デートクラブだぜ?
青木玉緒はピッカピカの大学一年生男子。夢いっぱい希望いっぱいで入学したはいいものの、デートクラブなどといういかがわしいサークルに首を突っ込んだばかりに、変人の先輩たちに振り回されることになる。頼りに思うのは同じ学年の川島君だが、川島君もちょっとねえ……。だれか、たすけてー! と玉緒君の声が聞こえてきそうなキャンパスライフです。
ぼくが入った大学に、デートクラブという、なんともイワクいいがたいサークルがあった。
入学式もすみ、キャンパスライフに胸ドキドキできょろきょろしていると、あまたあるクラブやサークルや同好会の面々が、新入部員を勧誘しようと声を張り上げて新入生の袖を引いていた。
そんな喧噪の中でもひときわ人だかりしているサークルがあって、それがデートクラブだった。
サークルに入会するのには簡単な面接を受けて、その面接にパスしたものだけが会員になれるというので、その面接を受けるべくごった返していたというわけだ。
ぼくも当然その混雑の一人になった。
まだニキビの消えあとも生々しい青春のまっただ中にありながら、彼女いない歴十九年の、夢見る純情青年のぼくは、デートクラブという名前だけで脳味噌がピンク色に染まって今にも鼻血を吹きそうだった。
長いこと順番を待って、やっとぼくの順番が回ってきた。
校舎が向かい合って並んでいる舗装路の一角に、簡易テントの屋根を張って長テーブルを置き、パイプイスを据えただけの面接場所に、おおぜいの見物人が取り囲んでいた。
面接に落ちたものには盛大な喝采を、受かったものには嵐のようなブーイングをおくるお祭り気分な野次馬にビビりながら、ぼくも一応かしこまって面接官の前に座った。
長テーブルの中央には無精髭をはやしたボサボサ頭の体格のい男が座っていて、四月の半ばとはいえ、まだ肌寒さの残る風に綿シャツの袖をまくりあげて腕組みしていた。
鼻筋の通ったなかなか苦みばしったいい男だが、大学生にはみえない老け顔と尊大な態度は傲慢そうで、ここに座ったのをちょっとばかり後悔した。
その老け男の右隣は、つんとすました狐顔のほっそりした美人だ。左隣は秋葉系のコスプレファッションが似合うかわいい女の子で、そこに座っているということは、ぼくより年上の先輩なのだろうが、年下にしか見えない小柄な女性だ。
長テーブルの向こうには面接をパスした新入生がひとかたまりになっていて、インテリ風のクールなハンサム部員に入会用紙を渡されていた。
なんだか、パスしたのはみんな男ばかりみたいだけど、目の錯覚かな。
「だから、名前はって、さっきから訊いてるだろうがボケ。何回言わせるんだ」
老け男の声にはっとした。すっかりほかのことに気を取られていた。それにしても、なんて口が悪いのだろう。気弱なぼくは、たいがいなことには目を伏せてその場をごまかすほうなのだが、さすがに厭な顔を隠せなかった。
「青木珠緒です」
「アオキタマオかぁ、うーん、タマオねえ、タマオ、タマオ、タマオ」
老け男はぼくの名前を連発した。もう一回名前を繰り返したら席を立って帰るつもりだった。
ぼくのあだ名は青タマだ。青木珠緒だから青タマなんだけど、すっごくいやだった。青タマだよ? 青タマ。いやでしょう?
「どう思う、こいつ」
老け男が狐美人に訊ねた。
「背、低いわね」
低いのはあなたの声ですけど。
「かわいいじゃないですかぁ」
左の小柄な先輩が鼻にかかって甘ったれた「若くてかわいい女の子の声でーす」みたいな感じに語尾を跳ね上げながら言った。
両方の女子から、どうする? というように顔を向けられた老け男は、顎でぼくのメガネを指した。
「メガネ、とってみろ」
ぼくはメガネを取った。裸眼だと乱視がきつくて世界がぼやけて見える。
「笑ってみろ」
笑えない。おかしくないもん。
「だめだな、愛想なさすぎ。協調性ゼロ、身長少なめ、かわいげゼロ、体力ゼロ、明るさマイナス、目つき最悪」
ぼくはゆっくりメガネをかけてから立ち上がった。
「いいかも……」
狐美人がぼそりと言った。老け男がその一言に食いついた。
「え、ひよりちゃん、いいの? これ、いいの? 気に入ったの?」
狐美人にすり寄って尻尾を振りまくる犬みたいだなと思ったら吹き出していた。あまりのイメージの変わりように笑いが止まらなくなる。腹を抱えて笑い転げた。ロリコン秋葉系の先輩もつられて笑いだした。
「いけるかも」
クールに言い放った狐美人のつぶやきで、ぼくは面接に合格した。
その後も延々と面接は続き、選別された入会希望者は合計で五十人になった。しかも、全部男だ。なんなんだ? このサークル。