『水野幸代(大人の臨界点)』 3
『神隠しから生まれし少女』本編18話目、通算21話目を公開します。
3人の少女が及ぼす影響とか?
最初の休憩時間が始まると、葉瑠菜三人は瑠菜の前席に座っている綾乃に話しかけた。
「綾乃先輩、うちらが行っていた中学校はN中やから、ここはよう分からんねん。色々教えてや、先輩」
「そうね、トイレもどこにあるか分からない位だから」
「うん、いいけど・・・・」
綾乃の答えは歯切れが悪かった。その時に男子の声が聞こえた。
「なんで教えてくれへんかったんや?」
雄一だった。彼の横には、ぽーとした顔の井植拓海も居た。
「いや、うちらも知らんかったんや、なー?」
菜々の問い掛けに残る二人はうなずいた。
「そうか。ま、ええわ、綾もおるから丁度ええかも知れんな」
「でも、えらい自由な校風やな? 陽菜ネェから学校で携帯使うたらあかんって聞いてたのに、みんな使いたい放題や」
「このクラスだけや。先生が注意せえへんからな。他のクラスの奴に聞いたら、没収されるって聞いたで」
「ふーん、それでか? ま、うちらの迷惑にならん限りかまへんけどな」
「あのー」
それまで雄一の横で会話を聞いているだけだった拓海が発言の許可を求めるかのように片手を上げていた。周囲もいつの間にか人だかりが出来ていた。
「うん? なんや?」
葉瑠菜三人の視線をまともに受けて、更にしまりの無い顔になった拓海がしどろもどろになりながら話し出した。
「いや、あのな、あなた達は知り合いなのかな?って思って」
「気色悪いから中途半端な標準語を使うなよ。知り合ったのはたまたまや」
答えたのは雄一だったが、口調も説明もそっけなかった。
まさか路上でいきなり話しかけられたとは言えなかったからだ。そんな事を言えば誤解されるのは確実だった。
「そうか? 田中は?」
「え、私? スーパーで夕食の買い物をしている時に話しかけられて・・」
「あー、お前んとこはお前がメシ作ってるもんな。そんで何話したんや?」
「晩ご飯のおかずは何?って聞かれて、その後で家に呼ばれたの」
「田中、何故俺を呼ばんのや? 直ぐに行ったのに」
その時に菜々が拓海に話しかけた。その声は不思議そうな気持ちが出ていた。
「なあ、君、どうでもええけどすごい寝癖やな。ま、それはおいといて、本人らを前にして、愚痴ってどうすんや? 家に来たいんか?」
拓海は真っ赤になりながら、何回もうなずいた。菜々は雄一の方を見て尋ねた。
「雄クン、この子はええ子か? 家に呼んでも大丈夫か?」
雄一は即答した。
「ちょっとオタクやけど、ええ奴や」
「雄、オタクは余計や。それに前から言うてるけど、オタクに悪い奴は居てへん」
「ほんなら今度の日曜日に家に来るか? 身内で入学祝いのバーベキューするねん。一人くらいやったら呼べるで。浩史さんもオタクやから話しが合うかも知れんし」
「行く、絶対に行く! お父様にご挨拶もする!」
「いや、そんなに力まんでもええで」
その時に綾乃が立ち上がった。
「ん? どっか行くんか?」
「お、おトイレ」
「あ、うちらも行く。綾乃先輩に場所を教えてもらわんとなー。ちゅう訳で、雄クンとその友人Aは留守番しててや」
雄一はあきれたといった顔で答えた。
「おいおい、この状態をどうしろって言うんや?」
葉瑠菜達6人の周りにはぎっしりと人だかりが出来ていた。他のクラスの男子生徒も紛れていた。
菜々は何でも無い顔で言った。
「ええか、女の子が一緒におトイレに行く事は大事な儀式なんや。みんなには雄クンの初恋の話でもしとき」
「無茶言うな」
菜々が先頭に立って、4人は人垣を突破して行った。
残された雄一と拓海は一斉に質問攻めに遭った。特に雄一に対してはあだ名で呼ばれた事から容赦が無かった。
休憩時間の最初から、その様子を友好的でない目でチラチラと見ていた女子の小集団があった。その集団のリーダーらしき少女はややきつい感じはするが、クラスでは田中綾乃と男子の人気を争う少女だった。
だが、浮ついたクラスメートはその険悪な視線に気付いてなかった。世界的な有名人が身近に来るなんて事は普通の中学生にとってはほとんど無いし、ましてや美少女なんて偶然は運命のいたずらでしか有り得なかった。
しかも、彼女達は思ったより気さくだった。最初は思わず身構えたクラスの女子も、今では彼女達と友達になりたいと思っていた。そんな雰囲気では、その少女の視線に気付くはずも無かった。
幸代はその日一日の授業を終えて、自分の机まで歩いてくると椅子に倒れ込むように座った。隣の席の左島先生が労ってくれた。
「お疲れさま。大変だったようだね」
左島大助先生は少々メタボリックシンドロームが心配な体型の教師歴15年の中堅だった。
人懐っこい性格と面倒見が良い為に、若い教師の相談役としてこの中学校に居なくてはならない人物だった。
「ありがとうございます。でも、どうして大変だと分かったんですか?」
「教室から帰ってくる度に疲れが顔に出てたよ」
「そうでしたか? 確かに今日は疲れました。でも」
幸代は机の上に置いていたメモに目をやって、左島先生の方に顔を向けた。
「まだまだ疲れそうです。呼ばれているので、校長先生の所に行って来ます」
「ああ、それは疲れそうだ。頑張って」
「はい、頑張ってきます」
校長の話は予想通り、三人の少女に関してだった。幸代は感じたままを報告した。
ただ報告しなかった事もあった。三人には自分よりクラスを指導する力が有る、という感想だけは言えなかった。彼女は自覚していなかったが、教師としての意地が戻って来る前兆だった。
クラスの雰囲気をかき回して全く別の形に焼き固めて、葉瑠菜三人の登校初日が終わった。
如何でしたでしょう?
なんだか、SFと言うには地味過ぎる展開の今日この頃(^^;)




