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『水野幸代(大人の臨界点)』 2

『神隠しから生まれし少女』本編17話目、通算20話を公開します。

 異常な状況から誕生した3人の少女たちの登校初日は、どの様なものになるのでしょうか?

 教室は幸代から紹介される前から大騒ぎになった。

 男子達は口笛を吹くか、携帯で撮影するかのどちらかだった。女子は女子で警戒心と好奇心の眼差しをしていた。

 ただ、盛田雄一と田中綾乃の二人は信じられないという顔をしていた。昨日も一緒に遊んだが、何も言っていなかったので、まさか自分達のクラスにやって来るとは考えていなかったのだ。


 幸代は騒ぎが収まるまで待ったが、なかなか静まらなかった。仕方がないので三人に自己紹介するように言った。幸代を見る三人の目は興味深そうな色が浮かんでいて、口の端を上げて苦笑する仕種が同じタイミングだった。

 彼女達は一言もしゃべらずに、教室をゆっくりと見渡した。目が合った男子生徒達が一人、また一人とおとなしくなっていく。女子生徒は全員が怪訝な顔になっていた。

 雄一は男子で唯一怪訝な顔をしていた。彼と目が合った彼女達の目はいつもと同じように、何かを面白がっているような目だった。

 しかし、他の男子生徒は目が合うと急におとなしくなってしまう。後ろの席に座っている小学校からの友達の井植拓海を振り返ってみた。別に催眠術を掛けられた訳では無さそうだった。

 彼は恥ずかしそうな顔をしていた。

 彼のそんな顔は初めて見た。

 目が合った時に彼は下を向いてぽつりと呟いた。


「何だよ? ほら、前を向けよ」


 雄一は驚いて、更に周りの顔を見た。男子全員が恥ずかしそうな顔をしていた。

 その時に声が聞えた。雄一は慌てて前を向いた。


「初めまして、皆さん。私は松下菜々です」


 黒板に瑠菜が間を空けて三人の名前を書いていた。名前の右横に葉菜が各自の髪型のイラストを描いていく。かなり上手だった。


「さて、三人とも同じ顔をしているので、髪型で見分けて下さい。いかにもなポニーテールをしているのが瑠菜。おとなしそうな髪型をしているのが葉菜。次にこの名前になった理由を説明しましょう」


 瑠菜が新しい名前を書いた。


『松下 榛菜  まつした は る な』


「これが三人の元の名前です。同じ名前ではこんがらがって、家の中でも困るし、戸籍を作るのもややこしくなるので、父親の提案で、あ、父親と言っても血は繋がって無いですけどね。で、その父親が元の名前の、は、る、な、の三文字を割り振って名前を付けてくれました。まとめて呼ぶ時は頭の文字を続けて、『葉瑠菜』となります」


 菜々は教室を見渡してから、手をうちわのように振りながら急に口調を変えて説明を続けた。


「いやー、慣れへん言葉遣いは疲れるわ。でな、結構、三人とも気に入ってんねん。ついでやからなんか他に聞きたい事あらへん? 質問がある子は手を上げてや」


 雄一が驚いた事に、次々と男子生徒が手を上げていた。

『授業では手を上げへんのに』 思わず心の中で突っ込んでいた。


「あ、そこの寝癖のひどい子。何が聞きたいんや?」


 拓海が真っ先に当てられていた。


「スリーサイズは?」

「お約束やなあ。でも、聞くのは未だ早いで。最初に訊くのは恋人がおるか? やろ。ま、一応教えといたろ。葉菜、瑠菜、自分の順番で、22.5、22.5、22.5や。どや? すごいやろ?」


 残念ながら、クラス全員がどうすごいか分からなかった。幸代も分からずに、ぽかんとしていた。


「あ、ごめん。すべってしもうた。それは足のサイズやろって、突っ込んでもらわんと、恥ずかしいやんか」


 やっとみんなが納得した顔をした。


「いや、あんたら、うなずいてるとことちゃうで。あかん、うちはこの時代のギャグとずれてるみたいや。折角、昨日から考えてたギャグやったのにショックや。自信無くしたわ」


 菜々はそう言って、何気無くカツラを取って頭を拭って見せた。やっと教室は笑い声に包まれた。


「あんたら、ベタなギャグには反応するんやな。今のはゴキブリホイホイの床なみにベタベタやで。それにしゃあないやろ、一ヶ月前は丸坊主やったんやから。まあええわ。後は瑠菜に任せるわ」


 替わった瑠菜はごく事務的な態度で、クラスに訊いた。


「他に知りたい事は? 奥田君」


 一瞬で名札を読み取って、瑠菜が三列目の男子を当てた。彼女は標準語のままだった。


「恋人はおるん?」

「残念ながら居ません。それに当分は恋人を作る予定も有りません。さて、そろそろ先生の我慢も尽きるので、質問を打ち切ります。先生?」


 男子が不満の声を上げた。

 幸代は声を掛けられずにいた。

 ここでみんなに静かにと言ったら、また何を言われるかと思うと声が出なかった。

 大きな破裂音がした。瑠菜が両手を打ち合わせた音だった。一瞬で雑音が消えた。

 幸代と瑠菜の目が合った。理由は分からないが、幸代の心配が減った。


 三人の机を教室の最後列に運び入れる間も教室はいつもと違って静かだった。

 そして、幸代がこのクラスを受け持ってから初めて、まともなホームルームが出来た。


 それは幸代に、少ないながらも久々の充足感を与えた。


如何でしたでしょうか?

 まあ、一言で言えば相変わらず地味ですね(^^;)

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