『田中綾乃(草食動物の少女)』 2
『神隠しから生まれし少女』本編第14話です。
前話で『神隠しから生まれし少女』たち3人の友達にされてしまった少女視点の第2弾です。
一行が辿り着いた家は少々くたびれているが、かなり大きな一軒家だった。住宅が並んでいる土地の角地で、綾乃が知っている限り昔に一度車が突っ込んでいた。
実は彼女も小学生の時に自転車に乗っていて、同じ交差点で事故に遭っていた。
中央環状線とつながっている『けやき通り』に出ようとした車と接触したのだ。この交差点は手前にカーブが有る為に見通しが悪く、急いでいると交差点の先の信号に気を取られて出会い頭の事故につながりやすかった。
車に突っ込まれる経験をした門扉に貼られた警備会社のシールが真新しかった。綾乃の視線に気付いた菜々が教えてくれた。
「それね、最近契約したらしいで。何か最近は物騒やし、うちらが有名人やから念の為にって、浩史さんが申し込んだんやって」
「浩史さん?」
「えーと、この家のお父さんで、うちらの旦那さん」
「え? あー、そうなるのかな? でも中学生を奥さんに出来るんですか?」
「未だ戸籍はそのままやからね。ね、カズニィ?」
「ああ。三人は俺の母親のままだよ。もっとも、来週付けで特別処置が採られる事になっている」
「中学生で母親って、ドラマでもありえんで。しかも三人とも母親なんて、変やで。なぁ?」
先に玄関に入った菜々が振り向き、笑顔を見せながら言った。
綾乃が返事に困っていると、更に笑顔を広げた。そして誘導するかのように右手を玄関の奥へ広げて、声を掛けた。
「狭いけど、さあ、入って、入って」
「お邪魔します」
玄関は綾乃の自宅よりやや広いくらいだった。靴を脱いでいる時に瑠菜がスリッパを出してくれた。ひよこのイラストが入った可愛いスリッパだった。後から入って来た一樹が笑いを含んだ声で言った。
「まあ、一人が三人に分かれる方がよっぽど変だがな」
「そんな事言ってると、もう一回分かれるで。そうなったら九人になるな」
菜々は自分で言った冗談に声を上げて笑った。
キッチンで買って来た食材を冷蔵庫に移していた葉菜が綾乃に声を掛けた。
「田中さんの荷物も入れとくで」
「う、うん。ありがとうございます」
綾乃は圧倒されていた。一人っ子の綾乃にとって、兄弟が居る暮らしはドラマやマンガで見たり知ったりする事と、小学校の時にクラスの子達の家庭で経験した事からしか想像できなかった。この家の兄妹達(いや親子か?)はその想像を超えていた。
五人の仲が良過ぎる気がした。
「何か飲む? 牛乳とウーロン茶とコーヒーと紅茶から選んで」
「えーと、ウーロン茶で」
瑠菜がコップで一杯になったお盆を持って、「こっちに来て」と言って、リビングに案内してくれた。
早くも四人が大きなソファに座っていた。リビングは12畳ほどだった。彼らはテレビを見ていた。菜々が自分の横を叩いて綾乃を呼んだ。
「ほら、ここに座って。分裂娘の続報を流しているで」
それは彼女達が来月2日の月曜日から、地元の中学校に通学する事が決まったというニュースだった。綾乃は不思議な気分になった。
『テレビより先に、しかも本人から直接聞いたんだ。もしかして、今、私って、すごい経験をしてる?』
「改めてよろしくやで、田中さん」
「い、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「はは、田中さんってお堅いな。大阪弁とちゃうしな、まるで瑠菜みたいや。それはそうと、うちらはこっちの世界の事をあんまり知らんので、色々教えて欲しいんや」
「は、はい」
綾乃は学校の標語や授業の事、先生の印象を話し出した。自分のクラスの事の説明を始めた時にテレビホンが鳴った。一番近くに居た瑠菜がテレビホンの画像を確認しながら一言二言話した後で、菜々に話し掛けた。
「菜々、雄一君と健二君が来たわよ。上がってもらう?」
「上がってもらって」
しばらくしてリビングにやって来た人物は綾乃と同じクラスの盛田雄一だった。その後ろには弟で小学3年生の健二も居た。
「綾? なんでここにおるんや?」
「も、盛田君の方こそ、どうして?」
「昨日知り合って、今日も来る約束をしてたからや」
「私はさっき知り合ったの」
「ふーん、ま、いいや。菜々、今日は約束通りに公園に行くで」
「うん。と言うことで行っていい? 瑠菜、葉菜」
「いいよ。でも六時までに帰ってくるのよ」
「了解。ごめんな、料理の手伝いをせんで。その代わり、ちゃんと皿洗いするから」
「当たり前や」
「健二君、葉菜お姉ちゃんが美味しくて大きーいハンバーグを作ってくれるからね」
「昨日から、楽しみやってん」
「菜々、張り切りすぎて怪我しないようにね。盛田君、菜々をよろしく」
「ああ、ちゃんと連れて帰ってくるで」
菜々と雄一兄弟は足音軽く出て行った。一樹がくすくすと笑いながら言った。
「楽しそうに行っちゃって。まるでデートに出掛けて行くみたいだ」
「どこに行ったんですか?」
綾乃が一樹に尋ねた。一樹は相変わらず笑みを浮かべたまま答えた。
「ガシに行くまでに窪地の公園が有るだろ? あそこさ。昨日から健二君と野球する約束していたからな」
一樹が言った『ガシ』とは子供達がよく使う『堺東(市役所が在る堺市の中心地)』の略語だった。続いて、陽菜が呆れたように言った。
「でも、よく同じ学年の子を一発で当てるよね? ねえ、瑠菜ちゃん、あんたらには秘訣とか超能力とかあるの?」
「そんな便利な力は無いですよ。でも、もしかしたら菜々には有るかも」
「そうだよな。いきなり話しかけた相手が二人とも同学年なんて、おかしいよな」
如何でしたでしょうか?
地元ネタが出て来ますが、気にしないで下さいませ(^^)




