街
「おかしー!」という声が店に響き渡る。
「こらっ、静かにしてろ!」
脱獄してから居酒屋に来るまでの間は正直追われていないかビクビクしていたが、特に問題はなかった。
その途中でお菓子を買い、願い事を叶えてやり、本契約となった。
「とりあえず情報を集めなければ…。この街は俺が知ってる2年前と変わっている。使い…呼びずらいな。お前、元々の職業はなんだったんだっと、わかんないんだっけか」
「むぐむぐ、んはー!しょくぎょー?たしかね〜、ん〜とね〜、よーせー!」
「よ、妖精だと⁈」
つい大声で口を滑らせてしまう。
*
[妖精]
太古に廃業したとされる職業。
しかし、姿を見たという目撃例も多いが為、存在するのではと噂になった事もある。
なお、現在の所見つかっていない。
神の使いとも言われ、尊敬と共に、恐怖の存在として恐れている街もあるらしい。
*
慌てて口を手で抑え、恐る恐る周りを見渡す
幸い、皆食べる事と飲む事、それに宴会のように賑やか、むしろ騒がしいくらいであった為、こちらの声は聞こえていないようだった。
安堵のため息とともに自分の迂闊な行動を反省する。
「妖精…なのか?人前には出てこない、あの有名な?」
「うんー!そーだよー!あ〜んっ!むぐむぐ。」
「だ、だが妖精の象徴である羽がないぞ?」
「んぐんぐっ、ごくん。はねー?みたいー?」
いい終わると同時に背中から4枚のライトグリーンの色に透けた、自分の体よりも大きい羽が出現する。
「おいっ、あれなんだ?」
「うおっ、羽があるぞー!」
しまったと思いながら急速反転する。
「あ、あの〜、こ、これはそのっ!じ、実は…」
「いいぞ〜!踊れ踊れ〜!」
「えっ?」
どうやら衣装かなにかと思っているらしい。
「よし、お前は俺のサーバントだ、今はここで踊ってもなにしてもいいが、外出る時に姿を隠す事はできるか?」
「できるー!でもおかしないとむりー!」
「…わかった、もっと買っておく。次外出る時から頼む。あと、オレには見えるようにしてくれ」
「わかったー!」
足早に外にでて、姿を確認する。
オレからは普通に姿は目視できる。
店に入る前に買ったドーナツをガシガシしている。
「お客さん、金払ってってくれよ!」
つい金を払わず出てしまったことに気づく。
「悪い、少し気分が悪くなったものでな。外の空気を吸いたかったんだ。金はちゃんと払うけど、その前に聞きたいことがある。いいか?」
「はぁ、別に構いませんが…。先程のお連れ様は?」
どうやら見えないらしい。
「あぁ、気にしないでください。迷子でしたので。外に出てすぐに母親が連れて行きましたよ」
「はぁ、それならいいですが…。それで聞きたいこととは?」
「あぁ、オレは元々この街出身で2年前旅に出た。今日ここに戻ってきたのだがどこもかしこも変わっている。この2年間で何があったのか、教えてくれないか?」
「お客さん、知らないのかい?2年前って言ったら[勇者]の廃業でしょう」
「それは知っているのだが…。それでどうしてこの街がこんなに変化してしまったのか、それが知りたいのだ」
「…この街にいた勇者の一人が死んだのだ。その勇者には兄がいたらしい。弟が死んだと聞いた兄が暴走したらしくてな。それを止めようと両親が押さえつけていたところに
[騎士]が駆けつけたそうだ。しかし、抑えることが難しいと判断した騎士は両親の同意を得てここから遠く離れた監獄に収監されたらしい。勇者がいなくなってしまったこの街は周りから攻められ易くなってしまった。そこで騎士はこの街を城壁で囲んだ。さらにこの街にいる住民全員に武器の使い方を教わせた。昔あった学校で教えていたのだが、やはり住民全員に教えるのには無理があった。それでも教わせようとした騎士はこの街にルールを定めた。これに従わない場合は学校に数日間閉じ込めるというものだった。今は全員が使い方を学び終えた為、学校としての機能は失っているが、牢獄としての役割を果たしている。あとは商人が職を武器屋に転職したり、八百屋が違う街に移動したりしてしまった。今はこの街は《武器の街》と呼ばれているそうだ。元々は《始終の街》と呼ばれていたのだがな」
「勇者の廃業がここまで影響を及ぼしているのか。それに武器の街…。元々は始終の街…
。初めて聞いた名前だ」
「始終の街というのを知っているのは私くらいだと思うがね。どこかの街のお偉いさんがたまにきてうちの店で『この街は始終の街だったのに…』とブツブツつぶやいているのを偶然聞いてしまったのだよ。聞かれないとこんな話をすることもないからお前さんは2人目だろうね」
「おーい、マスター!ビールよこせビールゥ!ツマミも頼むよー!」
話し込んでしまったのを詫び、支払いを受け取るとマスターは店の奥に消えてしまった。
「…始終の…街…。そ、そんなことよりも兄貴が暴走しただと?それで家族全員知らない土地にサヨナラ⁈と、とにかく確認しなければ!」
「うー、おかしまだー?」
すっかり存在を忘れていたサーバントの声に気づき、とりあえずまたお菓子を買いに行くのであった。