、一言もしゃべらずに登校していた。

 彼女にとって、家族は味方ではなく潜在的な敵だった。家族の何気無い言葉や、仕種が常に彼女の心を傷つけていた。

 成績がトップクラスで、誰からも好かれる性格の三つ上の姉が両親の愛情を奪っていた。姉本人にはその気が無い事と、共に教師をしている両親も表面的には啓子の事を気に掛けているという事が余計に啓子の劣等感と嫉妬心を拡大させていた。


 小さい頃から、彼女は他人の感情や場の空気を読む能力に長けていた。

 だから、家族の気持ちが必要以上に分かってしまっていた。例えば、両親は姉をほめた後で啓子もほめる事が多かった。啓子はついでにほめられているような後味の悪さを感じていた。小学校低学年の頃は本当にほめて欲しくて、啓子なりに勉強や学級委員に立候補したりして努力した。

 だが、姉を上回る愛情を受ける事は無かった。

 教師という職業の親が教育的な配慮で仕方無く自分もほめていると理解し始めた小学5年生になる頃には、啓子の心の中の負の空間は強固なものになっていた。その矛先は家族に向かわずに、同級生に向かって行く事になった。

 彼女は『良い子』を演じる為に、空気を読まずにしゃべり続けたり、空気を読めずに関係の無い話をしたりするような友達に小さい頃から我慢を重ねていた。

 そしてついに小学5年生のある日、友達の一人に我慢が出来なくなって、友達グループから排除した。その子は活発で自信満々な態度の子だったが、啓子が行動を始めて一週間後には別人のように落ち込んでいた。その経験は彼女に楽しさをもたらした。気に入らない人間を自分の力でもてあそぶ事は禁断の果実だった。

 それからは、彼女はいじめという手段で精神のバランスを辛うじて保っていた。


 そして昨日、その手段が使えそうに無い闖入者がやって来た。

 その事は目を合わせた瞬間に分かった。家だけで無く、学校でも日陰の存在になってしまう事は、考えただけでも耐えられない事だった。

 

 その日、葉菜、瑠菜、菜々の三人は昼休みが始まってから登校して来た。以前から予定されていた検査の為に、午前中一杯を病院で過ごしていた。

 学校に登校して来た彼女達は三人とも学校指定の大きなカバンを左肩に掛けていた。昨日の帰り道に綾乃から『みんなは背負ってるよ』と言われていたが、彼女達は自分の流儀を通していた。菜々の返事は『背中に背負うと恰好悪いで。こっちの方がええわ』だった。世代の差が意外な所で出る好例だった。

 世代差と言えば、もっと違う点が有った。一クラスの人数が大幅に減っていた。思わず菜々が『スカスカや』と雄一に文句を言っていたが、雄一に言っても仕方が無い。


 綾乃や雄一たちは教室に居なかった。きょろきょろしている菜々に、何人かのクラスメートが声を掛けてきた。


「今日は何を診てもろたん?」

「まだ、悪い所があんのか?」


 菜々がまとめて答えた。


「うん、有るねん」


 その顔は『心配してや』と言っていた。


「今日こそは、瑠菜の性格の悪さを何とかしてもらおうと思ったけど、先生もお手上げやったわ」


 瑠菜は菜々の頭を軽くはたきながら言った。


「皆が本気にするから止めなさい」


 菜々はクラスメートに同意を求めた。


「奥さん、見ましたか? 性格が悪いだけやなく、暴力まで振るうてまっせ。絶対、瑠菜の脳波は私と違って、とげとげが一杯やで」


 瑠菜ではなく、葉菜が菜々におっとりと言った。


「そういう菜々の脳波はフラットやったで。先生もびっくりしてた」

「え、ほんま? あかん、瑠菜より先に治してもらわな」

「嘘や」


 菜々はほっとした顔をしながら葉菜に言った。


「あかんて・・・ あんたが言うと、みんなが本気にするから止めてや。心臓が停まるかと思うたわ」


 葉瑠菜三人による姉妹コントは周囲の笑いを誘っていた。

 だが、三人が同時に言った言葉で笑いは中断された。


「で、綾乃ちゃんはどこ行ったん?」

「それで、田中さんはどこに行ったの?」

「そんで、綾ちゃんはどこ行ってんのん?」


 その場に居たクラスメート全員が言い難そうにしながら『知らない』と言った。


 一瞬の間を開けて、瑠菜が言った。


「そう。菜々、トイレに行くのでしょ?」

「勿論。一緒に行ってくれるんやろ? 瑠菜、葉菜」


 三人はごく自然な態度でトイレに向かった。その姿はどう見てもトイレに行くとしか思えなかった。

 だが、クラスメート達は三人の言葉と行動が嘘だと分かっていた。こっそりと後をつける事にした。

如何でしたでしょうか?


 地味に物語は転がって行きます・・・・・

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